見出し画像

ひんやりムニッと保冷剤

先日夫と娘がコロナ陽性になった。最初に夫が陽性だとわかり、私と娘に移らないように部屋を分けた。2LDKの我が家、一部屋を夫に明け渡し、私と娘はリビングと娘の部屋で生活することになった。夫の食事はもちろん部屋に運んだ。少しでも食べられるものをとにゅう麺を作って持って行った。

「お食事お持ちしました〜」

と京都弁で旅館の中井さんぽく言ってみるも、笑ってもくれないし突っ込んでもくれない。これはそうとうしんどいらしい。食べ終わったら食器を下げに来るのでlineしてほしいとお願いして部屋を出た。その後はもちろん部屋のドアノブを消毒。濃厚接触者だった周りの人たちがいろんな対策方法をネットに書いてくれていて、出来る範囲で実践していった。

次の日の夜、隣で寝ている娘を触るとすぐに熱があることが分かった。測ってみると39.7度。翌朝病院に行くと娘も陽性だった。さて、これまで夫が使っていた部屋を今度は私が使うことになった。

「はい、こっちコロナチーム。そっち一人でなんとか踏ん張って」

と言われ、私のマットレスやパソコンなどを夫が使っていた部屋に運び入れた。娘の陽性が分かった日には、夫は熱も下がり少し動けるようになっていた。

娘は解熱剤でなんとか38度前半まで下がり、その間に水分を摂ったり、梨やゼリーを食べさせた。私が用意した物をテーブルに置いて、それを夫が娘の部屋に運ぶという連携でどうにかやっていた。数日経つと、私の隔離生活を続けながらも、二人とも少しずつ食欲も出てきた。家に玉ねぎとジャガイモがたくさんあったので、肉じゃがを作ろうと思い立った。でも、肉がない!いつもお世話になっている人が、買い物の代行を引き受けてくれていた。

「何か買うものある?」

と言ってもらったので

「肉じゃがを作ろうと思ってるけど、肉がないのでお願いします」

と頼んだ。数時間後

「荷物届けたよ」

と連絡があり、玄関を開けるとお願いしていたものとお菓子の差し入れを置いてくれていた。保冷バッグに肉のパックと保冷剤が入っていた。保冷材は溶けていたものの、まだ冷たさは残っていた。ひんやりした冷たさを感じながら、暑い中買い物に行ってもらってありがたいなと思った。肉は冷蔵庫へ、保冷材は冷凍庫へ。

娘は夕方になると熱が上がり、夫がわきの下や太ももを保冷材で冷やそうと言って冷凍庫を開けたときのこと。

「痛っ!!」
「どうしたん?」
「保冷剤が足の上に落ちてきた」

あぁ、さっきお肉と一緒に入ってた保冷剤だな。夫は、出来るだけ大きな保冷剤を探し娘の部屋に持って行った。

「お父さん、これ保冷剤じゃないよ」
「そうなん?」

隣のリビングにいた私のところに二人の会話が聞こえてきた。

「これ、糸こんにゃくだよ」
「えっ・・・!おーい、これ保冷剤じゃないらしいよ」

と夫。保冷バッグの中に肉のパックと一緒に入ってたあれ、保冷剤じゃなかったん?実は、糸こんにゃくと豚肉を頼んでいたのだが、もう触った瞬間に保冷剤だと思い込んでしまった。水が入っているあのムニムニした感じが溶けた保冷材にそっくりで。
糸こんにゃくは細いのでパット持っただけでは中の様子は分からなかった。思い込みって恐ろしい。

「糸こんにゃくもお願いしたけど、ばあば忘れはったんやろな。まいっか」

と思っていたほどだ。

「保冷剤と間違えた」

と夫に言うと

「かなり大きさもあるし、もういっそのことこれ保冷剤として使ったら」
「いやいや、糸こんにゃく屋で!それはないやろ」

夫から手渡されたものは、見事にカッチカチの保冷材になっていた。

それからさらに数日後。すっかり元気になった二人にと、出かけた帰りにマカロンを買って帰った。保冷剤を取り出す私に

「これは本物の保冷剤だね」

と娘。

「うん。間違いない。これは本物」

ちなみに私は陰性だったので一足早く外出できていたのだ。二人とも元気になって本当によかった。手触りや重さで食材を判断していたが、こんな思い込みもあるんだと驚いた出来事だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?