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【薮内正幸美術館】日本唯一の動物画専門美術館、「サントリー愛鳥広告の原画」を見に行く

 note100回目の記事となる今回は、筆者が何度も訪れていながら紹介していなかったこちらの美術館を紹介します。

はじめに

 北杜市白州町に所在する薮内正幸美術館は動物画家として活躍した薮内正幸の作品を展示する全国で唯一の動物画専門の美術館です。
 建物は山小屋風でサントリーの白州工場の近くの林の中にあります。

薮内正幸美術館を正面から

 薮内正幸の名は知らなくても、下記の絵本や図鑑、児童文学で動物画を見た方は多いのではないでしょうか。毛並みまで緻密に再現され、特徴をとらえた姿を描いた動物画はたいへん印象的です。

『どうぶつのおやこ』薮内正幸画 福音館書店
『野鳥の図鑑』薮内正幸作 福音館書店
『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』斎藤惇夫作 薮内正幸画 岩波書店
【自然保護シリーズ】アホウドリ 1975.1.16発行 出典 :  日本郵便趣味協会

薮内正幸

 ヤブさんこと薮内正幸やぶうちまさゆき(1940年~2000年、昭和15年~平成12年)は大阪府出身の動物画家です。子どもの頃から動物が好きで、動物画は独学で得たものです。
 高校卒業後上京し、図鑑や児童書を扱う出版社の福音館書店に勤務し、1971年(昭和46年)にフリーランスとなり、動物画家の第一人者として活躍しました。
 1973年(昭和48年)サントリーの愛鳥キャンペーン新聞広告の野鳥のイラストを担当し注目を集めました。愛鳥キャンペーンのイラストは85年まで12年余にわたり担当しました。

館内にある年譜

 動物や鳥たちの絵は、とても写実的で今にも動きだしそうにみえます。また、その動物や鳥たちの特徴をよく捉えた姿を描いています。しかし、実際に動物がその姿を見せてくれるわけはなく、図鑑など出版社の要望により特徴的な姿を想像して描いているといいます。
 しかしまったくの想像でそこまで写実的には描けません。動物や鳥の骨格を研究し、裏打ちされたものがあって表現できたものです。それは入社後、図鑑の担当となり、国立科学博物館へ通い約1年間にわたり恐竜や動物標本を描いていたことが基礎にあるといいます。

展示室にあるヤブさんの仕事場の再現
ヤブさんの書棚より

 ヤブさんは2000年(平成12年)、食道がんのため他界しましたが、ヤブさんの残した1万点にのぼる原画は2004年(平成16年)に美術館が開館し保管展示されています。

美術館への道

 北杜市白州町の国道20号線沿いにサントリーの白州工場があります。ウイスキーの蒸留所や天然水の工場となっています。工場見学としても有名なスポットです。

国道20号線に面したサントリー白州工場の入口

 そのサントリーの工場からおよそ1キロメートルほど甲府寄りに、ケルンコーヒーという地元では有名なコーヒー店と白州体育館があり近くに、進入路を示す看板があります。白州体育館の前には東京五輪の合宿に誘致したビーチバレーのコートがあります。

国道20号から見える看板を入る

 木々に囲まれた道を700メートルほど進むと大きなゲートが見えてきます。そのまま進入します。大型バスも止められる広い駐車場ですが、現在は使われていない旧白州町の施設の駐車場を利用しています。

大きなゲートは旧白州町の施設の名残り
ゲートのフェンスにイラスト入りの看板

 車から降りて奥へ進むと小さな林の中の山小屋風の建物が見えます。薮内正幸美術館へ到着です。

木々の中にしゃれた山小屋風の建物

薮内正幸美術館

 2004年(平成16年)に開館した私設美術館です。作品の散逸を危惧した関係者により設立されました。図鑑、絵本の挿絵など、1万点以上もの作品を収蔵しています。現在の館長は長男の竜太氏です。
 ヤブさんと山梨の深い縁はありません。ではなぜ北杜市白州町に美術館があるのでしょうか。
 館長にお聞きしたところ、動物や野鳥を描いた作品を扱うため自然豊かな場所にしたかったこと、また、今回の企画展示でもある「サントリー愛鳥週間キャンペーン」でサントリーと深い縁があり、その工場のそばであること、白州町(当時)から町有地を借りることができたことなど、そうした縁によりこの地が選定されたそうです。
 巨大な駐車場、隣接する使われていない建物は、フランスベッドの創業者池田実が土地、建物、美術品を白州町(当時)に寄贈したもので、「みのる白州館」として利用されていたようですが、現在は利用されずにいます。

看板は親交の深かった絵本作家田島征三氏の筆

 山小屋風の建物に入り玄関でスリッパに履き替えます。
 チケットは数種類ある図柄から選べるようになっています。このチケットは在庫が無くなり次第別のイラストに変わるそうです。現在のラインナップは下記の4種です。1日券になっていて当日中なら再訪問可能です。

「ワン・デー・パス」デザインはこの4種から選択
筆者はシロハヤブサを選びました

企画展示「サントリー愛鳥キャンペーン50周年記念」

 展示は半年ごとに入れ変わります。 2023年後期の企画展示「サントリー愛鳥週間キャンペーン50周年記念」(2023.7.22~11.30)が始まってすぐでした。
 このキャンペーンは、50年前の1973年からサントリーが毎月1回全国紙に掲載したメッセージ広告で、薮内正幸の手による野鳥のイラストが12年余続きました。その年に白州蒸留所が開設されています。また京都の山崎蒸留所は開設50年の節目でもありました。

第1回目のメッセージ広告を転記したチラシ

 サントリーの愛鳥活動については下記リンクを参照ください。サントリーに「鳥」という語呂あわせも含んでいそうですが、下記リンクによれば、
 野鳥を自然環境のバロメータと考えて環境を守る活動を始めたとあります。

 すぐ隣の部屋が展示室になっています。
 作品の撮影について単体での撮影はNGですが、複数点を一緒に撮影する場合は可能とのことです。ありがたいルールです。

展示室の概観

 展示室に入るとすぐに、記念すべき第1回キャンペーン広告とその原画が並んでいます。
 第1回「トリからヒトへ。生命あるものへ。」 (PDF)

第1回「トリからヒトへ。生命あるものへ。」1973

 こちらはキャンペーンのカラーポスターです。

鳥たちがいっぱい

 こちらが原画です。別々に描いた鳥たちを1枚に収めていたのですね。ポスターがまるで図鑑のようです。

カラーの原画たち

 こちらはカレンダー用に描かれたカラーイラストです。それぞれ鳥の実物大サイズになっているそうです。絶滅危惧種など希少な野鳥たちが描かれています。

ヤンバルクイナ、トキ、フィリピンワシ、アホウドリ、イヌワシ、シマフクロウ

 キャンペーンの紙面と原画を並べて展示しています。
 第18回「むかし日本はトリの楽園だった」(PDF)
 日本を代表する鳥たちが紙面いっぱいに描かれています。

第18回「むかし日本はトリの楽園だった」1974
モズ、ヤマドリとキジ、タンチョウ、ノガン

 第99回「日本は本当に先進国か」(PDF)
 ショッキングなタイトルですが、描かれているのは環境の変化や密猟で数を減らした鳥たちです。

第99回「日本は本当に先進国か」1982
ノグチゲラとミユビゲラ、トキ、クマタカ、シマフクロウ、イヌワシ

 第85回「あなたが来るまでは美しかった」(PDF)
 子どもの時からフィールドマナーを身に着けることを訴える内容とともに森の野鳥を描いています。

第85回「あなたが来るまでは美しかった」1980
ホシガラス、アオゲラ、トラツグミ、コルリとイワヒバリ、コガラとウソ

 第22回「ゼロへの道をくい止めるもの」(PDF)
 飛び立つアホウドリの成鳥と黒っぽい幼鳥ですが、その右下には絶滅したリョコウバトとオオウミガラス。

第22回「ゼロへの道をくい止めるもの」1975
リョコウバト、オオウミガラス、アホウドリの成鳥と幼鳥

 さらに、キャンペーンの紙面と原画を並べて展示しています。

 第34回「自然のドラマ 春の開幕」(PDF)
 生態系の循環を描いています。そのためヒキガエルやヤマガカシ(蛇)も登場します。しかも捕食する姿を描いています。

第34回「自然のドラマ 春の開幕」

 第84回「生命を大切にする教育を」(PDF)
 葦に潜むオオヨシキリと飛ぶコアジサシ。

第84回「生命を大切にする教育を」1980

 第40回「鷹渡る」(PDF)
 堂々としたサシバ(鷹の仲間)。

第40回「鷹渡る」1976

 第89回「トリ・ヒト・友だち・・・みんなで作った『愛鳥かるた』」(PDF)
 読み札は募集の入選作、絵札はヤブさんの作。

第89回「トリ・ヒト・友だち・・・みんなで作った『愛鳥かるた』」1982

 突き当りの奥にヤブさんの仕事場が再現してあります。

展示室の概観

 新聞の清刷を購入できるそうです。新聞紙面は年月を経ると変色してボロボロになりますが、これは当時の試し刷りで細部まで状態が維持されています。1枚550円で購入可能とのこと。

新聞の清刷の入ったファイル
新聞広告の清刷販売、早い者勝ち

ミュージアムショップ

 絵葉書やクリアファイル、複製画はもちろん、絵本など、ヤブさんのグッズがたくさんあります。

見るだけでも楽しい
動物の絵本が並ぶ
いろいろなグッズあります、筆者は自宅でマグカップを愛用

 セルフ式のコーヒーマシーンがあって100円でホットコーヒーを飲むことが出来ます。窓辺に腰掛けて外の木々を眺めたり、テーブルの印刷物に目を通すなど、のんびりと休憩ができます。

これまでの企画展の案内(ハガキ)のファイルリング
館を紹介した新聞の切り抜など

おわりに

 私設でありながら20年近く関係者により運営されてきた美術館です。冬季(12月~3月)は休館であったり、厳しい環境にも関わらず続いているのは作品のファンの支えであったり、年のうち数回ほど各地で絵画展をしているからでしょう。
 展示は半年ごとに入替わります。動物、野鳥、『冒険者たち』の挿絵が大きな柱ですが、それぞれにファンがいて今回のように野鳥をテーマにすると動物画の展示ができないとのことで要望に応えるのに苦心なさっているそうです。
 ぜひいつまでも続けてほしい美術館です。

note記事100回目に寄せて

 昨年の7月よりnote記事を執筆を始めて、およそ1年で100回目の記事を掲載することができました。
 noteで執筆を始めたきっかけといえば、複数の知人から、美術館や博物館の話をすると雑談だけで終わるのはもったいない、何かに残してはどうかと勧められたことに始まります。
 ありがたいことにこの1年で美術、縄文、建築、歴史、旅などなど、さまざまなジャンルのクリエイターさんからフォローしていただけるようになりました。「スキ」をいただけることも励みになります。そうした、みなさまからの応援が積み重なって100回まで続けることができました。ありがとうございます。
 8月に入りました。盆地は毎日猛暑を越えた酷暑です。みなさまも体調にはお気をつけください。101回目の記事でお会いしましょう。


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