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【富士見町歴史民俗資料館】日本で3番目に古い唐箕(とうみ)

はじめに

 井戸尻考古館の奥に建つ建物が、富士見町歴史民俗資料館です。考古館の入館料金で資料館も見学できる共通入館券になっています。
 この資料館は1986年(昭和61年)に開館しました。縄文を専門に展示する考古館に対して、平安以降の遺跡や地域の民俗資料を扱っています。

木製の看板のかかる玄関

農耕具、馬具

 建物は二階建てで、田舎の民家を思わせるようなデザインです。屋根は銅板拭きとのこと。建物の中央に玄関と受付があります。
 井戸尻考古館と同様に靴を脱いでスリッパに履き替えて見学します。展示フロアは一階のみです。
 左手一番奥の部屋は農耕具、馬具の展示です。さらに、民家が室内に移築されています。薄暗い電灯の下に道具をおいて囲炉裏を囲んだ生活の雰囲気を再現しています。

民家の移築展示
農耕具が並ぶ

養蚕

 奥の部屋から戻ってくる感じで養蚕の展示を見ます。蚕の種紙などがあります。岡谷市の蚕糸博物館の協力の下、現代の機械化された養蚕農家を紹介するパネルもあります。

養蚕の道具

 また、機織り機が1台展示されています。こちらでは、5月と8月に考古館の「縄文体験」にあわせて「機織り体験」を実施していて、そのときには、ほかに数台の機織り機が並びます。

生活の道具

 玄関の正面にあたるところでは生活の道具がおもに展示されています。はかり、ひのし、履物などのほか、きこり・杣人そまの道具など山仕事の道具もあります。

山仕事と生活の道具

 面白いのは「木製の入れ歯」があって水分を含むと膨張して口の中で安定するそうです。また、下駄スケートは寒冷地方ならではのものです。ガラスケースの中の「まむし酒」は、見学のお客さんにゆずってほしいと懇願されたことがあるとか。

平安時代の遺跡

 右手に進むと、鍛治道具と平安時代の遺跡の出土品があります。富士見町では弥生時代から平安時代前の遺跡は確認されていません。
 さらに、この地域の地層の説明や鉱物が展示されています。このあたりの川でみつかる「角閃石」の説明展示もあります。

鍛冶道具が並ぶ
角柱の形をした角閃石

 民具ではありませんが、宮崎駿氏による平安時代の富士見町の「牧」のイラストが4枚展示されています。2002年(平成14年)藤内遺跡の国の重要文化財指定を記念する講演会で氏が用いたものです。宮崎氏が時々訪れる縁で当時の考古館長が講演を依頼し、快く受けてくれて実現したとのこと。(「富士見高原はおもしろい」宮崎駿、富士見町・井戸尻考古館編『甦る高原の縄文王国』言叢社、2004、参照)

宮崎氏のイラスト4点

甲冑や刀

 右手奥の部屋は、室町時代、江戸時代のもので甲冑や刀、絵屏風など骨董美術品です。

この展示室のみ撮影禁止(許可を得て外観のみ撮影)

日本で3番目に古い唐箕

研究家が訪ねてきて偶然にも判明した「3番目に古い唐箕」

 農耕具のコーナーに唐箕とうみがあるのですが「日本で3番目に古い唐箕」とあります。紀年銘には天明4年(1784年)となっています。唐箕は手回し式で内部の羽で風を起こして穀物を飛ばして重さで振り分ける農具です。
 この唐箕について、資料館のK館長(考古館長と兼務)に以前お話を伺ったことがあります。それによれば、甲府盆地から富士見町あたりまでの地域では唐箕は「せんごく」「とあおり」などと呼ばれています。
 内部の羽は全国的に制作が容易な4枚が主流であるのに対して、このあたりでは3枚羽で作られています。3枚羽は教来石(山梨県北杜市白州町)の職人が始まりで、その弟子たちが山梨から諏訪地域に散らばり3枚羽を広めたといいます。
 この唐箕は、風量の調整部分に改造の痕跡がみてとれますが、吐き出し口の形は最古のものだそうです。また、館長の推測では、この唐箕の作成年代からすると当初4枚羽で作られ、修理したときに当時の職人による3枚羽に改造されたのではないかということです。

民俗資料を残す

 館長は、縄文の研究者でありながら、民俗資料や道具への造詣が深い方です。民俗資料を残す意義について、以前伺ったお話があります。
 民俗資料が失われる危機を常日頃感じている。失った民俗資料は取り戻せないので、町内に取り壊す民家があればもらいに行っているのもそのせいである。OB館長たち古老からは「いらないものを集めてどうするだ」と言われる。それは古老たちにとれば当たり前に使ってきた道具であるので、保存への意識も薄い。しかし、その古老たちが生きている間に聞いておかなければ、分からなくなってしまうことも多い。近年亡くなる方が増え、ますますその危機を感じる。保存しようと努力しないと民俗資料は残せない。(以上、要旨) 
 さらに館長は、民俗資料を展示しているのだが、物としてだけでなく、その道具を使った人の思い(生活の喜び、悲しみ、苦労など)も残していきたいと語ってくださいました。

おわりに

 自治体の多くに民俗資料館がありますが、どのような資料が多いかで、その地域のなりわいが分かります。この資料館に多いものは農具(稲作・畑作・農具鍛治)・養蚕・山作業などであり、まさに山村としての暮らしぶりがあったことがみてとれます。

この資料館の「時」は止まらない

 また、「民俗資料館」というところは、展示物がホコリをかぶり、まさに時が止まっていたりする残念なところが多いのですが、こちらはどこにでもある民俗資料を後世に残して伝えていこうという資料館側の姿勢により磨かれた資料館でした。


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