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【南アルプス市立美術館】開館30周年記念「愛と平和への祈り シャガール展」を見に行く

はじめに

 南アルプス市小笠原に所在する「南アルプス市立美術館」は、前身となる「櫛形町立春仙美術館」が1991年(平成3年)の開館より昨年で30周年を迎えました。記念展としてシャガールの版画展が開催されています。

看板を掲げたエントランス

 なお、南アルプス市立美術館の概要については拙稿をご覧ください。

「愛の画家」「色彩の魔術師」

 マルク・シャガール(1887~1985)は、現在のベラルーシ共和国に位置するロシア帝国にてユダヤ人の家庭に生まれました。
 1910年、単身パリに出て、キュビスムや未来派といった様々な芸術運動に影響を受けがら独自の画風を見出しました。「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールですが、色遣いが変化したのはこの頃からと言われます。
 また「愛の画家」とも呼ばれるシャガールです。最愛の妻ベラと1915年に結婚しています。愛や結婚をテーマにした作品を数多く扱っているのには、妻への深い愛情よるものでしょう。
 第二次大戦中の1941年アメリカへ亡命します。その3年後に最愛の妻が他界します。しばらくは失意に暮れていたシャガールでしたが、その後は、1947年にフランスへ戻り、晩年まで精力的に活動を続け98歳でその生涯を閉じました。
 シャガールは油彩画、陶器、ステンドグラス、舞台美術など様々な分野で活躍しました。中でもパリにいた頃から始めた版画はライフワークとも言えるもので、銅版画やリトグラフなどの技法で約2000点余りの作品を残しています。

愛と平和への祈り シャガール展

 「愛と平和への祈り シャガール展 ー8つの版画集より」(2022.10.1~11.27)
は、シャガールの著名な8つの版画集の作品を公開しています。
 これら版画集のほぼ全ページにわたる展示のため、通常使用される第1展示室、第2展示室(下記、ピンク色の部屋)に加えて、市民ギャラリー用の展示室(下記、オレンジ色の部屋)も使用しての全館上げての展示です。

館内見取り図
表の作品はシャガールが好んだ「サーカス」
左上より「出エジプト記」「アラビアンナイトから4つの物語」
「オデッセイ」「ダフニスとクロエ」「バイブル」

 受付を済ませて順路に従い2階を目指します。普段は閑散としている美術館ですが、シャガール展と聞いてか入館者が多いです。警備員もいます。
 展示室内は撮影できないため館内の雰囲気だけ撮影しました。

さあ展示室へ向かいます

第一会場

 まず、2階の展示室からです。第一会場として5つの作品集が展示されています。
 「アラビアンナイトから4つの物語」(1948年) 12点
 「出エジプト記」(1966年) 24点
 「オデッセイ」(1975年) 43点
 「サーカス」(1967) 38点
 「母性」(1926年) 5点
です。

第一会場の入り口

 「アラビアンナイトから4つの物語」は4つの恋愛話を描いています。亡命先のアメリカで依頼を受けたもので、シャガールにとって初めて本格的なカラーリトグラフ作品です。この2年前に最愛の妻ベラを亡くしていて、失意に暮れていた直後の作品です。そのため恋愛話を題材に描いたのでしょうか。

 「出エジプト記」は70代後半の時の作品です。旧約聖書のユダヤ人のエジプト脱出の物語です。全40章のうちから24の場面を描いています。ユダヤ民族への抑圧と流浪の運命を第二次大戦中アメリカに亡命した自身と通じるものがあったのでしょうか。

 「サーカス」は80歳の時の作品です。サーカスはシャガールが好んだテーマです。全体的に独自のブルー色調の作品です。楽しいサーカスのはずですがもの悲しい印象を受けます。

 「オデッセイ」はホメロスが手がけた英雄冒険譚です。88歳の時の作品で、明るい色調になっています。およそ2年の歳月をかけて43点の挿絵を制作しています。この中にはホメロスの胸像とシャガール自身を描く遊び心のようなリスペクト作品があります。

 「母性」は39歳の時の作品で、線画で濃淡のみの作品です。

第二会場

 階段を降り、1階の展示室が第二会場です。2つの作品集が展示されています。
「バイブル」(1956年) 105点
「悪童たち」(1958年) 10点
です。

第二会場の入り口


 旧約聖書はシャガールのテーマのひとつでもありました。
 1931年にエジプト、シリア、パレスチナへ家族で訪れています。それだけ「バイブル」は入念な準備をして挑んだ作品でした。66点が完成したところで制作は中断します。1952年より再開し1956年に完成しました。25年がかりで完成させたものです。「色彩の魔術師」と呼ばれながらこちらはモノクロの作品です。

 「悪童たち」は「バイブル」完成から2年後の作品で南仏生まれの作家ジャン・ポーラン(1885~1986)による自伝的な短編の挿絵です。シャガールによる多色刷りの初めての銅版画のアクアチント技法を使っています。

第三会場

 第三会場に向かいます。普段は市民ギャラリーに貸し出される展示室です。増床した部分ということもあり、長い廊下を進みます。
「ダフニスとクロエ」(1961年) 42点
が展示されています。

第三会場へ向かう長い廊下

 「ダフニスとクロエ」は古代ギリシャの詩人ロンゴスによる恋愛物語です。シャガールの版画の最高傑作との呼び声も高い作品です。4年以上の歳月をかけて制作されています。
 「ダフニスとクロエ」はジャンフラソワ・ミレーも扱っているテーマです。山梨県立美術館にありますが、印象はだいぶ異なるものです。(ミレー《ダフニスとクロエ》)

 エントランスの奥に関連グッズを扱うギャラリーショップが開設されていました。絵葉書やクリアファイルなど定番商品を中心の品揃えでした。

さいごに

 シャガールの版画展は、各地を巡回しているようで、各地で微妙にタイトルが異なっています。下記に一部リストアップしてみました。
◆宮崎県立美術館
 「シャガール展 版画でつづる愛の物語」(2018.11.17~12.24)
◆高崎市美術館
 「愛と祈りと冒険と、8つの版画物語」(2020.2.1~2020.3.29)
◆おかざき世界子ども美術博物館
 「シャガール展~夢見る版画たち~」(2021.9.11~11.28)
 すでにご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 ところで、2階フロアから富士山がきれいに見えました。富士山の見える窓として案内されているのですが、実際には見えないことが多いのです。

秋になり雪をいただき始めた富士

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