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【南アルプス市立美術館】「名取春仙が描く鎌倉武士たち展」を見に行く

はじめに

 「南アルプス市立美術館」(以下、市美術館)は、南アルプス市小笠原に所在する市立美術館です。
 南アルプス市は2003年(平15年)に6町村が合併し南アルプス市になりました。この市美術館の前身は「櫛形町立春仙美術館」です。同町出身の名取春仙の作品を集めた美術館として1991年(平3年)開館しました。
 合併後は、南アルプス市に引き継がれますが、旧白根町の「白根桃源美術館」を集約する形で建物を増築し、2016年(平28)「南アルプス市美術館」としてオープンしました。

奥が入口、手前の建物の張り出しは増床部分

名取春仙

 名取春仙(1886年~1960年、明19年~昭35年)は、明治から昭和にかてけ役者絵版画や日本画、新聞小説の挿絵で活躍した画家です。
 明治40年頃から新聞社の嘱託となり夏目漱石の『虞美人草』などを手掛けています。大正時代には、劇界との結びつきから役者絵版画を多数手がけています。
 市美術館では、2000点の春仙の作品を収蔵しています。

名取春仙 出典 : 南アルプス市HP

名取春仙が描く鎌倉武士たち展

 今回の訪問の目的はこちらの鑑賞です。
 タイル舗装された園内を進みます。すぐに入口です。受付は協力員の方がされていて、外で検温、チェックシートのち、館内の受付で料金を払います。
 展示室は1階と2階にあります(下記ピンク色)。常設展示は増床部分に少しあります(横長のピンク色)。さらに増床部分の奥に市民ギャラリー(オレンジ色)があります。


 2階が第1展示室です。ここで鎌倉武士をテーマに33点の作品が展示されています。会期は2022.7.23~2022.9.25です。

第1展示室

 チラシを飾る歌舞伎演目「勧進帳」の三幅対の作品は圧巻です。
 「勧進帳」は、鎌倉を追われ平泉へ向かう義経と弁慶たちが、安宅の関所で止められますが、山伏に変装している弁慶は勧進帳(実は白紙)を命がけで読み上げて事なきを得るというシーンです。弁慶は7代目松本幸四郎です。いまの幸四郎(10代目)の曽祖父です。

「勧進帳」左から義経(菊之助)、弁慶(幸四郎)、富樫(羽左衛門)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でもありましたが、源頼朝は挙兵するものの石橋山の戦いで敗れます。「再挙」という日本画の作品は、頼朝たちが筏で海を渡り、安房の国に逃れる様子を描いた作品です。

中央の筏に乗る武士たちが「再挙」、上が「関東大震災絵巻」の一部

関東大震災絵巻

 1階へ戻り、第2展示室があるのですが、関東大震災を描いた日本画の巻物が2本展示されています。挿絵、役者絵といった春仙の作品とは印象が大きく異なります。
 この、関東大震災絵巻は2018年(平30年)に南アルプス市が購入したもので、公開は3年ぶりとなります。

奥が第2展示室、左に階段、右が増築した新館部分

 絵巻は「東都大災新吉原之部」「東都大災之卷被服本廠跡之部」の2本です。それぞれ4枚の日本画で構成されています。
 「新吉原之部」は新吉原で逃げ惑に池へ飛び込み亡くなった女性たちの姿などが描かれています。
 「被服本廠跡之部」は陸軍の衣服を製造する工場跡地を描いていて火が巻き上がり焼け死ぬ人々が描かれています。

おわりに

 「関東大震災絵巻」は、だいぶ強烈な印象です。「鎌倉武士」とはぜんぜん趣が異なります。ちょうど関東大震災の時期を迎えるため、併せて展示したものでしょう。
 余談ですが、2階フロアは窓から富士山が見えるそうですが、雲に隠れて見えませんでした。

雲が無ければ富士山が

 あと受付の奥のロビーにかつて営業していたのであろう喫茶カウンターが残っていました。いつ頃から廃止したの分かりませんが、ほぼ貸し切り状態で鑑賞させていただいた入館者数が考えれば、無理もないことです。昭和時代から平成時代の初めころに作られた美術館、博物館には喫茶スペースの跡がけっこう確認できます。



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