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【釈迦堂遺跡博物館】特別展「縄文人が作った小さなもの」を見に行く

はじめに

 甲府盆地の東部に教科書などで有名な京戸川扇状地があります。その中央(扇央)に釈迦堂遺跡は位置します。
 釈迦堂遺跡は、出土した土偶の数が群を抜いていることから縄文中期の遺跡として高い評価を得るとともに、縄文ファンの間で高い知名度を得ています。
 すでに遺跡は埋められていますが釈迦堂遺跡博物館にて出土品を見ることができます。中央自動車道釈迦堂パーキングエリア(下り線)から徒歩で入れる立地の良さも手伝い、観光シーズンを中心に見学者でにぎわう考古系博物館です。

ゆるやかな階段を上りきるとエントランス

釈迦堂遺跡

 釈迦堂遺跡は、中央自動車道の工事に伴い、1980年(昭和55年)から1981年(昭和56年)にかけて発掘調査が行われました。その結果、多数の縄文時代中期の住居跡や1116点におよぶ土偶が出土しています。三内丸山遺跡(青森県)に抜かれるまで土偶の数は全国1位でした。
 釈迦堂遺跡は、縄文時代中期の集落が圧倒的な量を占めていますが旧石器時代、古墳時代、奈良時代、平安時代の住居跡も発見されています。
 出土した1116個の土偶は、1988年(昭和63年)に一括して国の重要文化財に指定されました。さらに、2005年(平成17年)には、縄文時代の土器・土製品(3,410点)、石器・石製品(915点)なども追加指定されました。
 また、扇状地は礫が堆積し水はけが良く果樹栽培に適しています。そのため博物館の周辺は桃畑になっています。

駐車場から下には中央道、遠くに甲府盆地

釈迦堂遺跡博物館

 1988年(昭和63年)、遺跡から出土した遺物の保管、展示施設として釈迦堂遺跡博物館は開館しました。2020年(令和2年)には建物内部と常設展示の大規模リニューアルを行っています。
 釈迦堂遺跡は一宮町と勝沼町(いずれも当時)にまたがっていました。そのため博物館の管理運営は一宮町と勝沼町の一部事務組合(釈迦堂遺跡博物館組合)によって行われました。町村合併により、現在は笛吹市と甲州市によって運営されています。館長は笛吹市の教育長になっています。
 私見ですが、一宮町と勝沼町は地理的にも人的交流もたいへん近かったため、両町で合併すれば一つの行政でこの博物館を管理できたのではないかと思うものです。
 釈迦堂パーキングエリアに直結していることからJAF会員であれば入館料金の割引が受けられるというのも考古系博物館としては独自です。
 建物内部はリニューアルによって、エントランス正面にグッズ販売を兼ねたチケットカウンターが配置されました。一階の奥はしばらく休止されていた喫茶コーナーが撤去されエントランスホールとしてイベントなどで使える空間に変わっています。

かつての喫茶コーナー、眺めよくお茶が飲めたことでしょう

常設展示

 常設展示は二階になります。吹き抜けの階段を上ると展望デッキのようになっていて、その隣が常設展示室です。

景色を見ながら階段を上ると常設展示室

 常設展は、リニューアルに伴い、1116点の土偶が全数展示されるようになました。土偶だけでフロア全体の前半部分のおよそ半分を占めるボリュームです。ライトで照らされてショーケースのようです。

常設展示室の概観
土偶は頭部を中心に360度展示
残りもすべて展示

 後半はおもに土器の展示で「土器の森」としてスロープ状のコースで土器を眺めて進むようになります。
 独立したケースには大型の水煙文土器が展示されていました。貸し出しで「留守」になりがちな土器です。

中央には代表格の水煙文土器
土器の森へ進みます
土器も秀逸

 中央の壁面には日本遺産『星降る中部高地の縄文世界』のPR映像が流れて縄文世界の雰囲気を醸し出しています。

縄文人が作った小さなもの

 常設展示とは別に一階の企画展示室で年数回の特別展が行われています。今回の訪問の目的は、こちらの見学です。
 特別展「縄文人が作った小さなもの」(2022.7.13~12.26)は、通常サイズよりはるかに小さいミニチュア土器と呼ばれる土器たちをテーマにした特別展です。

企画展示室前のサインボード

 展示室は薄暗い室内の中央にライトアップされた大型のケースが並びます。

特別展の概観

 まず、ミニチュア土器のケースが目に入ります。展示の内容も出土量も、ミニチュア土器が多く大型ケースで4つ分の展示です。展示されているのはおよそ100点です。ミニチュア土器の使用目的については「祭りの道具」「おもちゃ」などと考えられますが、不明な点が多いようです。

1つめのケースのミニチュアの土器
2つめのケースのミニチュアの土器
3つめのケースのミニチュアの土器
通常サイズの土器と比較

 さらに進むとミニチュアの有孔鍔付土器がありました。穴の大きさは変わらず穴の数を少なくして小さく作っているのが興味深いです。縮小化するのではなくて、特徴を持ったまま小さく作ってあることから通常サイズと同じ用途で使われていた可能性がありそうです(酒造り?貯蔵?)。

しっかりと有孔鍔付土器の特徴があります

 奥のケースでは、耳飾りや土製円盤円盤などの土製品を展示しています。土製円盤はかけらを削って作ったとのことです。こちらも用途は不明です。

耳飾り、匙型土製品、土錘、土鈴、土玉
土製円盤

 通常の石皿と並んで、ミニチュアの石皿がありました。釈迦堂ではミニチュアの石皿は、この1点しか発見されていません。

通常の石皿(億)とたった1つのミニチュア石皿(手前)

 ミニチュア土器の展示を見てまいりましたが、釈迦堂遺跡だけで展示室ひとつ分のミニチュア土器があることに改めて驚かされました。

現代人の小さなもの

 ところで、博物館の公式ツイッターで話題となり、度々品切れとなっていた土偶のガチャポンに中身が補充されていました。1回500円と少し高額ですが、3Dプリンタでコピーした土偶が手に入ります。全部で5種類あるのですが、筆者は2回まわしたところ「しゃかちゃん」と「しゃっこちゃん」が出ました。さらに、次の補充分からは、カラーバージョンも加わるそうで、商品展開に余念がないようです。

現代人の小さなもの
常設展示室にある実物

 また、日本遺産『星降る中部高地の縄文世界』の「三十三番土偶札所巡り」の「ご朱印」は、No.5「しゃかちゃん」No.6「しゃっこちゃん」No.7「出産土偶」ですが、これらとは別の期間限定(2022.6.1~10.31)の特別版が用意されていて、こちらのほうも余念がありません。

おわりに

 リニューアル以降、集客への努力がそこかしこに伺えます。埋蔵文化財の常設展示施設のない笛吹市や甲州市とは全く別の行政が行っているかのようです(行政組合そういうものなのかもしれませんが)。新たな発掘のない釈迦堂遺跡の遺物を管理、展示することが目的だからこそ、集客へ注力できるのかもしれません。
 高速道路のために発掘され、埋められて道路になった遺跡。その道路のアクセスの良さも手伝って見学者が訪れる博物館。少し複雑な思いがしました。

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