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「君の隣で、私は」(ショートショート)

私はいつだって君の隣にいた。幼稚園の頃から、一緒に遊んで、一緒に笑って、時には喧嘩もしたけど、すぐに仲直りして。君にとって、私は"友達"だった。それでいいって思っていた。いや、思い込もうとしていたんだと思う。

けれど、中学生になってからだろうか。君のことを見ていると、胸が少し痛くなる。君が誰かと楽しそうに話しているだけで、なんだか苦しくなるのに気づいた。でも、その気持ちを言葉にするのは怖かった。言ったら、もう元には戻れないんじゃないかって。

「ねえ、ちょっと相談してもいい?」
放課後の教室。君が私にそう声をかけた時、嫌な予感がした。私は心の中でその話題を避けたかった。でも、口を開いてしまう。
「何でも言って。どうしたの?」

君は少し恥ずかしそうに目を逸らして、机の端を指でなぞった。
「実は…俺、好きな人がいるんだ」

その瞬間、世界が止まった気がした。鼓動が早くなるのを感じながら、私は必死に笑顔を作った。
「そっか…誰なの?」
自分でも驚くほど、普通の声が出た。心の中では叫びたかったのに。

君は少し戸惑いながらも、その名前を口にした。クラスメイトの女の子、彼女は美人で、みんなに好かれている。
「うまくいくかな…?」

君が不安げに言う。私は心の中で「うまくいかないで」と願ったけれど、口から出た言葉は違った。
「大丈夫だよ、君なら絶対にうまくいくって。自信持って、ね?」

笑顔で言い切った私に、君はホッとした表情を浮かべた。
「ありがとう、やっぱり○○(私の名前)には話してよかったよ。」

その言葉に、胸がまた締めつけられた。でも、私は君の味方でいなきゃいけない。ずっとそうだったから。

数日後、君が嬉しそうに私に報告してくれた。「告白したんだ、そして…彼女も俺のこと好きって言ってくれた!」

その瞬間、私の心は完全に砕けた。でも、そんなこと、君には絶対に見せない。私は笑顔を作った。
「よかったね、本当におめでとう!」

そして、その日、私は家に帰ると、こっそり布団の中で泣いた。自分でも驚くほど涙が止まらなかった。君のことを応援すると決めたのに、心が追いつかなかった。

次の日、君は彼女と付き合い始め、ますます輝いて見えた。そんな君を見ていると、もう涙は出なかった。私は少しだけ大人になれた気がした。君の幸せが、私の幸せじゃないかもしれないけれど、それでも君が笑っているなら、それでいい。

君の隣で、私はこれからも笑顔でいよう。君の幸せを願いながら、いつか私も前に進める日を信じて。


彼の幸せを見守れることが、私の強さになる。

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