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イギリスのサマースクール1

1970年代に渡英2年目の夏、宿泊制のサマースクールに参加した。このサマースクールはイギリスの避暑地で有名なブライトンの近くのワージングWorthingという小さな町のはずれにあった。

サマースクールは夏中開催されていたが、私は2週間のみの参加。参加する前の準備は大変だった。靴下片方ずつに至るまで、すべての持ち物に名前が縫い付けられていることが、求められたのである。「洗濯した時に間違いなく返せるようにする」ため当然だが、手間はかかる。

幅8mm程度の私の名前が縫い取られたテープを母は発注した。寄宿制の学校が数多くあるイギリスだったからそれほど苦労せずに発注できたようである。届いた長いテープをちょうどよい長さに切り、両端を衣類に縫い付ける。母が延々とその作業をやっていたのを覚えている。

集合場所はロンドン市内の駅。ホームで母と別れ、客車へ。途中の車窓は全く覚えていない。きっとそれなりに緊張していたのだろう。

駅から迎えに来た車で宿泊場所についたのは、いわゆる貴族の館、マナーハウスと呼ばれるお屋敷だった。3階の女子フロアのあてがわれた部屋に荷物を置き、階段を下りて1階の広間の食事をに行った。

夕食は忘れもしない。トーストの上に煮豆がかけられたものだけ。煮豆といっても日本の甘い煮豆ではない。多分ベーコンと塩で味付けをしたビーンズと呼ばれる料理だ。食事はそれだけ。質素たることこの上もない。

夜、自分のベッドに寝てみて驚いた。マットレスの真ん中がくぼんでいて、寝返りを打ってもベッドから出られないのだ。なかなか寝付くことができなかった。窓から入る月の光が妙に記憶に残っている。

次の日の朝。1階の大広間に行くとコンフレークと薄いトーストとミルクティが朝食だった。コンフレークは牛乳でべちゃべちゃになるので好きではなかったが、食べないとお腹がすくと思って、残さず食べた。

これがサマースクールの始まりだった。

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