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炎天下の夏の日、毛虫をペットとして迎え入れた話

勤めている会社でペット事業がスタートするらしい。(注:リリースされているのでインサイダー情報ではないです。)

ペットかぁ。私は犬も猫も飼ったことがない。犬猫が主戦場となるペット業界ではなんの役にも立たないのかもしれない。

一方で生き物は小さいころから好きだった。生き物係も、飼育委員もやった。飼ったことのある生き物は、ハムスター、モルモット、カブトムシ、ヤドカリ、毛虫、カエル、クマムシ、コケ…こうやって並べてみると結構いる。

ペットショップで買ってきた子もいれば、道端で拾ってきた子もいる。「拾ってきた子」中でも1番印象深かったのが毛虫の「サクラ」だ。



たしか、小学校2年生の夏休み。メラメラと陽炎の見える炎天下だった。

家から歩いて5分ほどの公園にひとりで遊びに行っていた。遊ぶというよりは、縄跳びとか鉄棒とか、学校で宣言してしまった「夏休みの目標」に対する自主練だったかもしれない。友だちは少なかったし、暇だったし、くそ真面目だった。

その公園は小学生にとっては広かった。鉄棒、うんてい、ブランコ、今は禁止されているであろうぐるぐる回せる球状のアレ…よくある遊具が揃ったうえで、走り回れるようなスペースは十分にあった。砂利が敷かれていたので、膝からこけると石がめり込んで痛いタイプの地面だ。

公園の敷地内に入ると、いつもの砂利の上に鮮やかな黄緑が見えた。あまりに浮いて見えたので、おもちゃが落ちているのかと思った。

近づくと、小さな生き物だった。

炎天下の公園のど真ん中に、芋虫が落ちている。

よく見ると、毛が生えている。

毛虫だ。

昔から困っている人に手を差しのべるタイプではなかった。それなのに、この毛虫は助けなきゃと思った。子どもながらに、初めて湧いてきた使命感だった。

このままにしたら干からびるのでは?遊びに来た子どもに踏みつけられるのでは?

今出会ったばかりの毛虫にたくさんの心配をして、ひとまず近くの葉っぱで掬って木陰に移した。毛虫を素手で触ってはいけないという知識くらいはある小学生だったし、慌てている割にやたら冷静に頭が回っていた。

ひとまず急いで家に帰り、軍手と虫かご探した。親には、「毛虫が落ちていて可哀想なので、どうしても飼いたい」と打診した。かなりおかしな要望だと思う。でも、「エサや飼い方は自分で調べること」を条件にOKしてくれた。よかった、あの毛虫を救うことができる。

軍手と虫かごを持って急いで公園に走った。

避難させた木陰にまだ、毛虫はいる。

軍手で優しく持ち上げて、虫かごに入れた。表情は分からないけど、なんとなく弱っているような気がした。早くご飯をあげなければ。

毛虫が入った虫かごを抱いて、早歩きで家に帰った。

虫かごを持ち帰るとすぐ、パソコンを開いた。この毛虫とエサについて早急にリサーチする必要がある。スマホのない時代、たまたまパソコンが家にある家庭でよかった。

「毛虫 種類」

「毛虫 エサ」

「毛虫 東京」

小学生の語彙力でもGoogle先生は十分に答えを用意してくれた。いくつかのキーワードで検索して、種類もエサも特定した。そもそも東京の公園で落ちているくらいには、特段珍しくない毛虫だった。希少種じゃなくてよかった。

エサは桜の木の葉っぱだった。

そして、私が毛虫を掬った葉っぱは桜の葉で、避難させた木陰は桜の木の下だと確信した。

広葉樹の葉を見ただけで判別できるほど賢い小学生ではなかったけれど、私は春夏秋冬あの公園に通っていて、春先にあの木は桜の花を咲かすことを知っている。

経験とリサーチ結果のパズルがぴたっとはまった気がした。これでこの子を育てることができる!

急いで公園にまた戻り桜の葉を採取しに行った。炎天下のなか、こんなに家と公園を往復することになるとは。

家に戻り、毛虫に桜の葉を与えると…食べた!

これで食べてくれなかったらどうしようかと思っていたけれど、むしゃむしゃと食べ進めてくれて本当に嬉しかった。自力でなんとか、この子の命を繋ぎ止めた。

その後、毛虫に「サクラ」という名前をつけて可愛がった。

時には軍手をはめて手の上に乗せた。「手乗り毛虫」は想像以上にとても可愛い。

秋になると、蛾になるために繭を作るだろうと思って、桜の木の枝を入れた。

予想通り繭を作り、サクラの姿は見えなくなった。

冬から春にかけて、繭からいつでも羽化できるよう、ベランダに虫かごを置き、蓋を開けた。

いつのまにか、繭から羽化したようで、もうサクラは居なくなっていた。


1年にも満たない飼育期間。でも、忘れられない体験になった。

自分で見つけて、自分で探して、自分で考えて、自分で動いた。そんなペットは最初で最後だったからかもしれない。

将来、自分の子が「落ちている毛虫を飼いたい」と言ってきたら、突っぱねたりせずに、「自分でなんとかできるならいいよ」と言いたい。

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