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祈願成就 感想(note創作大賞2023)

note創作大賞2023 の「新潮文庫nex賞」を受賞した『祈願成就』を読みました。

文学フリマ東京38で買った本も順番に読んでいて、『祈願成就』も、文学フリマで買った本の感想を書いてから書こうと思っていたのですが、いやいやこれはすぐに書かなきゃ! と、こうして読了次第、感想を書いています。

感想:恋愛小説こわい。

恋愛小説部門で受賞、と書いてあったのを確かに見たはずなのにこの表紙とは……?

この作品は、怖いです。ほんとこの一言に尽きるのですが怖いです。恐怖シーンの描写力の高さというのもモチロンあるのですが、精神的に来ると言うのか、ゾクゾクと芯に迫るような怖さと言いましょうか。

ホラー作品に関しては好きな人、嫌いな人、苦手な人とに別れると思います。私は怖い作品は苦手派です。子供の頃からお化けもゾンビもジェイソンもフレディもエイリアンも怖くて、ホラー作品全般を避けていました。幼馴染にホラー大好き少年がいて、遊びに行くたびホラーなマンガや映画を無理矢理に見せられていたので、大の大人が文字を大にして書くことでもないですが未だにお化けだって怖い。

果たしてそんな臆病者がホラー小説に耐えられるだろうか? 心配は杞憂でした。間違いなく怖いのですが、面白さは怖さに勝ちます。

幼馴染五人の、子供時代のおまじないから恐怖の連続は始まります。主人公たちはすでに大人で子供時代は過去の話、もうそれぞれの生活をしているのに『あれ』はまだ手を伸ばして追ってくるのです。人知を超えた存在にとって人間は戯れに潰される蟻も同然で、もう時間が過ぎたから、もう大人だから、あの出来事は昔の話だから、気が変わったから……などという人の常識や思考なんて少しも通用しないんだろうかと思うと、なお恐ろしい。

作中で、他人の幸福を願うことが「祝福」不幸を願うのが「呪詛」と出てきますが、誰だって子供時代に呪詛の言葉を吐いたことはあるのではないでしょうか。私は子供の頃に友達と喧嘩して「死ね」だとか「殺す」だとか、思い出せないくらいの回数言ってます。『祈願成就』で扱われる呪詛はこんな軽い内容ではありませんが、でもそんな、自分が言ったことさえ忘れた(あるいは忘れたいと思った)子供時代の言葉が何者かに叶えられて、あまつさえその代価まで取り立てられそうになったら、想像するだけで怖くなります。

とにかく終始、怖いのですが、物語のプロローグから語られる『あれ』の存在や、主人公が見た黒い影、そして彼女たちの過去には何があったのか……と作品全体に次を読み進めたくなる「謎」が散りばめられています。怖くても続きが気になって手が止まりませんでした。ひとつひとつ各章を読み終えるたびに続きが気になるつくりなので、怖い、怖いと思いながら「最後はどうなるんだ、彼女らはどうなるんだ」と、結末までゾクゾクしながら読みました。

これは勝手な想像ですが、怖がらせることを第一の目的として書かれた作品ではなくてあくまで物語としての面白さが追求されているので、怖いけれど面白さが勝っていて、ホラー苦手な私でも読み進められたのではないかなと感じました。

本を読む楽しみというのは色々あって、明るく楽しく前向きな作品で爽快感を接種する喜びもそうですし、恐ろしく寒気のするホラー作品を読む危険な楽しみも確かにあって、その楽しみを十分に満たしてくれる作品だと感じました。ホラー好きな人の気持ちが少しだけわかった気がします。結末のネタバレは避けたいので書きませんが、私はこういう終わり方がとても好きなんだなと気付きました。

作品の力を最大限に発揮しようと物語を書く、これが創作者としての力なんだろうなと思うと、自分はもっとがんばらなきゃいけない、と作品とは無関係の感動もあって、こうして感想を書いています。読書したい欲求も作品を書きたい欲求もとても高まる夜でした。

最後に、『祈願成就』は明るいところで読みましょう。間違っても日の暮れかけた雑木林でなんか読まないように……。


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