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【エッセイ235】恐るべき子供たちの記憶力

子供時代の記憶、特に幼少期まで遡るとどれくらい昔の出来事まで覚えているだろうか。

私自身の一番古い記憶は2、3歳。兄や近所の子供たちと一緒に外で遊んでいて、高さ2メートルほどの段差から転落して頭から大量出血し泣きながら家へ帰った。病院で縫われた額の傷跡はまだうっすらと残っている。

両親が私と兄弟を初めてディズニーランドへ連れて行ったのは、私が3歳の頃。大はしゃぎで走り回っていたらしい。けれど、これはまったく覚えていない。

車で一時間の大きな運動公園には、毎週のように連れて行って貰っていた。
と、母に聞いた。これもまったく覚えていない。

残念ながら怪我を負った時の記憶がもっとも古く、それ以降は思い出せても幼稚園の4歳、5歳頃。

どこまで記憶が正しいかは別としても人の頭は楽しい記憶よりも痛い・怖い・悲しい思い出が残りやすいと聞いた。楽しかった思い出を残すよりも痛い・怖い思い出を残す方が生存に有利なのだとか。

なので、3歳の娘にはできる限り楽しい思い出を残してやりたい。悲しい思い出の方が残るならそれ以上に楽しいことを体験させて。

とはいえ私自身も3歳の記憶なんてほとんどないので、忘れるものは仕方がない。娘が大きくなっても家族で出掛けたことを覚えていたら良いな、くらいの気持ちで色々な場所へ連れ出している。

先月、娘が3歳の誕生日を迎えたので東京スカイツリーへ初めて登った。
標高(?)634メートル。

曇っていたので景色はぼんやりとしていたけれど、それでも高いところから見下ろす東京の街は、地上で見るのとはまた違い精巧につくられたミニチュアを眺めるような楽しさがある。山頂からの景色では味わえない。街の中心から建造物を見下ろす景観は各地のタワーに特有の眺めだ。

景色がキレイなのはもうわかるのか(周りが言っているのに合わせているだけなのかも知れいない)娘も外を眺めては「キレイね」と言っていた。

それでもやっぱり景色よりも運動が好きなようで、東京の景色も早々に通路を走り回ってはキャッキャとはしゃいでいた。

そして急に「ロボットさんは?」と私に尋ねた。

「ロボットさん」が何を指しているのかわからなかった。娘はここ数ヶ月に急に語彙を伸ばして、とくにアニメのポケモンをよく観ているおかげで私にわからない言葉を言い出す時がある。ロボットさんが何なのかわからない。ポケモンの名前でないことは明らかだけど。

娘はしばらくスカイツリーの通路で「ロボットさん」なるモノを探していた。やがて諦めたように「いないね」と言った。私も何を探しているのかわからなかったけれど、娘に「いないね」と応えた。

景色を眺め、ご飯を食べて、お土産を買った帰り道。
遊び疲れた眠る娘を抱っこしながら電車に乗った時に、急に思い出した。

ロボットさん。
これのことだ。

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一年以上も前に撮った写真。娘が2歳になったばかりの時に横浜のランドマークタワーに登った。横浜ランドマークタワーで当時、導入が始まったばかりの日立製人型ロボット『EMIEW3』(名前はコレを書きながら調べた)が待っていた。

人の言葉に反応すると書いてあったので何度か話しかけたけれど、芳しい結果は得られなかった。外国から観光で訪れていたご夫婦と一緒に「コンニチハ」「Hello」と、お互いに片言の日本語と英語でそれぞれ話しかけてみたけれど、うまく反応しない。何度か話しかけるとたまに「こんにちは」とロボットが答えてくれた。ほとんど無視されたけれど。

それでも娘は楽しかったのか、何台か置かれていたロボットに「こんにちは」とそれぞれ話しかけていた。

一年以上も前の話、たった一度しか会っていないのに、娘はロボットの存在を覚えていた。ロボットという名前までも。スカイツリーの展望台から眺める景色を見て、ランドマークタワーの展望台を思い出したのかそこに居たはずの「ロボットさん」を探していた。大人の私はすっかり忘れていたのに……。

子供の記憶力は侮れない。すっかり忘れるだろうなと思っていても、もしかしたら楽しかった記憶をいつまでも覚えているのかも知れない。

写真は、スカイツリーで撮った一枚。これからも娘に楽しい記憶を残せるよう、色々な場所へ連れて行きたい。


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また新しい山に登ります。