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【新小説】靄が晴れるその日まで④

ストーリー

人は一人一人の世界観でこの世界を観ている。私もその一人である。この物語は他者の世界観を不思議な力で感じとれるようになった主人公の正田 観月(しょうだ みづき)の物語。

第4話

次の日になっても隣の席の秀介くんの顔には、靄がかかっている。小学生の私にはなぜ靄がかかって見えるのか。よくわからないままだった。

学校の休み時間は保育園の頃から仲良しの明里(あかり)ちゃんとよく喋って過ごしている。私は、昨日の出来事を明里ちゃんに話した。

「秀介くんの顔の周りにぼやぼやしたもの?まったく見えないけど〜」

「そっか〜、じゃあ気にしないで!」

どうやら、明里ちゃんには見えていないようだ。一体何なのだろうと家に帰ってからも気になっていた。

自分の目の病気であれば、全員の顔を見た時にも同じようなぼやぼやが見えるはずだ。でも、秀介くん、保育園の先生、母親を見たときにだけ見える。

秀介くんにいたっては、教科書を一緒に見たとき以降から見えるようになった。これって私だけが見えるものなのかな?

人は特別な存在になりたいと願うことがある。

でも、それが実際に私だけが見えることで得られる特別な存在だと自分を思えた瞬間、すごく怖くなった。

特別な存在になんてならなくていい。

帰り道にそんなことを思いながら、帰宅した。

そして、今日も母親の靄をただ、ただ眺めることしか出来なかった。

つづく



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