安楽死の書籍まとめ(4冊)
安楽死をテーマにしたディストピア小説を書いてみたかったので、関連書籍を読んでみた。
重いテーマであるが、人生について考え直す良い機会になると思う。
1.安楽死で死なせてください ★★★☆☆
『おしん』『渡る世間は鬼ばかり』で有名な橋田壽賀子さんのエッセイ。
本人の死生感が文章から滲み出ており、共感する部分も多かった。
還暦を迎えた方にオススメである。
以下は印象に残った言葉を抜粋してみた。
死について積極的に考えるべきだという姿勢には驚いた。
20歳でエンディングノートを書くというのも、人生の残り時間を意識する意味では良いかもしれない。
2.安楽死を遂げるまで ★★★★★
国外の安楽死を取材したジャーナリストのルポルタージュ。
著者は死の直前まで同席しているので、描写が生々しい。
読んだ4冊の中では1番感情が揺さぶられる内容だった。
各エピソードを抜粋すると長くなるので、安楽死制度の部分だけをまとめてみた。
ライフサークル(スイス)
【年会費】
50 スイスフラン(日本円約5750円) で、実際に自殺幇助を選ぶと外国人の場合は1万スイスフラン(約115万円)、スイス国籍なら4000スイスフラン(約 46 万円) かかる。
【条件】
(1)耐えられない痛みがある。
(2)回復の見込みがない。
(3)明確な意思表示ができる。
(4)治療の代替手段がない。
※この条件は他の安楽死容認国でも概ね共通している。
【手順】
点滴に入った薬を、患者自らがストッパーを開いて血液に入れ、自殺をする。
15 グラムのペントバルビタール・ナトリウム。エグジット(スイス)
1982年に誕生した世界初の自殺幇助団体。
外国人患者は受け入れていない。
【年会費】
40 スイスフラン(約4600円)。
退職者は 35 スイスフラン(約4000円) に下がる。
会員であれば、自殺幇助はエグジットが無料で提供する。
【条件】
明記されていないが、恐らくライフサークルと同等の内容。
【手順】
致死薬をコップで飲み干し、絶命を迎える。死亡までに約 30 分を要するという。オランダ(国が合法としている)全死因の4% が安楽死。
【条件】
患者が「終末期」であることを明記していない。
痛みも「肉体的な痛み」に限定していない。
そのため、実施件数は少ないが認知症や精神疾患も、「耐え難い痛み」の範疇として検討される。
また、適用年齢も 12 歳以上となっている。
医師が安楽死を行う前に、弁護士による許可を必要せず、医師に全権委託されている。ベルギー(精神疾患が安楽死することができる)
【条件】
オランダとほぼ同じ。
世界保健機関が定める『健康』は『肉体的にも精神的にも、すべてが満たされた状態であること』と捉え、精神疾患も肉体と同じく耐え難い痛みとして扱っている。
以下は安楽死を行う人々の特徴について。
3.安楽死・尊厳死の現在 最終段階の医療と自己決定 ★★★★★
4冊の中でも1番固い内容。読むのに1番時間がかかった。
各国の安楽死に対する判例を説明している。
『安楽死を遂げるまで』と被る部分も多いので、第5章の『安楽死と自殺の思想史』に触れたい。
ここでは、ヨーロッパの思想を中心に古代から現代までの思想をまとめている。
ダーウィニズムからナチスのT4作戦に繋がる流れがわかりやすい。
興味がある人は第5章だけでも読んでほしい。
古代ギリシャ・ローマ時代の自殺論
アリストテレス(前三八四~前三二二)は『ニコマコス倫理学』のなかで、法は自殺を許容しない、自殺は、自分に対しての不正ではなく、ポリスに対する不正となると述べている。
セネカ(前一頃~六五)は、自殺を容認していた。
祖国の自由のために戦いカエサルに捕われることを潔しとせず自死した(小)カトー(前九五~前四六)の英雄的な死を賞賛した。キリスト教時代の自殺禁止
自殺をはっきりと全般的に非難したのはアウグスティヌス(三五四~四三〇)である。
アウグスティヌスは『神の国』(四一三~四二六年)のなかで、自殺はどんな理由があっても許されない行為である、「耐えて生きよ」と説いた。
キリスト教はこの時代から『自殺は罪』という教えが強固となった。緩和医療技術の革新
イギリスの哲学者フランシス・ベーコン(一五六一~一六二六) は、ただ健康を回復させるだけでなく、病気による痛みと苦しみを緩和することも医師の職務であると唱えた。
例えば、危険な症状の緩和が回復の助けとなるような場合だけではなく、回復の望みがなく緩和がただ最期をより穏やかに楽にする場合にも、緩和は医師の務めであると述べている。優生学の登場
優生学は社会ダーウィニズムと深く関わっている。
社会ダーウィニズムとは、生存競争による自然淘汰 というダーウィンの進化説を人間社会にも当てはめ、社会の進化を説明しようとする思想である。
未開人では、からだや心が弱い個体はすぐに除かれてしまうので、生き残った個体は一般に健康状態がよい。
一方、私たちのような文明人は、精神遅滞者や障害者や病人のための収容所を建て、救貧法を制定し、誰もが除かれてしまうことのないように、大きな努力を払っている。
「私たちのような文明人」は、医師が誰の命をも救おうと最後の瞬間まで最善を尽くしている。
結果として、障害者や病者など「弱い者」を「生き延び」させて、人類の質的劣化を招いている。
こうダーウィンは考え、文明人は「家畜の品種改良と逆のことをしている」と懸念している。進化論によって生物学全般の刷新を目指す
ダーウィンの『進化論』に感銘を受けたエルンスト・ヘッケル(一八三四~一九一九)は人為選択によって弱者を選別・排除し、人種を改良すべきだという意見を主張した。
古代ギリシャ時代のスパルタは、ある特別な掟に基づいて、生まれたばかりの嬰児を即座に注意深く点検して選別していた。
病弱な子供や何かしらの身体的欠陥をもった子供は皆、殺された。
完全に健康で力強い子供たちだけが生きることを許され、のちに子孫を残すことができたのである。
それによって、スパルタの人種は、常に卓越した身体力と能力を保てるようになっただけでなく、世代を経るにつれて身体的な完全性が増していったのである。
ヘッケルは、同胞を安楽死させることは権利であるとともに義務でもあると主張し、誰を「安楽死」させるかを医師の委員会で決定する方法を提案した。
この決定方式の提案は、のちにナチス政権が障害者安楽死作戦のなかで実際に採用された。ナチスに利用されたニーチェの思想
誕生は自己決定できない。
最期に、生を自ら放棄する(自死する) ことによって、人は「最も尊敬に値することをなし」、「生きるに値する」ことになる。
ニーチェはこのように述べ、「自然死」こそ「不自然死」だと逆説的にとらえたうえで、自死を推奨した。
ニーチェの妹のエリーザベトはこの国粋主義的なニーチェ像に利用価値を認め、それを国家社会主義を支持するものとしてナチス政権に売り込んだ。ナチスによるT4作戦
T4作戦とは、一九三九年一〇月から四一年八月にかけてナチス・ドイツが行った障害者の安楽死である(「T4」とは、作戦本部が置かれたベルリンのティアガルテンシュトラーセ4番地に由来)。
医療を専門とする審査員団が精神障害や知的障害を持つ患者が「生きるに値する」か「生きるに値しない」か、つまり死ぬべきかを勧告し、最終的な決定権限を持つ三人の上級鑑定家が再検討し、決定した。
T4作戦は、これまで見てきた優生思想、社会ダーウィニズム、ドイツ民族衛生学の極限形態である。
全ては説明しきれないので割愛したが、上記のように安楽死に関する思想の変遷がわかりやすく説明されている。
最後に個人的に印象に残った一文を引用したい。
4.痛くない死に方 ★★★☆☆
タイトル通り「痛くない死に方」について書いてある。
安楽死というよりも、病床で末期状態になった時の逝き方にフォーカスしている。
在宅医が書かれているだけあって、現場の意見が参考になる。
【リビングウィル】
終末期医療への意思を、伝えられない状態になる前にあらかじめ書面に残しておくこと。自己決定を表す文書。
以下は印象に残った部分を抜粋してみた。
著者と医師(欧米)との会話での一言。
ジョークではなく、日本は仏教であるため、キリスト教やイスラム教と違って「神様に許されている」という意味である。
ハラキリのイメージもあり、海外から日本は自殺に対して寛容な文化を持っていると思われているらしい。
終末期以降も不必要な延命治療を続ければ、無理に肥料や水をやりすぎて根腐れをした木と同じような状態となる。
そのため、自宅で平穏死された遺体に比べて大学病院で延命した遺体はずっしりと重い。
老衰における平穏死への戦略は、
「最期まで食べることにこだわり、胃ろうは造らない」
「ご本人やご家族の希望に応じて、ときに少量の点滴をすることはある」「毎日の生活を楽しむ」
上記の3点である。
傾眠・せん妄→意識レベル低→下顎呼吸から呼吸停止へ。
という順で死に至るため、ドラマのように「ガクッ」と息絶えることはない。
聴覚は最後までしっかりとしていることが多いので、話しかけてあげること。
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