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『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』を読んで #1

こんにちは。東です。

遅ればせながら2022年10月29・30日と行われた、古典派鍼灸師としては参加しておきたい日本伝統鍼灸学会に参加してきました。

▼日本伝統鍼灸学会

都合により30日のみの参加となりましたが、ほとんど講演は見ずに神戸源蔵製の鍼具・道具の展示会場に根をはってました。

鍼造りにおいて非常に参考になる点がありましたので、備忘録として記録しておきます。


1.神戸源蔵製の鍼具の展示

今回の目玉は、なんといっても今は亡き神戸源蔵製の鍼具・道具の展示でした。

▼神戸源蔵鍼製作所

個人情報はほとんどこれだけ。あとは色んな方のブログとか。

神戸源蔵四世は、鍼灸祭も復活させたのですね。知らなかったです。

「鍼灸祭」は、昭和40年から59年まで20年間にわたって四世鍼師神戸源蔵氏の発案と世話人尽力により浅草の伝法院で行われていた“はり灸まつり”の意思を継承し、復活させたものです。

引用:史跡湯島聖堂│公益財団法人斯文会のホームページ

展示物の写真撮影はNGで、一枚も写真が取れなかったので私の所蔵している鍼を載せます。

東が所蔵している特殊鋼鍼で銀の鍼柄

鍼を造るために必要な道具や流れは、概ね想像通りでした。

鍼に使う金属の火入れは課題ですよね。

鍼管を俵型にするには、俵型にするための型が必要なこともわかりました。手にフィットする俵型の鍼管を再現するには、かなり熟練の技と同時に『型そのものをいかにつくるか』というマテリアルの面でも課題がありますね。

東洋鍼灸専門学校の校長先生である大浦先生らが、神戸源蔵から譲り受けた道具・器具を使って、実際に鍼を造ってみた動画は興味深く拝見しました。

あとは手記やかつて雑誌へのインタビューで答えていた神戸源蔵四世の言質があり、私の中では参考になることが多かった。

(先日、ヒッタイトの本を読んでいた時の光景(現地調査や古文献・発掘調査・レポートなどから推測する)ことと重なって、ちょっとワクワクしました)

全てを脳裏に焼き付けるのは難しかったが、今のところ必要な情報は得られたように思います。


2.大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』のちらみ

先ほど紹介した大浦先生は、神戸源蔵の手記(主に四世が書いたものか?)の調査報告を一般口演の中でされていました。

私は口演を拝見できなかったので、日本伝統鍼灸学会から出している『伝統鍼灸 第49巻 第2号』に書かれている大浦先生の調査報告をちらみしてみることにしよう。


【目的】

〇伝統の跡切れ

「神戸源蔵」は、江戸後期より平成31年まで、6代にわたり続いた老舗の鍼製作師である。令和2年1月1日に6世の宇田川信枝氏の死去をもって、惜しまれつつ閉店した。

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【目的】

〇神戸4世と『伝書』

とりわけ神戸4世の宇田川昇氏(1908-1989年)は、昭和鍼灸界の名人鍼師達の鍼を制作し、彼らとの交流においても著名である。

一切の機械を使用せず古来の伝統的技術を守り抜いた4世の鍼製作技術は、4世5世6世の残した『伝書』に垣間見ることができる。

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【目的】

僕がこれまで話していたことを、きちんとまとまった形で雑誌に載せてくれてありがたいですね。

▼江戸時代から続いた鍼屋「神戸源蔵」が閉業したことについて


【方法】

〇メモから実践

『伝書』は、その時々の工夫をメモ書きしたもので、順不同で記載者が4世5世6世の誰か、どの工程のメモか不明だったが、筆跡および工程と道具を特定整理し、「神戸ノートの解析」としてまとめた。

鍼の製作工程は、錺(かざり)職人の工房を借りて実際に鍼を制作し、道具の使い方、鍼の製作工程を確認した。

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【方法】

『伝書』に書かれている内容を、実際に工房を借りて作ってみて、文字情報と実地調査をすり合わせた上で、どうだったのかを検討されたそうです。


【結果】

〇鍼の製作工程

1.地金の割り方
2.地金の溶かし方
3.地金の鍛え方
4.鍼体の引き伸ばし方
5.穂取り
6.ハンダの伸ばし方
7.竜頭の作り方
8.鍼体の植え付け方
9.鍼尖の砥ぎ方
10.仕上げ
11.検査の段階

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【結果】

ふむふむ大別するならば、

1~3は地金系、4~5は鍼体系、6~8は鍼柄系、9~11はローンチ系になるのかな。

1.地金の割り方

企業秘密だが、4世は金鍼の場合には純金10に対し銀1.4・銅1.1で割り、銀鍼の場合は純銀10に対し真鍮2.5で割っている。

神戸4世ブレンドですね。すごい情報ですね~。

金鍼
純金10:銀1.4:銅1.1

銀鍼
純銀10:真鍮2.5

金鍼に銅。銀鍼にも銅(真鍮は銅と亜鉛の合金)。どちらも銅を混ぜているのは意外でしたね。

純金に銀を混ぜるのもおもしろいな~。どういう化学反応があるのかね。興味深い。

▼真鍮

2.地金の溶かし方・鍛え方

フイゴを用い、備長炭でナマした地金を数十回叩き鍛えた。

温度、冷まし方、数十回は10~99まであるのでどれくらいかね。

4.鍼体の引き伸ばし方

地金を2㎜の丸棒にした後、炭火でナマしては針金盤(=線引板)を数回通した上で、20番(0.65㎜)から0.1㎜単位で細くし、8番(0.4㎜)からは0.05㎜単位で細くする。

温度と引くタイミング。

7.竜頭の作り方

幅6.0㎜厚さ0.23㎜の純銀板に、直径1.2㎜の軸用芯を当て、溝付金床を土台に金鎚で叩き輪取りし、先端を尖らせ太い穴の針金盤を通じて直径1.3㎜の正円筒に仕上げる。

8.鍼体の植え付け方

備長炭で熱した鍼柄(筒)に、鍼体と細線状のハンダを入れ溶かして合体させる。

9.鍼尖の砥ぎ方

ヤスリで形成した鍼尖を、摺り板に固定した白名倉砥石に数本当て、満遍なく摺り尖らせる。

複数本を一緒に砥ぐのは結構難しい。

11.検査

鹿皮で磨いた鍼の先端部をルーペで確認し、舌または腹に刺して再確認する。

今ではコップにサランラップを太鼓の革のようにかけて、そこに鍼を刺すことで鍼先をチェックする。

【考察】

鍼の製作過程中、地金の割り加減、鍼体を引き伸ばす順番、鍼尖の仕上げ方には、工夫を熟練を要することが理解できた。

例えば金鍼を作る場合、純金だけでは柔らかすぎ腰がない。そこに銀・銅をどの割合で加えるかにより、柔軟性と折れにくさを兼ね備えた鍼となる。

さらに地金をひたすら叩くことが金属を鍛え、針金盤で鍼体にキズを付けず正円形に引き伸ばすことが大切だと分かった。

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【考察】


【結語】

バーナーやロールなどの機械を使わず、古来からの伝統的手法にこだわった鍼製作師神戸4世の作風は、伝統工芸を代表する芸術的作風であり、将来の「ものづくり日本」として受けつがれてゆくべき技術の宝である。

ディスポ鍼の大量生産の時代に、忘れ去られようとしている鍼製作の技術を、しっかりと記録に残すことが我々の責務であり、一本一本の鍼の大切さを後輩鍼灸師達にも伝えてゆきたい。

抜粋:大浦宏勝『鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析』 【結語】

必ずしも手造りするから良いものができるという訳ではないと思う。機械が担当した方が製品を安定的・量的に供給できるところはあると思う。

しかし、手造り(職人の手のセンサー)がないと感じられない微細な表現も必ずある。これは、我々も手を使う鍼灸師だから、強調しておきたい。

これからの時代、物流危機や金属の価格の高騰(ウクライナ・ロシアは世界中のニッケルの3割を占めてる)もあるから、ディスポーザブル鍼のような使い捨ての鍼は、SDGs的にも良くないという評価になる可能性はあるかなと思っている。

その時には、鍼の手入れの方法とか、管理の仕方などを伝えていくのも大切なことなのかなと思いました。


まとめ

今日は大浦先生の一般口演を抜粋に抜粋しました。

『伝書』には、金と銀の割りについては記載があったようですが、現在、矢野氏らとともに調べている特殊鋼鍼については全く記載がなかったそうです。

▼調査活動

特殊鋼鍼について興味のある流派もあるようですが、ん~、現状は成分がわかったとて再現は難しいということが熱の履歴はわからないという観点からも言えるかな。

▼熱の履歴はわからない

いつか大浦先生ともお話しできたらいいですね。

今日はこの辺で。

【参考文献】
大浦宏勝.鍼製作師 神戸源蔵『伝書』の解析.伝統鍼灸.東京.日本伝統鍼灸学会.巻49 第2号(通巻105号).2022年10月10日:p149-p150.



今回も読んで頂きありがとうございます。ISSEIDO noteでは、東洋医学に関わる「一齊堂の活動」や「研修の記録」を書いています。どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを共有しています。臨床・教育・研究・開発・開拓をするなかで感じた発見など、個人的な話もあります。




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