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[現代民家採集]その1『筑紫平野の二階くど造り』

日本で今和次郎による民家の採集が行われはじめてから100年近くが経つ。その間、建築の工業化が進み住宅の様相は大きく変化したが、工務店が担う住宅は確実に地域ごとの特色を保ち続けているようにみえる。歴史の末端には、建てられた民家があると同時に、民家の建てられ方がある。文化財として保存されている近世の民家の傍らにあるもうひとつの伝統を見てみよう。これは、構法の水脈の先でつくられ続ける"民家"の現在のメモである。

「筑紫平野の二階くど造り」

筑紫平野にはくど造りと呼ばれる民家がある。棟をコの字にまわした寄棟の屋根形状は、藩が長い梁の使用を禁じたからとも、九州南部に見られる二棟造りの影響であるとも言われている。

このくど造りが発展した棟がロの字型の「漏斗造り」というものが佐賀県佐賀市大詫間にいくつかあると知り見に行った。重要文化財山口家住宅は典型的な漏斗造りの住宅で、平面形状は正方形に近く、窓はない。野外の解説文には「高潮に対する抵抗性を高めるため」との説があったが、確かに何かから身を守るような素振りにも見える。

ふとまわりを見渡すと、このずんぐりとしたまつぼっくりのような雰囲気と同じものを持った住宅がそこかしこにある。入母屋瓦葺きがいくつも重なったその住宅たちは城郭のようで、中にはしゃちほこを戴いたものまである。このかたちは筑後川を渡った大川市郊外や佐賀市川副町でも見受けられた。くど造りは南北方向と東西方向で棟木の高さが違っていることが多いのだが、棟を直交させる建て方が2階建への要求と複合し、互い違いに重なる豪奢なかたちを生み出したのかもしれない。くど造りは健在なようだ。





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