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チョコレートケーキに飢える

毎年クリスマスには父の会社からクリスマスケーキが支給される。見た感じ福利厚生がしっかりしているような会社には見えないのだが、クリスマスケーキだけは必ず1家庭に1ホールずつ配られるのだ。

しかも選べる。

今年もこの季節がやってきた。母とチラシを眺める。生クリームなもの、生チョコクリームなもの、ブッシュドノエルなもの。

とはいえ頼むのはクリスマスの何週間も前。当日に食べたいものを予想して決めるというのはなかなかに難しい技だ。

いかにもリッチそうなチョコレートケーキも気になる、バタークリームも食べてみたい、だがしかし、ここは定番の生クリームでいくべきではなかろうか。奇をてらったものを注文して、当日めちゃくちゃ生クリームが食べたかったら困る。

そして頼んだのだ、生クリームのクリスマスケーキを…

しかしなんだろう、心に残るこの、もやっとした気持ち。そもそも私って生クリームそんなに好きじゃないよな…なんで生クリームを選んでしまったのだろうか…。

ケーキ2

何日か経ったある日の夜、私は母に打ち明けた。
「なんか、猛烈に生クリームじゃない気分なんだけど…」

ということで、母、ケーキ屋さんに電話。
母が食べたいということでバタークリームに変更。間に合ってよかった。

だがなんだろう。私の心にはまだ霧がかかっているように感じる。あれ?どう考えてもチョコレートケーキがよくない?でももう1回変えちゃったし、いや、いいんだ、これでいいんだ。そう自分に言い聞かせて、クリスマスへと歩みを進めた。

近づくジングルベル、積もるチョコレートケーキへの想い。

追い討ちをかけるように、テレビではリッチなチョコレートケーキ特集を放送している。もうどうしてもどうしてもチョコレートケーキが食べたくて仕方がない。

そして迎えたクリスマスイヴ。

仕事を終えた父が箱を持って帰ってきた。もちろんバタークリームケーキ。悲しい。こんな夢心地な箱の中には、気分じゃないケーキしか入っていないのだ。しかも選択肢のなかで最も安いケーキ

いや、でもでも、食べたら美味しいかもしれない。チョコレートケーキへの気持ちを消し去ってくれるくらい幸せの味がするかもしれない。

ひとくち食べる。うん、違う。

ケーキ3

口のなかに充満する”絶対にこれじゃない感”。猛烈な後悔が私を襲ってくる。ああ、どうして私は判断を誤ってしまったのだろう…。2020年最後の後悔。

バタークリームを食べてからより一層チョコレートケーキへの想いが強くなってしまった。つやっつやの一番高いチョコレートケーキ。

ONE PIECEにビッグマムという海賊がいて、お望み通りのウエディングケーキが食べられるまで癇癪が止まらず、城を破壊するという話があるのだが、今ならそのビッグマムの気持ちがめちゃくちゃわかる。私もゴジラのごとくビル群をなぎ倒してしまいそうなくらいにチョコレートケーキが食べたい。

食べたい、食べたい食べたい、チョコレートケーキが食べたい。

半べそをかいてチョコレートケーキへの後悔を嘆いている我が子を見て、見かねた母がひとこと。「お金くれるなら買ってきてあげるよ」
私はもう、なんのためらいもなく財布から500円玉を取り出し、母の手にそっと握らせた。「よろしくお願いします」と。

ケーキ4

夜、バイトから帰ってくると玄関に箱があった。明らかにワンコインでは買えないサイズの代物。中身はなんと、ホールのつやつやチョコレートケーキ。街中探してようやくあったらしい。街中探した…さすが我が母上。そして残りのお金を出してくれた父上。ずいぶん甘やかされた娘だ。

最初は2ホールになったケーキに戸惑いを隠せなかったが、じわじわと喜びがこみあげる。念願の、恋焦がれたあの、リッチつやつやチョコレートケーキ!

聖なる夜に干物と味噌汁をいただき、いよいよ待ちに待ったデザートタイム。

箱を開ける。

それはそれは輝かしい宝石が眼前に現れたではないか。トナカイたちが鈴を持って私の脳内を駆け回る。シャンシャンシャーン、シャンシャンシャーン

一口食べて発狂。想像の100倍美味しい。超絶おいしい 。濃厚なチョコレートに酸味の効いたラズベリーソース、散りばめられた香ばしいナッツ。想いが実って今この瞬間、私の中には幸福しかない。これでようやく年を越せそうだ。

今朝、体重計に乗った。見なかったふりをした。
よし、今日もチョコレートケーキを食べようではないか。



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