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腹下し戦隊☆ゲリガール

…お腹が痛い。

これは片道1時間半かけて高校へ通っていた私の、ゲリラ下痢との戦い方を記したものである。

まずはじめにお伝えしておくが、私は胃腸が弱い。これは母方の家系で代々伝わる体質をもれなく私も受け継いだためであり、もはやこの運命から逃れることはできない。私にとって下痢とは日常茶飯事、そう、まさに文字通り「日常的に茶を飲んだり飯をくったり」するように腹を下すのである。

腹痛というのは、やっかいなことに突然訪れる。ほんの1秒前までなんともなかったのに、次の瞬間には地獄を見るのだ。普段はまったく信仰していない神様仏様に命乞いをしても、その腹痛が治まることはない。下痢をしたって気力・体力・水分を奪っていくだけで、得られる教訓もせいぜい「食べ過ぎなけれよかった」という大変陳腐なものなのである。

そんな百害あって一利なしの腹痛は「健気なバス通女子高生」にも容赦なく襲いかかる。バスに乗車して40分、目的地まであと1時間弱といったところ。高校生の私は激しい腹痛に襲われた。「マジか」と「なぜだ」と「またか」の3語が同時に脳内をよぎった私は、次のアクションをどうするべきか考える。

さあ、ではこのような状況に陥ってしまった場合どうするべきか、みなさんにお教えしよう。

まずは「寝る」という強行突破の案がある。睡眠というのは簡易的な麻酔の効果があり、うまく眠りにつければ目的地までなんとか乗り越えることもできる。

だがたいていの場合、そんな余裕はない。事態は一刻をあらそうほど緊迫しているのだ。そんなときはどうするのか。安心してくれ、高速バスにはトイレが設置されている。バス停もコンビニもない峠を永遠と走行するバスの車内で、私はこのトイレに何度救われたことだろう。大事な客席を1席を潰してまでこのトイレを設置してくれたバス会社さんに私は頭があがらない。

さて、ここで、バスのトイレを利用したことがない人は車内で用を足すことにためらいを感じるかもしれない。だがそこは勇気を振り絞ってほしい。なぜならまだ痛みが少ないときに「恥ずかしいからやめとこ」と行かずにいると、いざ激痛に襲われたとき、トイレにまさかの先客がいるという可能性もあるからだ。終わりの見えないトイレの順番待ちほど絶望的なものはない。

では、トイレに行くとしよう。初心者にありがちなのは、バスが停留所で止まったときに立ち上がるということだ。これは避けていただきたい。このタイミングでトイレに行こうとすると、下車する人たちを通せんぼすることになってしまい、急いで降りようとするおばさまから冷たい目でみられかねない。腹が痛い上に冷たい目で見られるなんて救いようがないではないか。

トイレへ行くベストなタイミングは、信号で止まったときだ。だが前述した通り、私の乗るバスの経路はほぼ峠道なので私は走行中に戦場へと向かう。ここで大切なのは、トイレを利用することに引け目を感じないことだ。背を丸くして小走りしたり、周りをキョロキョロと見たりすると余計に周りの印象に残ってしまう。まるでランウェイを歩くかのように、私は堂々とバスの後方に向かって歩みを進める。

バス内のトイレはとても狭い。しかも絶え間なく振動しているので壁やら手すりやらに頭をぶつけないように気をつけないといけない。なんとか両足で踏ん張って便座に座ることができれば、もうこちらのものだ。普段ならこんな激しい横揺れのなかで用を足すなど到底できそうにないが、この時はそんなこともいってられない。

さて、このトイレの最も賞賛されるべき点は「音漏れが全くしない」ということだ。分厚い壁で四方を囲まれている上に、車のエンジン音でかき消してくれる。なんなら最近の車内トイレは消臭機能まで備わっており、思春期のゲリガールにとってこれほどありがたいことはない。

無事危機を脱したら、しっかりと流そう。ここのトイレはうっかりすると魂を吸われそうなほどの勢いで”ブツ”を消し去ってくれる。ここまで来ればもう私の気分は晴れやかだ。

「トイレへ行くときは下車のタイミングを避けるべきだ」と言ったが、出るときは逆に皆が降りるのと同時に脱出してほしい。そうすれば「たくさんの下車により席が空いたから前に移ってきた人」となることができるのだ。そしてこれが最後の難関なのだが、バストイレの扉は仕様が一般的なものと異なり、やや開けにくい。初心者はここでパニックになりガチャガチャガチャ!!と力ずくでこじ開けようとするのだが、これでは今までの努力が無駄になってしまう。よく見れば開け方が戸に書いてあるので、冷静に対処していただきたい。

さあ、どうだっただろうか。もし高速バス内で突然の腹痛に襲われたらぜひこの方法を実践してほしい。

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