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【感想】大義の末

?年ぶりに小説を読んだ!🤩

漫画制作に時間一杯で小説読むなんてとてもとても…
でも予科練生の主人公…ですって
思想にも興味あるし…
これは読まねばならぬ!
…と、時間ふり絞って読みました!

「大義の末」/城山三郎 新装版 角川文庫

面白かった!

なので
文章書くのめっちゃ悩むので嫌いなんだけど
記念に(?)感想のようなもの書いてみます!

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あらすじ

戦争末期
予科練入隊した柿見君。
陸戦訓練中、同郷の種村君と衝突転倒。
お互い自分の菊の御紋入りの小銃を庇ったため、
まともにぶつかり大怪我となったのでした。
その時の負傷が元で
種村君は死んでしまいました。

敗戦し天皇が神から象徴になり、
周囲の人々が認識を変化させる中、
柿見君は、
命を落とした種村君への自責の念に苛まれ、
「尊王に生きよ」という大義を仰いで来た自分が
これから天皇をどう捉えて生きて行くかに葛藤するのだった…

…というお話です!
(多分)


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予科練志願・予備知識

私は漫画の1巻で『志願』をテーマとしたので、いろいろ調べてました。

戦前の子供達は
日本人のアイデンティティ、あるべき姿につき、
細かな修身教育を受けています。
「天皇は親、臣民は子、国民は家族」
というのは筆頭ですね。

国(天皇)への忠義と親への忠義は同じもの
ゆえに、国(家族)を護る盾とならんという意志で
予科練に志願入隊した子も居ました。

でも、
カッコイイ飛行機に乗ってみたいとか
家計を支える為とか…
他の進路と比較し消去法で…という打算的な入隊動機のほうが
多く見聞きします。

殆どの子にとって
大義が重大なものになって行くのは恐らく入隊後です。
しかし柿見君の場合
入隊前から「大義」というタイトルの思想書を愛読し、
それを実行する意気込みで志願をした…
という点が特徴的です。

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作者氏

柿見君に自分を投影した作者の城山三郎氏は、
有名な著作の多い作家さんですが、
「このテーマが書きたくて作家になった」そうです。

城山氏の戦歴は海軍特別幹部練習生だそう。
この、特幹練(←勝手に略)調べたのですが、
短期間で海兵校と同じ尉官に進級するというもので、
募集の概要だけ見ると少しでも優秀な若者を
美味しい餌で釣り揚げようという
戦争末期の海軍の「特典叩き売り」的なものに見えますが…

案の定というか
入隊してみたら、予科練生と同じ制服、土科練…
そして伏龍部隊に配属されたと言います。
伏龍は水中肉弾特攻、
呼吸を間違えただけで溺死するという…
訓練だけでもかなり怖いものです。

同じ訓練をしたかどうかは分かりませんが
年の頃も同じですし、
予科練生の心境が分かるのだと思います。

ただ、城山氏は工業専門学校に居ました。
まだ17歳の理工系学生なら徴兵は猶予の身
…でありながらの志願は親を泣かせたそうです。
作者氏も柿見君のように
「大義に生きるべし!」と思って入隊したんだろうと思われます。

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感想

面白かったのは
出来事を通しての柿見君の繊細な心理の変遷。
それと
人物達の天皇制に関する考えの違いが弁論だけでなく、
行動で分かりやすい所です。

思想に関して思う所をいろいろ持っている人なら
本の中の人物達と議論するような感覚があるかもしれません。
それだけに読者レビューには、
自分の考えと同じ言葉を拾って、
本の主題とばかりに紹介する人も見かけます。
ただ、これは天皇制の是非を論じようという小説ではないです。

誰にとっても頷けるセリフ、違うセリフがあるでしょう。
今の天皇という存在の曖昧さ難しさを改めて考えさせられます。

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大義に恋する少年

少年皇太子…(今上皇陛下)に会った柿見君は、
その穢れ無く爽やかな姿にいたく感動を覚えるのです
が…しかし、
皇太子が国民の慰霊に無関心だったという噂を聞いて落胆…
心がこんなにグルングルン振り回されるなんてまるで恋愛のような…
いじらしいものがあります。

私は若かった兵士ほど、
天皇という大義を容易に捨て難いだろうと思っています。

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洗脳?…大義の育み方

予科練生は強い搭乗員になりたい欲と
ならなければ!という義務感の塊です。
でないとバッターが飛んでくるから必死なのです。
毎日娯楽のない世界で
褒められる事などめったにありません。

その中で、週一の精神教育での分隊長の話は
面白かったとの感想が多いです。
忠義の武士の波乱に満ちた勇猛なストーリーは
彼らを心地良い奮起に誘ってくれたのでしょう。
座学なので体はキツくないし、
目を閉じて眠らなければ罰直もこないやすらぎの時間です。

こうして大義を共に心に刻む事は絆を深めるかもしれません。
柿見君にとって種村君が大義そのものとなっているのにも
そんな背景が見える気がします。

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オチの話

柿見君は、
天皇よりむしろ、一般の人達にこそ不快感を感じます。

開戦時は天皇を神と崇め、
負ければ全て天皇のせいだと怒り
平和になれば親しんだり、宣伝にも使うという
変わり身の早さに。

この辺の心理は特に予科練生らしいと思います。
そして、強権的な上官に対して殆ど恨みの念が無い所なども
リアルだなと思いました。

厳しい上官の下で鍛えていると、それだけで他の班や分隊に対して
箔が付くのです。
しばかれるほどに強くなる自分を実感、
そんな班長と自分にシビれる、憧れる、という気持ちがあったようです。

作者氏の予科練生をよく把握している様子が読み応えのある所です。

ラストは
柿見君は、天皇を政治利用しようとする最も不快な男に、
ある彼なりの復讐を実行する所で終わります。

興味のある方は読んでみてください。

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ある元予科練さんの天皇観

元予科練さんが戦後の自分を語る際の
ファクターとなりやすい話題があります。
戦後の国民からの扱いは冷たかったという話

戦中国民に絶賛されたものの
終戦すると「お前らのせいで負けた」
「なんで生き残ったのか」とイヤミを言われ
元予科練と知られると就職は会ってももらえない…
だから多くは自分の経歴を人に言わず
生きてきたようです。

改めて天皇に思う事は?と
元予科練生さんに訊いたら一言だけ
「可哀想だと思う…」とおっしゃいました。
それ以上は語らなかった。

誰を重ねているのか分かる気がしました。

おわり

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そうそう

一緒に載ってる「軍艦旗はためく丘に」も良いです😣!!

末期の甲種予科練生の各期同居してる様子、
16期から見た13期と14期の先輩下士官が面白い。

13期は地上勤務で班長やらされてイライラしてる
まだ飛行機乗れると期待してる
それをとっくに諦めてる14期が呆れて見てる
って、
ありそうすぎる!

13期班長はまだまだ中身子供だから、大人風吹かせて女性経験を自慢したりする
16期苦笑
14期は優しいけど訓練を完全に受けれてないから、
やっぱり逞しい13期に鍛えてもらいたい…
などというマゾな所が、予科練生らしくて最高でした🤭


ほんとにおわり

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