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新型コロナウイルス感染症感染拡大が与える児童養護施設への影響

以下の記事は、2020年上半期にインタビューしたものです。

今回、私は(以下、あずさ)『コロナ感染症が与える児童養護施設への影響』について、児童養護施設でソーシャルワーカーとして勤務されている職員の方(以下、Xさんとする)にZOOMを使ってお話を伺いました。

施設で暮らす子供たちの様子

あずさ:今回は、新型コロナウイルスの感染症が流行しているなか、児童養護施設はどのような様子なのか、ということをお聞きしたいと思っております。早速ですが、学校の休校が続いていますが、施設で暮らす子供たちの様子はいかがですか。

Xさん:学校が休みなので、主に午前中は学校からだされた課題、午後は外遊びや体育館で遊びをしたり、ゲームをしたり、DVDをみたり、それぞれ過ごしています。今日は天気がいいのでみんな園庭でサッカーをしたり、遊具、ブランコなどで遊んだり、楽しそうな声は聞こえてきます。しかし、外出できないことで、大きい子(中高生)中心にストレスはたまっています。バイトも高校生は先月から感染防止の観点から行かせていません。子どもたちもいろいろと我慢していて、特にメンタルが不安定な子は、そのストレスの影響がもろにあって、リストカット、抜け出し、色々な形で表出化しています。

あずさ:そうなんですね。しかし、園庭があるのは良いですね!!

Xさん:そうですね。ご寄付でブランコやアスレチックをいただいて、これらを使って遊んでいます。

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あずさ:高校生のバイトを休ませているとありましたが、バイトのいけないことで今後、不安になったり、困ったりすることを教えてください。

Xさん:まず、高校生たちがアルバイトをする理由としては3つあります。1つ目は、施設を出た後の学費や生活費として。親から経済的な援助を受けられない子がほとんどなので、その辺りは不安です。2つ目は、スマホの支払いのためです。ちょうど今日、子どもと「携帯代が払えなくなったら、どうしようかね。」と話していました。今は格安SIMなど、ある程度お小遣いの範疇でスマホを持てることもできますが、やはり周りの子たちが最新のiPhoneを持っていると、自分も持ちたいと思いますよね。特に「普通がいい」という思いが強い子たちなので。しかしその分月額の支払いが多くなるので、この状況が長引くほど不安になります。3つ目は、やはりアルバイト自体が社会性を身に着けるための体験の一つだということです。このように体験を重ねられないことはこの先を考えたときにはマイナスに働いてしまうかもしれないなと思っています。

あずさ:今の時期、退所されたお子さんから特に多くの連絡が来ることはありますか。

Xさん:コロナ以前と比べてすごく多いわけでないです。報道 されているように、こういう状況だからこそ頼れないという子が多いです。だから、その分こちらから「ご飯は食べられてる?」とか「お金は大丈夫?」という連絡をいれています。今はちょうど、1人10万円の給付金(特別定額給付金)があるため、その申請についても、「やり方がわからなかったら電話やLINEをしてきて。」と連絡をしています。中には、居酒屋さんでアルバイトをしている子で休業により給料がなくなり、家賃が払えない状況も出ていています。そうなると緊急小口貸付等の申請のフォローをするのですが、この件数についてもかなり多くなっています。

施設で働く職員さんたちの様子

あずさ:職員さんたちの勤務状況に変更があったり、人数が足りていないかったりする問題や困っていることはありますか。

Xさん:普段は、子供たちが学校や幼稚園に行っている間に掃除・洗濯とあわせて、事務作業や毎日の生活の記録などの管理業務や、通院付き添いや関係機関との連絡調整等をするのですが、今は子供たちが常に施設に居るので、勤務時間の前後にやるしかないのです。だから、残業や超勤をして対応をせざるを得なくなっていますので、職員はかなり疲弊しているというのが事実です。このような状況なので、アルバイト・パートなどの補助職員を入れるための予算は確保されているようなのですが、リスクを考えるとなかなか外の人を中に入れられないというのが現状です。また普段、ボランティアさんが補ってくださる学習支援や余暇支援などもすべて職員のみで対応せざるをえず、勤務状況は厳しくなっています。また、親御さんとの対応もとても大変です。こういう事態なので家族交流に制限がかかっており、親御さんからしたらやっぱり子どものことが心配です。施設に子どもを預けている親御さんたちは半数以上が精神疾患を抱えていらっしゃるため連日のようにお電話をしてくる方もいて、その対応でも職員は手一杯になっています。

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あずさ:施設に子どもを預けている親の半数が精神疾患を抱えていて、その親から心配でかかってくる電話対応が大変というのが、私自身一番驚いたことだったのですが、他にも交流が行えないことで生じている問題があれば教えてください。

Xさん:そもそも児童養護施設は虐待を含め、さまざまな理由があって親と生活することが適当ではないお子さんをお預かりしながら、その間に児童相談所や地域機関と連携して、親御さんのケア、例えば、経済的な課題があるなら就労・生活支援のサポートをしたり、精神疾患をお持ちであれば医療とつなげたり、親子関係が上手くいっていないなら親子関係修復のプログラムに参加していただいたりします。つまり、親子ともに望んでいる場合に再び家族で一緒に生活できるように支援することも児童養護施設の大きな役割です。交流ができないってことは、そのサポートが進まないことなので、そこは生じている大きな問題だと思っています。

施設の設備や空間づくりについて

あずさ:心理士さんとのセラピーや面談、これから始まるかもしれないオンライン授業等を受けるにあたって、安心した静かなひとりひとりの空間づくりで工夫していることがあれば教えてください。

Xさん:先行して私立高校や塾が、オンライン授業をスタートしています。塾は大抵19時くらいから授業が始まることが多いのですが、施設では19時頃というと、夕飯を食べ終わって自由時間としてワイワイと騒がしい時間です。子どもたちにはそれぞれ個室が用意されていますが、リビングが騒がしくて自室で授業を受けていても集中できないという訴えがありました。対策としては、生活棟以外の会議室や面会室を活用していますが、今後、学校が一斉にオンライン授業となったとき、グループホームを中心にそういった部屋数も足りず本当に場所がないと課題になっています。

あずさ:5月1日に厚生労働省からの事務連絡では、マスクやネット環境整備、個室化に必要な改修費やパーテーションの購入費等のための予算がだされました。しかし、急な改修やパーテーションの購入等に費用が下りても現場で、それを実行するのは難しいのではないかと考えられるのですが、いかがですか?

Xさん:そうですね、細かいところを言うと、パーテーションをつけるにしても防火基準との兼ね合い等で設置するのも工夫が必要ですし、パーテーションで「音」が防げるかというと防げないですよね。そうなってくるとよっぽどヘットセットを購入した方が集中できるのではないかと思っています。また、施設のトップ層(施設長など)がITに詳しくないとなかなかIT化が進まないのではないでしょうか。一般家庭との格差もありますが、施設間にも格差が出てきてしまうと考えられます。

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施設の子どもたちや職員さんたちが伝えたいこと

あずさ:最後に現場で働く職員さんや施設で暮らす子どもたちが、今たくさんの方に知って欲しいことなどありますか?

Xさん:例えば、メディアでパチンコ屋に人がたくさん並んでいたり、河川敷でBBQをする人たちがいたりというのが放送されていますよね。施設の子どもたちはかなり早い段階から、外出制限をかけて我慢してもらっているなかで、子どもたちがそのニュースをみて「一生懸命我慢しているのにバカらしくなる。」と言っていたのが、いたたまれませんでした。さらに、このような状況が続けば虐待も増えて施設に入ってくる子も増えるかもしれない。医療現場の崩壊のように、福祉の現場も崩壊しかねないというところが、現場にいるからこそ痛感しています。

私たちができること・支援サイトのまとめ

私たちが今できることは、とにかく不要不急の外出をしないこと。一刻も早くコロナ感染症が終息するように協力することです。

以下のサイトは各施設への寄付や寄贈の仲介役になってくださっている団体のホームページです。記事を読んでいただいてお分かりだと思いますが、直接の電話対応はなるべく避けていただきたいので、施設方々に直接連絡をするのはご遠慮ください。


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