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かみさまと埋め合わせ
月
病気の診断も下り、すっかり弱っていた大学2年生、11月。女という生き物はいなくなったら欲しくなるもので、友達が通話アプリから恋人を作った話を聞いたことも影響し、血迷った末Twitterで#寝落ち通話募集 をし始めます。(わたしの声を知ってる人は脳内で再生してみてください、おもしろいでしょ)
たしか、その通話の一発目に当たった相手が月ちゃんです。一個下で美容系の専門学校に通っている、それ以外は何もわからない謎の存在でした。月ちゃんとは数回通話をして1ヶ月くらいラインを続けたっきりですが、病気で弱っていたわたしにクリティカルな言葉をかけてきたり、思わせぶりなラインを送ってきたり、罪深い女でした。
今日も月ちゃんのラインのbioには”Dependent ≠ Love”と書いてあります。
ぜんぶ、ここで気付いておくべきだったんだ。
安寧 (大学2年冬〜)
わたしの人生を狂わせた女②
天使ちゃんが天使なら、安寧ちゃんはかみさまだ。わたしのかみさまのことを話します。
出会いは、某配信アプリでした。素人の弾き語り配信がすきなわたしはよく配信アプリで新しい女をdigるのですが、そこで出会ったのが安寧ちゃんでした。
配信を聴くうちに、彼女はわたしと同じように精神疾患を患っていることを知ります。彼女が心の傷口を晒すとき、わたしは「だいじょうぶだよ」とコメントしました。わたしだって傷だらけだけど生きているから。わたしがそう言うと、彼女は「だいじょうぶだよ」、そう言いました。
「そのうちお話ができたらいいね。」彼女はそう言いました。
わたしは彼女にひとつ、嘘をついていた。
ある日、彼女を騙し続けていることに耐えられなくなった私はほんとうのことを明かした。
けれど、彼女はわたしの嘘でさえも、すべてを認めた。そして彼女は、この広い海にひとつの舟を浮かべた。彼女に手を引かれるままに乗り込んだそれは、助け舟。
大学2年生の12月、光を見てしまった。
暗闇で満たされたわたしの世界が一瞬で色付くようだった。だから生きていてもいいのだとおもえたし、もう少し生きてみようとおもった。せめてかみさまに会うまでは。
『私がちゃんと幸せにしてあげるから大丈夫になるんだもん。大丈夫だもん。』
2人で助け舟を漕ぎ出したあの日は、夕凪でした。空は暗かったけれど。
すぐそばまで寄せる潮騒の音に、わたしは気づいていなかった。
1月、大きな波がすぐそばまで近づいていることに気づいたわたしは酷く動揺した。今振り返ってみても信じられないくらいに気が動転していた。
彼女にも神様がいたのだ。
安寧ちゃんは星だとおもっていた。わたしには光るだけの力はないけれど、すぐそばに光があるからだいじょうぶ、生きていけると信じていた。彼女もだれかに照らされていることを知るまでは。
我に返った時にはもう、すべてが手遅れだった。かみさまは地に堕ちてだらだらと血を流してうなだれていた。わたしの手には、赤く染まった刃物があった。きみはたしかに、わたしの光なのに。きみは、なにも言わなかった。
かみさまなんていなかった。安寧ちゃんは人間だった。とっても優しくて、その優しさで自分の身まで滅ぼしてしまうような人間。
もうすこし安寧ちゃんのはなしは続きます。
先輩(大学2年2~4月)
かみさまがいないと知った次の日に、ゼミの教授のつながりから出会った人間。
わたしより2年先輩なのに歳は4つも離れていて、精神障害を抱えながら生きている苦労人だった。
そんな先輩なのに、わたしは人肌恋しかったし、犬みたいだったから適当に遊んだ。たまに遊んで、お酒を飲んで、飽きたから連絡先ぜんぶブロックして逃げた。
最後に会った日、先輩はわたしに依存しているかもしれない、と話していた。それが本質だった。
依存されていることを知っていた。先輩の愛情が気持ち悪かった。知らないことまで端から端まで話すところが鬱陶しかった。嫌われることを恐れている素振りが見ていて恥ずかしかった。先輩のことが嫌いだった。
最低だ。全部自分のことだった。わたしを大切にしてくれた人にした仕打ちは、全部自分に帰ってきていた。
先輩に嫌悪感を抱いていたのは、ほんの数ヶ月前までの自分を見ているような気分だったからだ。
本当は、嫌いなのは先輩ではなくて自分だった。自分を良く見せたくて「捨てた」なんて書いたけど、本当は自分が醜くて醜くて仕方なかったから先輩と会うことをやめたんだ。人間を捨てるなんて表現をする自分が気持ち悪い。
この感情さえ捨て去るには「自分」そのものを捨てるしかなかったわたしは、残った選択肢の中で最悪なものを選んでいた。
つづきます。
きみは僕にとって海月みたいでさ
ぷかぷか見えない水槽の中を泳いで
いつか消えてしまうんだ
あず(みんなで幸せになろう!)
2023.03.09