台湾特許出願制度の特徴及び台湾調査ツール

1. はじめに

 台湾の専利法(*注釈1)は、日本と違って、発明特許、実用新案、意匠を合わせて3つの概念が含まれています。つまり、1つの専利法に発明特許、実用新案、意匠の関連規則が記載されています。ここでは、発明特許(日本の「特許」に相当します。以下「特許」と記載します)出願制度の特徴についてご紹介します。

2. 台湾特許出願制度の特徴

2.1 特実同日出願(二重出願)

 同一出願人が同一発明で、同日にそれぞれ特許と実用新案に出願することが可能です。出願する時「二重出願」の旨を記載する必要があります。さらに、特許の審査結果が出る前に実用新案の権利を既に取得している場合、特許と実用新案との内から一つしか選択できません(専利法第32条第1項)。特許を選ぶ場合、取得していた実用新案の権利が特許登録日から消滅することになります(専利法第32条第2項)。もし特許の審査結果が出る前に実用新案の権利が消滅もしくは放棄をした場合、特許の権利は付与されません。つまり、特許権利を取得するまでに、実用新案の権利存続が必要となります。(専利法第32条第3項)

2.2 特許・実用新案・意匠の間での出願変更制度

 日本の特許法と同様に、出願後に権利範囲と明細書と図の内容がもとの出願の掲示内容を超えない条件で、下記のように出願種類の変更が可能です。もとの出願の出願日が変更出願の出願日となります。

特許⇄実用新案、実用新案⇄意匠、特許→意匠

 ただし、台湾の専利法では、以下の場合には出願種類の変更ができません(専利法第108条第2項)。
 ①もとの出願に対する査定が送達された後
 ②もとの出願が特許もしくは意匠であり、拒絶査定書の送達から2か月後
 ③もとの出願が実用新案であり、実用新案登録を受けることができない旨の処分書の送達から30日後

2.3 国内優先権制度と追加特許制度

 台湾の専利法は2001年10月24日に国内優先権制度を導入しました。基本内容は海外優先権制度と同じですが、国内優先権制度において後願が先願に取って代わる効果があります。重複公開と重複審査を避けるために、先願は出願後15カ月で取り下げられたものとみなされます(専利法第30条第2項)。
 国内優先権制度の他に、目的は同じものの、性質が異なる追加特許制度があります。後願の内容が先願の明細書や権利範囲を超えることはできない国内優先権と違って、追加特許の内容が先願と技術的に関連性があればよく、先願の明細書や権利範囲に規制されていません。結果として、国内優先権が取得できるのは1つの特許権で、追加特許は2つの特許権を取得できます。また、追加特許の出願日は実際の出願日となることと、追加特許の出願タイミングは先願が出願後、消滅する前ということで、国内優先権と異なります。
 日本においては、明治32年から昭和60年の間に追加特許制度が存在していましたが、昭和60年の改正で国内優先権制度の導入により、追加特許制度が廃止されました。
 日本と同じ理由で、台湾国内にも追加特許制度を廃止すべきという意見がありますが、現状は国内優先権制度と追加特許制度が併存しています。

2.4 秘密保持審査制度

 日本では、2022年5月11日に成立した経済安全保障推進法に基づき、特許出願非公開制度が導入されました。本制度は、特許出願の明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されていた場合には、「保全指定」という手続により、出願公開、特許査定及び拒絶査定といった特許手続を留保するものです(推進法65条1項)。本制度開始後は、日本国内でした発明で公になっていないもののうち、日本に特許出願すれば保全審査に付されることになる発明は、原則として、外国出願よりも先に日本に特許出願(第一国出願)しなければならないとされています(推進法78条1項)。
 台湾では、国家機密またはその他の国の安全に関わる発明に対して、国防部(日本の防衛省に相当)または国家安全の関連部門により秘密保持が必要と判断された場合、査定書が出願人に送達してから1年間を秘密保持期間としています。秘密保持期間の延長が可能であり、毎回延長期間は1年となります。秘密保持期間に出願人が受けた損失について、政府は相当の補償を与えなければなりません(専利法第51条第3項、第5項)。ただし、日本と違って、台湾の秘密保持審査制度には外国出願禁止事項はありません。

2.5 台湾特許出願ルート

 日本では、海外に出願するルートとして、直接出願以外に、PCT出願(PCTルート)とパリ条約に基づく出願(パリルート)との2つの優先権主張可能な方法があります。出願の手続きは互いに異なりますが、いずれも優先権の主張可能期間は12か月となります。
 台湾はPCTに加盟していないので、PCTルートで台湾へ特許出願することができませんが、PCT出願に基づいて優先権を主張することは認められます。ただし、PCT優先権を主張する場合、PCT出願をしてから12か月以内に台湾へ出願する必要があります。 
 台湾は2002年1月1日にWTOの加盟国、パリルートが適用されることになりました。台湾と互いに優先権を認めている国もしくはWTO加盟国の国民、または前記の国に住所もしくは営業所の住所を有すれば準国民として優先権の主張が可能です。現状で特許と実用新案の場合は外国で出願してから12か月以内に、意匠の場合は6か月以内に台湾に出願する必要があります。(*注釈2)

2.6 特許存続期間の延長

 台湾は日本と同じく医薬品や農薬に関する発明に対して、所定条件を満たす場合、特許権の存続期間5年限度で延長できる制度があります。それ以外に、台湾と外国との間に発生した戦争により損失を受けたときは、戦争の対象国の国民以外の特許権者に限定し、一回に限り特許権の5年から10年の延長を請求することができる制度があります(専利法第66条)。
 医薬品や農薬に関する発明に対する期間延長は、対象が医薬品と農薬品に限定され、法律に決められた許可証明書を取得する必要があり、延長規定に違反する場合、誰でも特許異議の申立てることができます。戦争による期間延長は、期間延長の対象が限定されず、外国との戦争による損害事実があれば認められ、延長規定に違反する場合、特許異議の理由を提起しなくても良いです。

3. 台湾特許調査ツール

3.1 特許調査

3.1.1 台湾国内の特許検索システム

 台湾特許文献を調査する場合、商用データベース以外に、台湾知財局の「特許検索システム」を利用する方法もあります。このシステムの表示言語は中国語/英語で、調査対象として特許・実用新案・意匠が設定可能です。特実同日出願(二重出願)であるか否かも検索画面で設定可能です。
 検索方法としては、番号照会はもちろん、簡易検索・詳細検索・ブーリアン検索・概念検索により簡単に文献を探すことができます。他には、権利状況、権利変更履歴、中国語の同義語、会社名同義語の照会もできます。また、半導体産業を重点として発展している国だけに、集積回路の回路レイアウトの登録状況と案件状況を照会する独自の項目があります。


図1 [特許検索システム] 集積回路の照会画面


3.1.2 グローバル特許検索システム

 グローバル特許を調査する場合、台湾知財局により構築された「グローバル特許検索システム」を利用することが可能です。表示可能な言語が中国語/英語で、調査対象国の台湾、日本、韓国、中国、米国、東南アジア、欧州、WIPO(PCT)に対して公開、登録、意匠の情報を調べることが可能です。検索方法は上記の特許検索システムと同じく、番号照会、簡易検索・詳細検索・ブーリアン検索・概念検索の選択項目があります。現在、特定のテーマ(感染予防、グリーン技術)について、「主題專區(テーマコーナー)」の検索ページで、限定された範囲でより簡単にズバリの文献を検索することが可能です。
 公報の審査状況はEuropean Patent Officeが提供している「European Patent Register」の内容を使用しているため、欧州公報のみ照会可能です。


図2 [グローバル特許検索システム]検索対象国と表示項目の選択画面


図3 [グローバル特許検索システム]特定のテーマであるグリーン技術の検索画面


 グローバル特許検索システムでは、無料会員登録をすれば更に多様な特許分析機能を利用するが可能です。ログインすると、検索情報ログの自動削除期間が1.5時間→3時間となり、検索設定値の保存及び編集が可能で、書誌事項のダウンロード、ハイライトの設定、統計分析、チャート分析、技術降下マトリックスなどの付加機能が使用可能となります。


図4 [グローバル特許検索システム]分析結果の表示画面


図5 [グローバル特許検索システム]分析結果の表示項目を選択する画面


3.2 非特許調査

 台湾知財局の閲覧室で非特許文献を調べることが可能です。オンラインでは下記のサイトで非特許文献の検索ができます。
・「臺灣博碩士論文知識加值系統(台湾の学位論文の国立デジタル図書館)」_中国語/英語の表示ができます。外国の方も会員登録可能です。一部の論文はインターネットで全文公開されていない場合もあります。


図6 [学位論文の国立デジタル図書館]ホーム画面


図7 [学位論文の国立デジタル図書館]大学別の論文収録数


4. おわりに

 台湾の特許出願制度は基本的に日本と類似していますが、PCTルートで台湾へ出願することができないため、PCT出願後にPCTの出願日を優先日として主張して台湾へ出願する際は台湾独自の手続きが必要となります。また、台湾の特実同日出願(二重出願)制度には、実用新案をより迅速的に取得することで、市場に出す商品がより早めに権利で保護できるメリットがあります。そのため、台湾へ進出する計画があれば、特実同日出願(二重出願)制度を検討・利用しても良いかもしれません。
 調査ツールとして近年アップグレードされた台湾知財局の特許検索システムでは、簡単に国内外の特許・実用新案・意匠への調査ができ、英語表示画面もあります。設定画面で対象調査国と調査種別と表示項目を選択しておけば、商用データベースを使わなくても、必要な特許情報を手に入れることが可能ですので、非常に便利なツールでお薦めです。

調査1部 シュ

*注釈1:
 中華民国政府が台湾へ移転する前に発表され、台湾へ移転した後に実施するようになりました。そのため、台湾専利法のベースは大陸法で、日本を含む各国の特許法を参考し、数十年をかけて複数回の改正を行ってきました。

*注釈2:
 現在優先権期間として、特許と実用新案は12か月で、意匠は6か月以内となっています。ただし、2023年3月9日に台湾行政院で可決された改正により、意匠の優先権期間が6か月から12か月に変更されることとなります。「2023年3月9日に行政院で可決された専利法の改正重点内容」は下記の通りです。
1.専門的に再審査及び異議案件を対応する独立部門の創設
2.専門的で効率的かつ厳格なレビュープロセスを再構築する
3.審査決定に不服がある場合は、直接訴訟を提起することができ、控訴手続きが免除される
4.「審査訴訟」「紛争訴訟」等の特別訴訟の創設
5.特許紛争訴訟における弁護士または弁理士の強制代理
6.意匠の優先権期間が6か月から12か月に変更する (既存は特許と実用新案だけ12か月となっています。)

【参考】
・「専利法」_著者 陳龍昇 2020年9月
・「標準特許法」_著者 高林龍 2022年7月
・經濟部智慧財產局專利主題網
https://topic.tipo.gov.tw/patents-tw/np-674-101.html
・經濟部智慧財產局中小企業IP專區
https://pcm.tipo.gov.tw/SME/index.html
・台湾国内特許検索システム
https://twpat1.tipo.gov.tw/
・グローバル特許検索システム
https://gpss3.tipo.gov.tw/
・Google Scholar
https://scholar.google.com.tw/
・臺灣博碩士論文知識加值系統(台湾の学位論文の国立デジタル図書館)中国語/英語
https://etds.ncl.edu.tw/cgi-bin/gs32/gsweb.cgi/login?o=dwebmge
・JETRO追加特許に関する調査報告書
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/in/ip/pdf/survey_201810.pdf
・日本特許庁_特許出願非公開制度について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html

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