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Tのこと

作品事例06: ウェディングのロゴデザイン

  • 新婦Tと新郎Nのイニシャルを組み合わせたロゴデザイン

  • 会場の雰囲気に合わせ、アールヌーボー風のデザインに。

  • 会場指定の席次表・メニューの表紙にロゴデザインを反映


友人の依頼で制作したロゴデザイン。
新郎新婦のイニシャルをひとつに組み合わせた。

イタリアとクラシックなものが好きな友人Tのために作ったデザイン。アールヌーボーという言葉は聞いたことがあるし知ってもいたけど、正直アールデコとの違いを把握していなかった。

この依頼をきっかに、はじめてアールヌーボーについてきちんと調べたのだけど、曲線が特徴のタイポグラフィは興味深く、面白かった
そして会場のレストランも、素晴らしかった。

会場が提供するメニュー表と席次表。
紙色とインクの色、紐の色をコーディネートさせてもらった。

マーメイドラインのシックなドレスにぴったりだったと思う。

この彼女、“T”をイメージして作ったバックがある。
バックをお買い上げくださったお嬢さん方に「これ、どういうイメージで作ったんですか?」って聞かれて

「フリルは心のひだを表現していて。ある友達をイメージしたデザインなんです。」

って答えた。


「上質感」というものを、私は彼女から教えてもらった。もう会わなくなって、8年以上が経つ。

いまは住所も分からなくなってしまったけど

今も大好きな友達。
誰かの手を通して、この記事が彼女のもとに届きますように。


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Tのこと


Tのことを話します


プリーツのトートは、ある友達をイメージしてデザインしました。
8歳年下の女の子。


ツーブロックのショートに猫みたいな目
人見知りで デリケートで

センスが良くて


私の憧れの娘(こ)でした


いつもデニムで、スカートを履いているのを、ほとんど見たことがありません。

でも、いつ会っても 

どんなにラフな格好をしていても
刈り上げみたいに髪を短くしていようが

女っぽい。


そして

下町生まれだけど 隠し切れない「品」を纏っていました。


人付き合いは下手な印象。

一度ダメだと思ったら最後、貝に隠れたヤドカリみたいに 出てこない…。

そんな自分を持て余しているようにも見えました。


すごく人見知りだけれど どういう訳か
私にはとてもなついてくれて


「あさえさん」 って(私の本名です)
よくご飯を食べに来ては子供の相手をしてくれて


私が子供を寝付かしたまま一緒に寝てしまうと、洗い物と洗濯物を畳んでくれて、そっと帰って行く

そういう娘(こ)でした。



彼女に、私はすごく憧れてたのです


だってその時の私といったら

慣れない子育てに追われて 


気付くとかたちんばの靴下を履いていたり

袖にご飯つぶをくっつけてるのを出先で見つけては、“みっともない”と自分を恥じて


文字通りの「孤育て」真っ最中。

始終イライラしてて

いちばん話したい人とは、言葉が通じなくなってしまって


両手に野菜とトイレットペーパー
幼い娘のぬくもりと汗をぴったり胸に抱え

押しつぶされそうな孤独を感じながら

ビジネスマンの群れに混じって信号待ちをしてました。(自宅がオフィス街なのです)


そんな時に、軽やかに現われては、優しさを示してくれる人に

憧れを感じない訳など なかったのです。


Tの旦那さんになったS君は、もともと私の友達でした。

彼にこう、言われた事があります。「いつもTに優しくしてくれてありがとうね」

ううん違うよ
Tが私にとっても優しかったんだよ


今、互いの世界になぜ互いがいないのか、よく分かりません。


ボタンを掛け違えたのだとしたら

だぶん「あの」瞬間。それだけは今、ぼんやりと分かるけど


お互いがいなくなるなんて思ってなかった。


Tとなんとなく会わなくなって、日常になんの差し支えもなくて 

随分経ったけど


Tの事を、すっかり忘れた事はありません。


今でも「どうしてるかな」って考えると

鼻の奥がツンとする時がある。


手の平からこぼしてしまった、私の「とっておき」。


彼女がこのバックを見たらどう言うだろう?

もしかしたら

「かわいいの作れたねー。でも私にはちょっと違うから持たないなあ」

ってはっきり言うかもしれない。
そういう所も、好きでした。


今までとこれからで
特に何も変わりはないけれど

ひとつ 自分の中で起こった変化


Tを自分の中から解放できたような気がします。


私の中のTを具現化したら

たくさんの人が 色が素敵って言ってくれた。


もう自分の中に縛り付けてなくて、いいんだ。


・・・・・・・・・・

2通送った展示会の招待状は、どちらも返ってきてしまったけど

いつかまた お互いが必要な時があるのなら、会える時が来るのでしょう。


ちょっと拗ねたような照れた顔で、S君の肩に隠れながら 

ひょっこりと現われるかな?


願わくば


Tのたったひとつの願いごとが、叶っていますように。TとS君が 今日も笑っていますように。



あのとき私に話してくれた、あの願いとあの時間を

忘れてないよ。

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