【読書メモ】『フルサトをつくる』伊藤洋志×pha 著
「最低限死なないための拠点を作る過程」を紹介してくれるワクワクの詰まったゆるサバイバル本
これは、pha氏と伊藤氏が和歌山県熊野地方で築いた、「帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方」づくりの経過と雑感が語られている本である。
また、働く・暮らす=雇用される以外の商いを持つ人達のサンプル集でもある。
「いわゆる雇用される現代的な仕事」を続けていくことに疑問を抱く人には多いに参考になる。
定番の農作業に始まり、床を張ったり、家を修繕したり、カフェ+本屋+宿といった複合要素を持つ小商いを始めたりといった、従来の「働く」という観点ではなかなか出てこないが、原始的かつ覚えていたら確実に身を助けるような事例がいくつも掲載されている。
とりわけいいな、と思ったのが「えんがわ」という私設図書館とそこで使われている「リブライズ(http://librize.com/ja)」という図書館をつくるためのウェブサービス。
本棚ひとつで図書館を始められるというのはとても面白い。
公共施設か、お金持ちが作るものだと思っていた図書館が自分で作れるなんて目からうろこだった。
ただ、「ではフルサトづくりに興味を持ったらどうするか?」という点はちょっと手薄な感がある。
あくまで事例を紹介するに留まる感じだった。
(まあその「押し付けない感じ」が「都会のビジネス的」でないので好きなのだが)
フルサトづくりは「いわゆる普通の人」じゃない人でも実践できるか?
本書で紹介されているフルサトづくりは、とても夢のある話だし、面白そうだと思ったが、私のようなLGBTsやその他のマイノリティが実践するにはハードルがあるような気がした。
というのも、日本の田舎がLGBTsやら発達障害や精神疾患などのいわゆる「ふつうじゃない人」に寛容とは、ちょっと思いにくい現実がある。
LGBTs絡みではようやくパートナーシップ制度等が導入されだしたが、それもまだ都市部に限った話だ。
これでは都市に本拠を置きつつ田舎に通う形式ならいいだろうが、その逆の田舎に拠点を置いて時々都市に出ていくパターンは封じられているも同然といえる。
たとえばLGBTsとメンタル系のあれこれを併せ持っている人の中には都市でないほうが暮らしやすい人も少なくないと思うのだが、これらの暮らしづらさから都市を離れられない、田舎で素性を隠したまま縮こまるように生きるしか無い人も多いだろう。ネットでもたまにそういう嘆きを見かける。
本書が言うように「田舎に土地が余っていて困るくらい」「都会で暮らすのはお金がかかり刺激が強すぎる」なら、それはひどく勿体無い話だと思うのだ。
フルサトづくりは肩肘張らずに、とあるものの、ほんとうの素顔や生態を明かさずにいるならば、嘘をついているようだし、きっと長続きしないだろう。
ただ、pha氏のギークハウスに代表されるような「ギーク」というのはパソコン系のオタクっぽい人間のことを指すワードなので、「偏屈者」を気にせずいてくれる土壌を見つけるなり、築くなりできれば可能性はあるのかもしれないな、と一抹の期待は抱けた。
(私は聴覚過敏と予想がつかない行動が苦手なので子供が好きではないが、田舎住まいのマイノリティ属性をもつ子供や十代に、「ああ、こういう大人もいるのか」というロールモデルを示せるなら、それはそれで意義のあることだと思うので、実践できるなら面白そうだなあと思う)
私が読んだのは大判だが、文庫版も出ているそうだ。
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