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ティピカル・パルプスリンガーズ・エピソード #ppslgr

序:ワンス・アポン・ア・タイム・ロスト・サマー


四角く切り取られた空が遠い。男は、四方を高層ビルに囲まれた小さな公園のブランコに座っているサラリーマンの自分を見出した。他の遊具は滑り台しかない。

日は徐々に傾きつつある。取引先との商談は滞りなく終わった。あとは今日の業務日報と明日の打ち合わせ用の資料作成をするため、会社に戻るだけだ。ブランコに座り込んだまま、立ち上がらない。気力がない。

スマホを見やる。昨日の夜、彼女から届いたメッセージが未読のままだ。そろそろ返信しないと訝しむだろうか。それとも既に愛想を尽かされているだろうか。俺は週末のデートで立ち寄る店を探すため、ブラウザを立ち上げようとするが、思い直してドキュメントアプリをタップした。トップにあるのは「遺跡ハンターマサキ」の文字。

なんてことはない。ただの自作小説だ。少年がいなくなった考古学者の父親の手掛かりを探すため、遺跡を巡る冒険活劇。昔好きだった少年漫画にインスパイアされた。つい話を想像してしまったので、書いた。書きかけの箇所まで画面をスワイプする。思ったよりも筆が乗ってしまい、スマホで続きを打つには少々骨が折れる頃合いになってきた。ちらりと鞄のノートパソコンが頭を過ぎる。いや、それは帰ってからにしよう。

別に物書きになりたいかった訳でもない。文才があるとも思っていないし、そもそも誰かに読ませる気もない。ただ書きたかったから書いた。それだけだ。ただ、頭の中にイメージが沸き上がり、それを文章に書き起こす。自分でも理由はよく分かっていない。何が俺を掻き立てるのだろうか。

ビル風が呻き声のような音を立てながら公園を通り過ぎる。いつから俺はこんな大人になったのだろうか。そもそも大人とは何だったか。四角く切り取られた空が遠い。

『noteカイゼンのお知らせ。noteカイゼンのお知らせです……』遠くのスピーカーからウグイス嬢のように少女の声でアナウンスが聞こえてきた。超巨大創作売買施設”Note”の管理AI、ノートちゃんだ。ここはNoteからほど近い場所にある。昔はよく顔を出していたが、今は足取りが重くなり、最近は足を運んでいない。

「URL埋め込み時の画像を大きく……きゃ!?何なんですかあなたーーー」キィィィィン、というハウリング音で俺の思考は中断させられた。思わず耳を塞ぎ顔をしかめる。「グァーハッハッハッハ!御機嫌よう、人類の諸君!」スピーカーから野太い男の声が流れ始めた。

「我々は12の次元を超えた先の深宇宙よりやって来た深層知的生命群集体である!二千年!実に二千年前からこの瞬間を今か今かとと待ちわびていたのだ!これより、この星の上質な知的生命と文明の収穫をさせていただくとする!それではさようなら、さようなら!」ブツッという音とともに、静けさが戻ってきた。

ビル風の呻き声が大きく聞こえる。あれだけ重かった体が、いつの間にか立ち上がっていた。大通りに向けて走り出す。のたうつような細い路地を抜け歩道に出る。8月が終わったにも関わらず、灼熱の気温が肌を焼く。見上げると、鬱陶しいほど青く晴れ渡っていた空が、窒息していた。

いや、錯覚だ。空の余白を埋め尽くすように馬鹿げた大きさの宇宙戦艦や雲霞のような飛行ロボットの集団が空を埋め尽くしていた。「ウソだろ…」余りの現実離れした光景に無意識に言葉が出る。これから先もずっと退屈で変化のない日常が続くはずだったのに、いつから現実はB級映画になったんだ?周りの人々が悲鳴をあげて逃げ出す。その理由を知ったのはほんの一瞬後だった。

「ああああ!?」気づくと俺は空を飛んでいた。違う。蜂のような形をした侵略兵器に抱えられている。地面があっという間に遠ざかる。血の気が引いた。地上が、あんなに、遠くに。蜂は真っ直ぐ母艦と思わしき戦艦へ飛翔する。「ふざ、けるな!」俺はもがいた。蜂の腕はビクともしない。

俺は死ぬのか?宇宙からの侵略者とかいう、こんなふざけた展開で?日々の仕事に埋もれたまま、何も成し遂げていないのに?そうだ。俺はまだ何も成し遂げてない。小説は書きかけだしよく冷えたCORONAも冷蔵庫の中だ。こんな馬鹿げたジョークに付き合ってる暇はない!ふざけるな!

右手にずっしりとした感触。スマホを持っていたはずの右手の中には、大口径のリボルバーがおさまっていた。俺は迷わず蜂に銃を向け、引き金を引いた。BLAM!銃弾は真っ直ぐ蜂の頭に当たり、バランスを崩したようによろめいたが、それだけだった。想像以上の反動に腕が痺れる。もう一度引き金を引く。BLAM!外れる。BLAM!また外れ。CLICK。CLICK。

「弾切れとか、ふざけんなよ…」リボルバーを持つ右手が力なく下がった。これで終わりなのか。地上からどれほど遠かったか振り返る気力もなかった。

不意に、目の前を影がよぎった。途端に拘束から開放される。蜂がバラバラの残骸になって落ちていくのが見えた。重力に従い体が落ち始めーーー何者かに首根っこを掴まれた。そのままものすごいスピードで地上へ高速落下していく!

ダンッ!という何かを踏み砕いた音と共に、俺は開放された。足の力が抜け、へにゃりとへたり込む。「危ないとこだったな、あんた」男は、全身黒ずくめの格好をしていた。腰には刀。明らかにヤバいやつだ。

「あ、ありがとうございます…ここはどこ…あいつらは一体…」頭が混乱して勝手に口が喋りだした。男はサラリーマンに構わず、宇宙船が浮かぶ空を見上げていた。「こいつは久々に大仕事だな」言葉とは裏腹に口調には余裕がある。

「とりあえず街全体に障壁は張ったからな。なんとか外周部の廃市街地で食い止めるよう努力するわ。あとは自分の身は自分でも守ってくれ。そのリボルバーでな」男がニヤリと笑った気がした。そこで俺はまだ銃を握りしめていたことに気づく。「ち、違うんだ、これはいつの間にか持ってて……」「最後まで言わなくていい」男は言葉を制するように片手をかざした。「書いてんだろ、パルプ」何故か、すっと頭の混乱が収まった。

「じゃあ、ちょっくら行ってくる。終わったらお前のパルプ、読ませてくれよ!」男が軽快な足取りでビルの縁へ向かう。ようやくサラリーマンは、廃ビルの屋上に下ろされていることに気づいた。「冷えたCORONAと一緒にな!」男がビルから飛び降りた。「おい!何やってんだ、ここ何階だとーーー」

ごう、という暴風が吹き荒れた。だらしなくはみ出たシャツが激しくはためく。ビルの下から現れたのは、ロボットとしか言いようの無い物体だった。

「俺はR・V!んで、こいつはイクサ・プロウラ!安心してくれ。俺たちがいればあれくらいどうってことないさ!」イクサ・プロウラと呼ばれた、漆黒の騎士のようなロボットが空へ飛び立つ。雲霞のように群れる兵器群にたった一機で立ち向かう。

カタン、と、手から何かが滑り落ちた。それは鈍く光るリボルバーではなく、ついさっきまで握りしめていたスマートフォンだった。サラリーマンは夢でも見るかのように空を見上げた。無数の兵器が飛び交う、稚気じみた光景を。


破:ウェルカム・トゥ・パルプスリンガーズ


廃市街地上空!漆黒の騎士は、空に無数にひしめく侵略兵器群に単機で突入せんとしていた!敵戦艦から砲撃が始まり、次々と大質量の砲弾が届き始める!

軽快な空中旋回でその致命的砲弾を回避すると、イクサ・プロウラの背面装甲が滑らかにスライド変形した。出力孔が青く発光し、膨大な量のレーザー光が噴出した。それらは曲線を描きながら敵兵器に殺到し、光の奔流は婉曲し優雅な螺旋曲線を描きながら、蜂型兵器を貫き、食い破り、空に華を咲かせながら宇宙戦艦の一隻に突き刺さる!KA-BOOOOM!

戦艦はバラバラの残骸になりながら廃市街地に落下していく!それが狼煙になったかのように宇宙侵略軍が攻撃を開始した!戦艦から地上に向けて降下ポッドが射出される!イクサ・プロウラは両掌から無数の青き光弾をばらまきながら、次の戦艦へ向かって速度をあげる!

―――

市街地!ホイール走行で無人の4車線道路を疾走する機影あり!降下ポッドから姿を表した奇妙な二足歩行爬虫類じみた兵器に対して、ミサイルとマシンガンで襲撃!BARATATATA!大量の排薬莢が、辺り一面に踊り狂ったかのように撒き散らされる!ミサイルが爆発し、ポッドごと侵略兵器を吹き飛ばした。

なおも地上に降下するポッドから兵器群が現れ、襲撃機を包囲しようとするが、滑らかな制動で掻い潜り、逆に翻弄する。引き付け、ビル陰に姿を隠し、誘導されたのは十字路!それを見下ろす都市迷彩柄の機体!途端に、爬虫類たちは支えを失ったかのようにその場に崩れ落ちた。ハッキング攻撃だ!

―――

BEEP!BEEP!緑色の軽自動車がT字コーナーから勢いよく飛び出す!蜂型兵器が空からガトリングで銃撃を仕掛けるも、蛇行運転で回避!ひときわ大きな瓦礫を踏み、車が跳ねるとウィリー走行で前方の敵機へ向かう!前輪部から二本の腕がせり出し、その手には拳銃が握りしめられている!そのままブレイクダンスじみた動きで爬虫類に風穴を空ける!BLAMBLAMBLAMBLAM!

そのまま三角飛びでビル壁面を飛び渡り、銃から持ち替えたシュツルムファウストで蜂の軍勢を焼き落とすと、ボンネットが跳ね出し 、凶悪な口径のカノン砲が飛び出した。着地と同時にカエルのような姿勢をとると砲先が輝きだし、機体色が緑から橙へと変化!BA-THROOOOM!閃光が路面をえぐりながら敵機を吹き飛ばした!

―――

身の丈ほどもある右腕を抱えた黄金と群青の機体が廃ビルの屋上を飛び渡る。おもむろに空に向けてその右腕に備え付けられた銃砲を向けると、金色のレーザー光が拡散し、蜂型兵器を次々と撃ち落とす。ひとしきり片付けるとビルを壁面伝いに降りてゆく。壁面に突き刺した左手が、縦一直線に穴を開ける。むき出しの動力配線が熱を帯び、機体の輪郭が揺らぐ。

ビル陰から身を躍らせると、前方にその鉄砲を向ける。黄金の光が正確なリズムを刻んで発光する。光が生まれた後には破壊と残骸が刻まれる。強力かつ最効率的な戦闘力でもって圧倒する。戦場に残されたのは巨大な風穴が空いた高層ビルと、山のように築かれた機械の残骸のみであった。

―――

剣闘士が素晴らしい回転飛翔でビルを飛び越えると、爬虫類兵器目掛け駆けだした!接近に気付いた敵機からの容赦のない銃弾の雨を円盾を掲げ凌ぐ!弾かれた跳弾が廃屋を、路面を抉ってゆく!その距離がワンインチ距離まで詰められると、剣闘士は円盾を閃かせ、ガトリングにパリィを決めた。ガトリングが暴発し、たじろぐ爬虫類!力強い一歩を踏み出しながら、剣闘士はブロードソードを爬虫類の胸に突き立てた!

その機械の体に、刀剣の柄まで押し込むと、おびただしいオイルがまるで血飛沫のように吹き出す!剣闘士の体が、円盾が、辺り一帯がどす黒く染まってゆく。そのまま、力任せに剣を上に振り上げる!正中線上から真っ二つになり前衛オブジェとなった爬虫類が、派手に油をまき散らしながら、ゆっくり後ろへと倒れてゆく。

無防備な剣闘士の背面に殺到する敵影は、美しいエルフ、神秘的ルーンを纏ったレディ、漆黒の影の三者が嵐のように飛び交い、瞬く間に殲滅していく。恐ろしいイマジナリーフレンドを引き連れ、剣闘士は敵軍を切り開いていく!

―――

飛び来るエネルギー弾を、鋼鉄の平手が弾き返した。その勢いのまま巨体がしなやかに飛び込み姿勢をつくり、手刀を交差して爬虫類に飛び掛かる!BAZOOM!その一撃で爬虫類は粉砕した。すかさず両腕を広げ回転ラリアットを繰り出し、着地際を狙った別の敵機がメタリックブルーの旋風に巻き込まれバラバラに砕ける!

GRAP!さらに身近の一体をむんずと掴むと勢いよく真後ろへと反り返り、CLAAAASH!頭から地面に叩きつける!そのままちゃぶ台をひっくり返すように空高く打ち上げる!空中で藻掻く爬虫類目掛け、ばね仕掛けのように飛び上がると、強靭な拳で再度地面へ叩き落とした!ZUUM……!最後のダメ押しとばかりに、落下地点の小クレーターへ胡坐姿勢で大質量が降りかかる!高々と勝利宣言するかのように、クレーターの中心で巨人は剛腕を掲げた!

―――

廃ビルのすぐ上を謎の大型六面体が飛行してゆく!六面体は緩やかに曲線を描きながら地表へと向かい、乗り捨てられた廃自動車を盛大にはね飛ばしながら地面をバウンドする!そしてその動きがようやく止まった時、上を向いていた数字は……6!すぐさま六つの面が展開し、格納されていた手足が、推進器が、銃火器の数々が内部から飛び出るようにせり出す!

弾丸のように疾駆する黒色の機体から銃弾が、榴弾が、死の打ち上げ花火が次々と吐き出される!BLAM!BARATATATA!KABOOOOM!爆風と鋼鉄が通り過ぎた後に残るのは破壊と殺戮の残骸、燻る火薬の匂い、そして大量の空薬莢!

―――

海上!荘厳な大和型戦艦が主砲を上空の宇宙戦艦へと向ける!蜂型兵器の猛攻を意に介さず、荒れ狂う波でさえその巨体は身動ぎもしない!BOOOOOM!!想像を絶する轟音と共に砲弾が音速で空を駆け、戦艦はアルミ缶のようにひしゃげ爆発四散!激しい対空迎撃の弾幕を掻い潜り、一匹の蜂型兵器が艦橋に肉薄しそのガトリング砲を向けようとした瞬間、巨碗が伸び、虫けらのように握りつぶした。

鋼鉄が咆哮を上げるような音が響き渡り、鋼鉄の船は徐々に姿を変えていく。反対側からも腕が伸び、一対の脚が海面から姿を現す。人型へと変貌した大和型戦艦は、腰に吊るした長大な大太刀を瞬時に抜刀すると、半歩踏み出し、水平線を薙ぎ払った。軌道上の兵器群が真っ二つに切断される。大質量が通過したことで大気が暴れ、制御不能に陥った羽虫たちが落ちてゆく。水面に巨大な波紋がいくつも浮かぶ。業物を鈍く光らせながら、戦艦巨人はその満載した兵装を一斉掃射する!

―――

海中から巨大なアルビノの尾ひれが持ち上がり、不運なアメンボ型兵器がその一撃に巻き込まれ海の藻屑となった。次いで、乳白色の美しいクジラが盛大な瀑布を生み出しながら、雄大な姿で跳ねるように姿を現した。その体が完全に宙に躍り出た瞬間、その体表から無数の針が一瞬で飛び出し、アメンボや蜂たちを根こそぎ刺し貫いた。串刺しにした獲物ごとクジラが再び海へと姿を消すと、生き残りの兵器群が銃弾を打ち込み始める!海中が白く輝きだした。

次の瞬間、海に穴が開いた。巨大な渦が海面を壁のように割り、その中心には荘厳な乳白のドレススカートが翻る、戦乙女が佇む。戦乙女が、手に持つ白銀の一角槍を構えると、たちまち渦の中心から海水が迸る。天に掲げて槍を突き出すと、それは恐るべきハリケーンと化し、残存の敵機をまとめて空へ打ち上げた!竜巻は積乱雲に巨大な風穴を空けると、思い出したかのように滝のように雨が降り注ぎ、空に大きな虹を架けた。

―――

市街地の前に立ち塞がるようにそびえ立つのは、城塞都市に巨大な上半身が融合したかのような異形の巨人だった。天地あらゆる方角から豪雨のような銃弾が浴びせかけられるも、その巨体は一切を異に課さず、人型城壁に規則的に並んだ人型自立兵器が火矢を掲げると、一斉に矢を射た。数多の煌きが空に放たれ、それらは違わず敵群に突き刺さってゆく。超自然の炎を伴った矢は喰らいついた機械内部を酸化するまで焼き尽くし、地に落ちてなお火を絶やさない。

城塞都市は剛腕を頭上に掲げる。超圧縮した熱球が虚空より生み出され、白熱する光は肥大化してゆく。兵器を滅ぼした種火たちは、まるで母親のもとに還っていくかのように光球へと収束する。大気中から水分が消滅し、陽炎が立ち込める。いまや灼熱の光球は、鉄人と同等の大きさまで巨大化していた。鉄人が優雅にも見えるほどゆっくりとした動きで、両腕を中空の戦艦群へと向ける。光球は極大の光輪を発生させながら戦艦に着弾し、跡形も残さず消し去り、空に空白地帯を生じさせた。

―――

獅子頭を胸に抱くスーパーロボットが空高く飛翔する!その手に握られているのは金色の雷を纏う両手剣!大きく足を広げ、半身で大剣を構えるその姿は神々しく輝き、溢れ出る雷撃は敵を全く寄せ付けず、飛び来るあらゆる銃弾を焼き滅ぼす!周囲に火花が散る!黄金に輝くその機体が得物を縦一閃に大振りに振りかざす!SLAAAASH!光が一直線に迸り、遅れて剣圧が大気を切り裂く!雷が、斬撃が、暴風が!敵機を、戦艦を、邪悪な侵略者を!貫き、切り裂き、破壊する!

間髪入れず胸の獅子頭に光が収束する!手足を伸ばしその力を解放すると雷を纏った極太の光の奔流が天を突き、空間を薙ぎ払う!BAZOOOM!圧倒的な力の前に、敵群はなすすべもなく雷撃に打たれ、光に呑まれ、次々と火を噴き連鎖爆発を起こしてゆく……!

―――

不意に地に巨大な影が差した。見上げるとそこには超大型のステルス爆撃機。空気を振動させる重低音を響かせながら、爆撃機は懸架していた大型ミサイルを一斉射出する。先端カバーが炸裂すると、ミサイル群は次々と内蔵していた小型ミサイルを吐き出し始めた。おびただしい数の白煙の直線を空に描きながら、ミサイル群は蜂型兵器部隊と接触する。瞬間、空を埋め尽くすような飽和的な爆発が視界を焼いた。一拍おいて、轟音と衝撃波。下げていたミサイルを打ち切った爆撃機は地上へと進路を変更しつつ、胴体下から格納していた無限軌道をせり出した。

CRAAAASH!大地を踏み砕きながら戦車形態へと変形した対怪獣兵器は、巨大なメーサー砲を迫りくる爬虫類たちに向ける!物質を原子破壊する指向性エネルギー波が容赦なく浴びせかけられ、次々とスクラップへと代わってゆく爬虫類!なおも進撃する敵影を前に戦車は再び変形を開始する……!胴体が分割し、身をもたげるように立ち上がるそれは灰銀の巨人!三度姿を変えた対怪獣兵器は、その両手に光を収束させ、迫りくる敵を迎え撃つ!

―――

サラリーマンは、その光景を馬鹿みたいに口を開いて眺めていた。訳の分からない侵略者を相手に、訳の分からないロボットが戦う?しかもみんな別々のロボットアニメから抜け出てきたかのように大きさも、武器も、何もかもが違う。ひどく現実味がない。夢でも見ているのか?

「ふふふ……ははははは!」不意に笑みがこぼれ、いつしか抑えようのない笑い声がビルの屋上に響いた。こんなにも心の底から笑ったのはいつぶりだろうか。侵略者たちは予想外の抵抗にあったことで動揺したらしく、最も大きな母艦が踵を返し始めていた。同時に天にワームホールが開き、小型の戦艦群が一足先に逃げ出し始める。

キン、と空気を割く音がサラリーマンにも聞こえた。振り返ると、漆黒だったイクサ・プロウラが青き光を全身に浴びて、流星のような速度で母艦へと一直線に飛んでいた。敵軍はその真意を読み取ったのか、小型兵器や戦艦が母艦の盾になろうと軌道上に移動し、その特攻じみた突撃を通すまいと死力を尽くして攻撃を始めた。

流星は止まらない。蜂を打ち砕き、戦艦に横穴を開け、まっしぐらに母艦へと飛ぶ。最終防衛の電磁バリアまでも突き破り、イクサ・プロウラは艦橋を突き崩し、弾薬庫を爆破し、中枢核内部に到達した。次の瞬間、侵略者の母艦は中心から真っ二つに折れ、大量の残骸をばらまきながら地上へと落ちていった。サラリーマンはその光景をじっと眺めた。その目に焼き付いた青い閃光がいつまでも離れなかった。


急:ティピカル・パルプスリンガーズ・エピソード


街を襲った宇宙人の侵略から一夜明け、ここはバー、メキシコ。冴えないサラリーマンの男と全身真っ黒なコーディネイトの胡乱な男が向かい合わせで座っている。「おう、かなり面白いじゃん、この小説」「本当ですか?良かった……」

サラリーマンは安堵の表情を見せた。目の前に置かれているタコスはまだ一口も手をつけていないままだ。対するR・Vの前には半分ほどまで減ったCORONAと分厚い原稿用紙の束。サラリーマンが執筆したパルプ小説だ。

昨日、突然現れた宇宙からの侵略者は、目の前の男が自称する、『パルプスリンガー』と呼ばれる連中が残らず始末した。彼らは相当に強力なロボットを手足のように乗り回すようだが、自衛隊の特殊部隊に所属しているわけでもなく、どこかの国の秘密捜査官でもないらしい。どこまでも胡乱な小説執筆者、ということだそうだ。

ついでに聞いたところによると、note運営本部まで侵入しアナウンスジャックを行った不届き者の侵略者は、マスターAIであるnoteさんがショットガンを手に単身突入し、ものの数分で殲滅させられたそうだ。当然、人質として拘束されていたノートちゃんは無事だ。

「このまま寝かせるのは惜しいクオリティだ。noteに投稿しないのか?」「ええ、そのつもりでしたけど、その前に誰かに一度読んでもらって率直な感想が聞きたかったので」「いや、本当に面白いぞ。あとはどういうスタイルで投稿するか……一記事でドバっとやるか、それとも小分けして分割連載にするか……まあ、俺は担当編集じゃないからその辺は自分で考えてくれ」

「あの」「なんだ?」「何故皆さんは、パルプ小説を書くんですか?」

「あー、そうだな」フムン、と男は腕組みして少し考え込むと、続けた。「これは例えばの話だが」

「人間ってやつはみんなその手に拳銃を持ってる。例えばの話だぞ?つまり拳銃ってのは一種のメタファーなんだが、まあ、それに気づいているのはごく一部で、ほとんどの人間はそれに気づかず普通に働き、普通に飯を食って、普通に生活をしている」

「だが、何かしらのきっかけ……例えば、最高に面白い作品に出会ったり、あるいは満員電車に押し込められて死にそうになったり、人間関係に挟まれて擦り切れたり、あるいは逆に新しい知見得たり、なんでもいいんだ。ある日、自分の手に銃が握られていることに気づく。自分が銃を持っていたらどうする?おっかなびっくり取り落とすか?それとも興味本位でぶっぱなすか?もちろん例えばだぞ。本物の弾が出るわけじゃない。ただ、大体のやつが何がしか衝動に駆られて引き金を引くわけだ。BLAM!ってな」

「ところが、そいつからは思った以上にデカい銃声が響いて、焦っているうちにそれを聞きつけたよく分からないやつらが何だ何だと集まってくる。そいつらはまとまりがなくて、誰に聞かせるでもなくごちゃごちゃと好き勝手喰っちゃべっているし、別につるむわけでもなく同じ場所でダラダラたむろしている。ただ、それぞれが異なる事情、異なる信条を持ってるから面倒くさいし、何かあったときは始末に負えないどうしようもない連中さ」

「ただ一つ、そいつらに共通点があるとしたら、そいつらの手にも拳銃が握られていて日常的に銃をぶっぱなしてるってことだ。パルプ小説という名の弾をな」

「それが俺たちパルプスリンガーさ」

R・Vは長い演説めいた言葉に気恥ずかしさを覚えたのか、頭を掻いた。サラリーマンは、R・Vをまっすぐ見据えていた。

不意に風が吹きつけ、R・Vは慌てて原稿用紙を押さえる。サラリーマンは反射的に空を見上げた。そう、空だ。障壁のおかげで全壊は免れたが、無傷というわけにはいかなかったようで、店は半壊状態になっていた。幸いバーカウンターや地下の酒棚は無事だったが、グラス類やインテリアはぐちゃぐちゃになったため、手の空いたパルプスリンガーたちがえっちらおっちら片付けをしている。あの街を救った英雄的な戦いとはひどい落差だ。「まずは早いとこ、屋根を直さないとな」

天井が飛ばされた店から見た空は、青く澄み渡り、どこまででも続いているかのように視界いっぱいに広がっていた。


【ティピカル・パルプスリンガーズ・エピソード】 完


◆解説◆本作は遊行剣禅=サンの小説『パルプスリンガーズ』の二次創作作品です。「エッ?こんなクールなロボットがこんなにも!?」「実在のパルプスリンガーがモデルって本当?」と思った方はぜひ本編の方もチェックしよう!すごいアクション!胡乱な展開!超巨大自由売買商業施設”Note”を舞台に描くクリエイター達のとんちきうろんトラブル日常!何と毎日更新中!◆しよう◆


◆ジョン久作=サンの紹介記事から入るのがオススメだ◆


(終わりです)

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