ライディング・ホッパー:チャプター1 #6
ライディング・ホッパー 総合目次
「ちょっと!何でアイツの前横切ったんだよ!こっそり先回りする手筈だっただろ!」
「そうは言われましても、この視界では『国引』が何処にいるかは分かりませんので。ビーコンも反応しません」
「ああっもう!マズい!本気出されたら絶対負けちゃうのに!」
「あまり喋ってると舌を噛みますよ?」
「分かってーーー」
木々を掻い潜りながら全速で森を駆けるワタルのギアが、大樹の根に足を取られた。途端、視界がぐらりと回転しうつ伏せの格好で地面に激突する瞬間、2本のワイヤー線が肩部から射出された。
ワイヤーは前方の木に突き刺さり巻き取り機構によってトレミーをパチンコ玉の様に打ち出した!そのまま腰を180°捻らせながら巨木を三角飛びの要領で蹴り渡ってゆく!
「ーーーるって」
鮮やかな着地を決めながらどっと吹き出す汗を無視し、ワタルは言葉を紡いだ。
「我ながらファインプレーですね」
「出たよ自画自賛」
ギアはどこか誇らしげなフォームで再び駆け出す。ライディングギアの操縦はワタルが行っているが、実際はトレミーのサポートによるところが大きい。彼がいなければ横浜のレースでは彼は地面の染みになっていたことは想像に固くないし、先刻も盛大に転倒していたことだろう。
「残りの距離は!?」
「すぐそこのコースに合流したら、あとは直線だけです」
茂みを払い、再度開けた道に躍り出る。ゴール地点を示すフラッグが視界に入った。同時に後方からキーーーンというフロート機構特有のエンジン音が近づいてくる。それも相当な速さで。
「ヤバいヤバい!トレミー急いで!」
「無理です。足の速さでは圧倒的に不利です」
「そうだ!さっきのワイヤー!あれもう一回!」
「もう周囲に都合の良さそうな木はありません」
「旗に!旗に打ち込むの!」
「……正気ですか?あんな細い的に当てろと?」
「トレミーならやれるさ!」
ダメ押しとばかりにワタルは言い放つ。
「だって、僕が組み上げた天才AIだから!」
肩部からワイヤーが再び放たれた。ワイヤーは旗目掛け違わず伸び続け、先端の分銅で固く支柱に巻きついたのは、『国引』が再度トレミーを抜き去った直後だった。
ワタルとコウイチロウの視線が交わる。コウイチロウはワタルを追い抜かした。
はずだった。ワタルが並ぶ。
ワタルが首を傾げる。そして前へ向き直る。
コウイチロウは唖然とした顔で見やる。まさか。あれは自分のはずだ。自分のはずだった。
届かなかった。
「いいいいよっしゃああああ!?」
僅差でゴール地点へ飛び込んだトレミーは、勢いを殺しきれずにそのまま支柱に激突した。
「……あー、痛」
「やはり最後は締まりませんね、我が創造主よ」
敗者。巽建機、『国引』。
勝者。無所属、トレミー。
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