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ロード・トゥ・『シン・ウルトラマン』

 ウルトラマンの記憶の中で一番古くに残っているのがウルトラマンティガのヒーローショーだ。迫真のバトルにエキサイトした自分が親にねだったのティガのサイン色紙だった。「そんなのどうするの?」「ソフビ人形の方がいいんじゃないか?」という親を振り切ってティガの前に並んだ。
 ウルトラマンティガはテレビで見たときよりもずっと小さく、でも目の前に立つとずっと大きかった。おずおずと色紙を差し出すと、ティガは小さく頷いて受け取り、慣れた手付きでサインを書いて手渡してくれた。そしてティガは右手を差し出した。握手だ。その大きな手を握るとティガはしっかりと握り返してくれた。
すると、スーツのウェットな質感とゴムのようなツンとする石油臭、何より予想以上の「そこにいるという実在感」に言いしれぬ胸騒ぎを覚えて、握手を終えると足早に会場を後にした。ティガの方は一度も振り返らなかった。
 それきり、ウルトラマン、ひいては特撮作品からは距離を取るようになった。思えば、あの時に夢と現実の境界を揺さぶられ、自衛本能とも言うべきものが働いたのだろう。
 あれから長い年月が過ぎ、仮面ライダーやスーパー戦隊などのニチアサには帰還したが、ウルトラマンだけはウルトラマンZを観るのみに留まっていた。それも幼少期の記憶が原因で、無意識に遠ざけてしまっていたのかもしれない。

 しかし、光の巨人は再び私の前に姿を現したのだ。シン・ウルトラマンとして。


これはなんですか?

 私がシン・ウルトラマンに備えて予習を行った覚え書きになります。時間がなさすぎて初代を通して観ることができなかったので、感想内容は劇場作品+本編ピックアップになります。


長編怪獣映画 ウルトラマン(1967年製作の映画)

 記念すべき第一話といくつかの話を繋ぎ合わせた長編映画……とのことだが、本当に繋いだだけなので一本の映画としての体は成してはいない、いわばベストセレクション的な内容。「ウルトラマンは日夜地球の平和のために戦っているのだ!」エンドなので(後の2作の映画も同様)気兼ねなく観れるものの、監督や脚本の関係で話ごとの振れ幅が驚くほど大きいのでこれをおさえておけば完璧! とは言い難い。ただ、どれもU-NEXTで無料配信されているので環境があれば観てみるのも良し。

 ハヤタ隊員に命を分け与えるウルトラマンがガチ宇宙人的喋り(典型的カタカナ口調)で怖い。変身アイテム(ベータカプセル)を「これは何です?」と聞かれてハッハッハッハッ……と笑い声で濁すウルトラマンにじわじわくる。ちゃんと説明せんかい! そして追ってきた怪獣ベムラーをなんとウルトラマンに変身せずに科特隊の戦闘機のみで倒す。変身しないんだ……。

 無人島で消息を絶った調査隊を捜索する科特隊メンバー。気候変動で地磁気が狂い、怪獣が跋扈する恐ろしい島に変貌していた! 隊員が囚われているのに躊躇なくツル型植物に火炎放射を浴びせるイデ隊員にビビる。この映画で初変身するハヤタ隊員、怪獣が暴れたショックでベータカプセル取り落してしまうのでやきもきする。した。
 待望のウルトラマンと怪獣の戦いは想像よりも泥臭く、スペシウム光線を投げつけようとした岩に照射して怪獣の足に落っことし(痛そう)、当のレッドキングは素手でボコボコに殴って沈黙させたのでめちゃくちゃ怖い。もしかして怪獣の死体そのままなの!?

 ゴモラ輸送作戦。ウルトラマンZでも観たことのある光景だったので馴染みが深い!展開としては真逆で、キングコング対ゴジラ並の「人間余計なことすんな~~~!」なのでゴモラがかわいそうな回だった。麻酔が切れて大阪市内で暴れ出したゴモラが景気よく大阪城をブッ壊したのは最高だったので、そこは良かったです。


実相寺昭雄監督作品 ウルトラマン(1979年製作の映画)

 超絶ハイセンスなOP!科特隊日本支部や戦闘機の見取り図を映しながら、劇場版特有のゴージャスアレンジのウルトラマンのうたが期待度をズンドコに盛り上げてくれる。
登場する怪獣たちも非常に尖っており観ていて全然飽きない。子どもたちの落書きから生まれた怪獣、地底人、噂に聞くジャミラ、コミカルな科特隊が印象的なスカイドン、そして怪獣墓場。ウルトラマン抜きにしてもドラマ部分がいちいちユニークであっという間に引き込まれる素晴らしさ。宇宙怪獣でここまで引き出しがあるとは……!

 科特隊の戦闘機や怪獣プロレスのような「動」が目立つけど、ドラマパートの「静」の画もまた最高にクールでびっくりする。宇宙、科学という未解明な題材を取り扱う上で、先行きの不明さを煽る劇伴もまた凄まじいセンス。一方で勇ましいウルトラマンのテーマがもたらす、いつもの怪獣ファイトのコントラストが心地良い。
 あの手この手でスカイドンを宇宙へ運び出そうと奮闘したり、今まで倒してきた怪獣を住職を呼んで供養するという絵面も、全員が真面目にやっているのでシュールでめちゃくちゃいいですね。ベータカプセルと間違えてカレースプーンを掲げるハヤタ隊員、そんなお茶目が許されるんだ……!

 一番印象的なのはやはり万国旗の前で力尽きるジャミラで、この話は特に異質かつシリアスな展開でありめちゃくちゃすごい。ウルトラマン超面白いじゃん……!


ウルトラマン 怪獣大決戦(1979年製作の映画)

 冒頭にウルトラ兄弟の紹介があり、キング以下ずらりと並んだ10戦士に面食らう。少し見ない間にこんなにもたくさん出てきたのか……。

 なんと言ってもバルタン星人のインパクトが大きい。「こんな話を2話の時点でやってたの!?」と驚くような、ウルトラマン抜きにしてもガチガチのSFをやっていて超面白く、「生命とは何だ?」というバルタン星人の生物としての相容れなさ、宇宙的怪奇色にグッと引き込まれる。しかも凍結光線、脳髄ジャック、分身、巨大化、瞬間移動にスペシウム光線反射装置など、一体の怪人としては超スペックすぎる。なるほどこれは人気が出るわ……。


 劇場三作を視聴し終え、我々はウルトラマンを断片的に知ることができた。そこには怪獣と戦う巨大ヒーローとしてのウルトラマンだけではなく、空想科学としてのウルトラマンがあったのだ。しかし本当に十分なのか? そして「空想科学」とはいったい何なのか? 我々は更なる調査のため、ウルトラサブスクへ向かったのだった……。


ウルトラサブスク セットリスト

第1話 ウルトラ作戦第一号
第18話 遊星から来た兄弟(ザラブ星人回)
第28話 人間標本5・6(怪人ダダ回)
第33話 禁じられた言葉(メフィラス星人回)
第39話 さらばウルトラマン

第1話 ウルトラ作戦第一号
 ちゃんと第一話で変身するやんけ!!!
 ハヤタ隊員のことを知る前に彼はウルトラマンと一体化してしまうので、本来のハヤタ隊員がどんな人物だったかは番組中では描かれないのが何気に怖い。

第18話 遊星から来た兄弟(ザラブ星人回)
 開幕から放射線を含む霧が東京中を覆うという激ヤバ状況。いつも身につけてるヘルメットとスーツが防護服代わりになるってめちゃくちゃ高性能だな……。
 ザラブ星人は有害な霧をいとも簡単に消し去り、まんまと地球人に取り入るもその目的は地球侵略。その手法も偽物のウルトラマンに化けて街を破壊し、人類のウルトラマンに対する信頼を失墜させ、科特隊と戦わせ同士討ちを目論むというガッチガチな悪の宇宙人……! 「文明を滅ぼすことを目的とする」という純粋悪なザラブ星人の在り方がすごい。こんな邪悪な宇宙人、全宇宙をかけて滅ぼさないといけないやつだろ……。

第28話 人間標本5・6(怪人ダダ回)
「江戸川乱歩か?」と言いたくなるタイトルと導入であり、舞台となる”宇宙線”研究所という耳慣れない言葉も落ち着かなさに拍車をかけている。音もなく姿を消す怪人ダダがめちゃくちゃヤバく、縮小した人間を標本として母星に持ち帰ろうとするのが理解不能で本当に恐ろしい。ダダ時間という言葉から、人間尺度から外れた科学文明を背後に思わせるのもめっちゃ怖い。
 が、ウルトラマンとまともにやり合おうとしたのが運の尽きで、見事なハイキックで頭を思い切り蹴られた挙げ句(めちゃくちゃ痛そう)、にスペシウム光線で顔面を大やけど(めちゃくちゃ痛そう)。その後もウルトラマンをミクロサイズに縮小する(普通に再巨大化された)、透明化で逃げ出そうとする(たやすく看破される)などまるで歯が立たず、前半の不気味さが完全に払拭されてしまった。上司からも鬼詰めされてるし……そんな落差ある???

第33話 禁じられた言葉(メフィラス星人回)
 慇懃な口調と態度の裏に、人類を軽視してそうなメフィラス星人。テレパシー、フジ隊員の言葉と記憶を奪い巨大化させる、洗脳、テレポーテーション、配下の宇宙人を呼び寄せるなど、恐るべき超能力を携えているものの一番不気味なのは地球人の心への挑戦と称してサトル少年に「地球をあげます」と言わせようとする様。果たして言ってしまうとどうなるのか、人間の理解するところではない超常的なトリガーになってしまうのか。あえて全貌が語られない宇宙的怪奇の妙……! しかも自ら敗北宣言をして地球から去っていくのも他の怪獣や宇宙人とも一線を画す存在感がある。
「黙れウルトラマン!貴様は宇宙人なのか、人間なのか!」「両方さ。貴様のような宇宙の掟を破る奴と戦うために生まれてきたのだ。」はハイライトのひとつであり、最終回のゾフィーの言葉とオーバーラップする。マジですごい。それはそれとして流ちょうに言葉をしゃべるようになったなウルトラマン。

第39話 さらばウルトラマン
「初代ウルトラマンはゼットンに敗北する」というのはこの世で最も知られているネタバレの一つであるが、実際目の当たりにすると「嘘だろ……」と思わず呟いてしまうほどゾッとする演出。一方で試作品のオプション兵装一発で雑に爆発四散するゼットンに涙を禁じ得ない。科特隊の新兵器鬼つええ! こいつで地球を侵略する宇宙人全員ブッ殺していこうぜ!
 地球の平和は人間の手で掴み取ることに価値があると諭し、光の国へ帰るように説得するゾフィーとハヤタ隊員のために自分の命を使ってほしいと懇願するウルトラマン。「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」 ここでその言葉が出てくるのか〜!!!(ところでゾフィーはなんで命を二つも持ってたんだろう……)(そしてウルトラマンもカタコト言葉に戻ってる……)


未来へ

 ここまで駆け足で初代ウルトラマンを観てきて感じたのは、「巨大ヒーローが怪獣をやっつける特撮番組」というのは一側面でしかなく、あくまで問題解決に奔走するのは科特隊なんだということ。ハヤタ隊員もいきなりウルトラマンに変身するようなことはせず、科特隊の一員として事件に当たり、どうしてもという場合の最後の一手としてベータカプセルを掲げる。人間の問題はあくまで人間が解決するべき、という姿勢は邪悪な知性をもつ敵性宇宙人に遭遇したときに顕著に感じる。

 バルタン星人にしろザラブ星人にしろメフィラス星人にしろ、「地球という美しい星に固執しなければ、お前たち人類なんていつでも滅ぼせるんだぞ」と言外に匂わせているようだし、そもそもウルトラマンもまた「人間が好き」という、個人的な理由で地球に留まっているに過ぎない(ハヤタ隊員の命のこともあるが、それにしたって科特隊に馴染み過ぎでは?)。

 では、地球が美しい星でなかったら? ウルトラマンにとって人間が好ましくなかったら? 2022年現在の地球は、人類は彼らにとってどう映るのか? その答えがシン・ウルトラマンで描かれるのかもしれない。

 フィクションを取り巻く状況は様変わりした。ことあるごとに表現の規制と自由のラップバトルが勃発し、訳知り顔のインフルエンサーが全ての意見を塗り潰し、Twitterは今日も元気に学級会が開催され、空は堕ち大地は割れ、インターネットは虚無の暗黒に呑まれた。未来はすっかりフューチャーがオーノーになってしまった。
 それでも、初代ウルトラマンが夢見た未来への希望に望みを託したいと思う。それはウルトラマンが荒唐無稽なSFだからでも、巨大ヒーローが怪獣をやっつける大衆娯楽だからでもない。「空想科学」だからだ。先行きの見えない未来、そして宇宙のどこかには、きっと真の友人なり得る者が存在する。その友人といつか会う日のために、より良い未来へ繋がるのだと信じて今日を前向きに生きるのだ。そして一度は手放してしまった空想(フィクション)の力を、もう一度確かめるために。

「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」「空想と浪漫。 そして、友情。」というキャッチコピーを改めて見て、そう思う。


(終わりです)

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