【他人の夢の断片短編小説】ニコレットの夢

ニコレットを喫煙者の後輩にあげて
数回噛み噛みしたら
ものすごい嫌そうな顔で見られて
悲しくなった夢を昨日見ました
より



「タバコが好きだからニコレット噛んでる」
それが後輩の質問への答えだった。

なんてことはない後輩の「ニコレットって美味いんすか?なんで噛んでるんですか?」という質問にそう答えた。

人生の最後の最後に吸うタバコは格別だろうな。
そう思ったから最後まで我慢することに決めていた。
気が付けば吸ったタバコよりニコレットの数の方が上回っているなんてことも気付きながらタバコ好きを公言している。

初めてタバコを吸ったのは確か中学の頃だったかな。
友達の兄貴が吸う赤マルを一本盗んで友達と回して吸った。
あの時はこんなまずいものよく吸えるなと思っていたが、耐えられない現実への反骨精神なのかタバコを吸い出した。
害があると分かっていながら自分の体を傷つけるように紫煙をつむじから爪先まで染み渡らせる。
これがなんとも言えない感覚で好きだった。

あれから大切な人もできた、帰る場所もできた。

大切な後輩もできた。

徴兵制度なんてクソ喰らえだった。

しかし、まいったね。
下半身が無くなってるのにスネが痛いなんて笑える状況なのに後輩はすごい顔で俺の顔を見つめてる。
「タバコを一本もらえないか」
後輩に告げると、見えた銘柄はラッキーストライク。
皮肉なもんだ。
なんもラッキーなんてありゃしないのに。

「先輩のニコレットもらっていいですか?」
雨の日に捨てられた子犬みたいに震えた声で催促しちゃってさ。

俺は目を細めてニッと笑うと後輩は胸ポケットからニコレットを取り出して噛み締めた。

数回噛んだ後輩の顔は嫌そうな顔で泣いていた。

最後のタバコの旨さと後輩の顔見て悲しくなっちゃってさ。
まいったね。

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