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『はた迷惑な家族』

「え? 沖縄に出張って……信じられない……
どうして? どうしていつもそうなわけ?」
「フウ子ちゃん、我がまま言わないで。ね?」
「だって、次は絶対絶対絶対ッ四国に連れていくからって約束したじゃん!」
「お父さんだってお仕事なんだもの、仕方ないでしょう?」
「いっつもそう! 仕事仕事仕事って!」
「……」
「仕事が大事なのはわかるけど、私だってずっとずっと楽しみにしてたんだ!
お父さんの仕事と同じくらい私にとっては大事な約束だったんだ!」
「フウ子、あのな――」
「言い訳なんか聞きたくない!
どうしていつも大人の都合が優先されるの!? 
そんなのっておかしいよ! 約束も守れないお仕事なんてやめちゃえ!」

フウ子が嵐のようにまくし立てて去っていくと、
居たたまれない静寂だけが残った。

・・・

数時間後、母親が慌てて父親に告げた。

「あなた大変! フウ子がいないの!」
「なに!?」
「今あの子の部屋に行ったら居なくて、これが丸められて捨てられてたの!」

父親がくしゃくしゃになった手紙のようなものを受け取って目を通す。
そこにはフウ子の字でメモが記されていた。

四国についたらお父さんとしたいこと。
四国の海の潮風を浴びながらお父さんとドライブがしたい!
お父さんと一緒に桂浜を散歩したい!
それから、山も川も名所は全部めぐりたい!
それからそれから……etc

お母さんとしたいこと。
四国の浜辺で海を見ながらゆっくり話したい!
進路のこととか。好きな子のこととか。
まあ、ハリケーンみたいにやかましい奴だけど。わりとイケメンだし。
最近、あまりうまく話せてなかったから、この際いろいろ話したい……。
あとやっぱり、看板をなぎ倒す勢いでおいしいうどん屋さん巡りしてみたい。
それからそれから……etc

「あなた? あの子、まさか一人で――!」

父親は紙を握りしめると、急いで飛び出した。

「あ、あなた! どこへ行くの!?」
「決まってるだろ! フウ子を追いかける!」
「え!? で、でも沖縄は――」
「そっちは同僚と代わってもらうとかなんとかする!」
「ちょ、ちょっと待って! 私も一緒に探します!」

父親と母親がそろって、一路四国を目指して旅立った。

・・・

「では、引き続き台風情報をお知らせします」

「四国の南海上を進んでいた小型の台風17号が速度を落とし、
続けて北上してきた大型の強い台風18号、19号と合流した模様です。
これは台風の規模としては、日本史上最大級のものになります」

「予想では、このまま勢力を保ちつつ、30日昼すぎから夜半にかけて
四国に上陸する恐れがあります。また、近畿の一部も暴風域に入る見込みです」

「四国から北日本にかけての広い範囲で10月1日未明にかけ、
海上を中心に猛烈な風が吹くとみられ、気象庁は暴風や高波、
大雨、高潮への厳重な警戒と、落雷や竜巻などの激しい突風への
注意を呼び掛けています」

・・・

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。