見出し画像

映画『サード・パーソン』感想メモ

開始5分くらいで、この人の頭の中をこれから二時間覗けるなんて、なんて幸福なことだろうと思った。「あー観るのがもったいない」って心から思った。たまに本でも一語一語おいしくて、読むのがもったないー!ってなるやつあるけど。

ほんと超傑作ってのは冒頭でわかるなあ。その段階で確信はしてたけど、最後まで観て更におののいた。生まれて初めて続けて二回観た。無論早送りなしで。二回目は更に内容がよくわかって、カタルシスが倍増した。

ポール・ハギス。「ミリオンダラーベイビー」も「クラッシュ」も震えたけど。「サード・パーソン」……なんちゅう作品だ。この人は天才だ。こんなものどうやったら書けて、映像に落とし込めるんだ。

もっとも50回くらい書き直して書き直して書き直しまくったらしいけど。そりゃそうか。こんな風にアクロバティックなしろものを、最初から最後まで繊細で緻密な一本の活きたボディの映画にするって、楽なわけない。

複数の物語が同時進行で進んで、やがて集約するっていう構成はいろんな人がやってると思うけど、こんなに美しく有機的にやれたのってかつてなかったんじゃないか? まあ大事なのはそこがオチなんじゃなくて、そこから立ち上ってくるものなんだけど。そこを誤解してると、この映画を本当に観たことにはならないと思う。

ポール・ハギスの真意はミステリを仕掛けたわけじゃないと思うから(笑)それは物語に誘引するために観客の前にぶらさげたニンジン(ガジェット)であり、クライマックスでのフックであり、物語が要求した必要な仕掛けで、そこで「どうだ!」ってしたい主題ではなく、大事なのはあくまでその奥行にある、ケツの持って行きようのない人間そのものの○○なはず。少なくとも僕はそう思う。

DVDと映画パンフあわせて5000円だったけどアマゾンでポチらざるを得なかった。俳優陣も演出もいうことなし。完璧のぺきのぺき。ペキペキ。

……まあ、でもちょっと映画慣れしてないとダメかも。一本道のわかりやすい作品しかダメーとか、複雑なのダメ―って人には向いてないかなあ。そこで評価が天と地に別れちゃうかな。いや、でも、意味わからなくても、アンダーカレント力(物語の底流で流れている力)が半端なくて、最初からしっとり重くて美しくて、不穏で、じっと見続けてしまうとは思うんだけど。まあ、わからんで投げ出す人もいるみたいだね。

「ウォッチミー(見ててね)」という言葉と「水」と「白」というキーワードに集約される○○な物語。ネタバレはしないでおきます。いやあ、とにかくまいった。降参。これだから映画はやめられない。
実はまだ解けてない謎がある。でもおおよそのヘソはつかんだつもり。たぶん、タイトルの意味までこぎつけてると思う。でももう一回観ないとあかんなあ。

てか、某所で「鑑定士と顔のない依頼人」やら「シックスセンス」を持ち出して批評してる人がいるけど、そこで語られる手法自体がこの物語の主題でもヘソでもないから(笑)その手法の奥にたちのぼるアイロニーがこの映画の旨味だし、ミソだし、見どころだから。

しかしまあ、観終わったあと、こんなにずーっと、あーでもない、こうでもない、できる映画って、やっぱりすごいな。観終わってから、どんどん膨らんでいく。とんでもない怪物映画だ。検索すると、みんなアチコチで、あーでもないこーでもないいうてますが、絶対に観てから読んだほうがいいです。

水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。