![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/53608733/rectangle_large_type_2_6fdf62c68006a9eb012eca3e6c0a5adb.jpeg?width=800)
Photo by
azae_hiroba
クラゲ入りピーナッツバタートースト
今から十七年ほど前のことだっただろうか。
ある朝目覚めたら両親はもうとっくに起きていて、テレビの音が聞こえてきた。
何を言っているかは聞き取れないけど、もう朝と呼ぶには遅すぎる時間であることはわかった。
母はトーストを用意してくれていた。
他人の食べ物が美味しそうにみえるのと同様に、母が焼いてジャムを塗ってくれたトーストはいつもより美味しそうだ。
黒いお皿にのったそのトーストは少し緑がかった茶色、というよりは緑にも茶色にも見える色をしていた。
クラゲ入りピーナッツバター。
それは非常に美味しかった。味はもう忘れてしまったけれど、なんだか不思議で、でもすっと体に馴染む味だった。
もう一度食べたいと願った。しかしそんなものはこの世のどこにいっても見つけられやしないのだ。
きっと現実ではなかった。いくら考えてもそれはただのピーナッツバターである。
しかし私の中に確かにそれは存在していたし、通過していった。
何であったのだろうか。寝ぼけていたか、妄想だろうと言われる。
確かにクラゲ入りピーナッツバターサンドイッチは、N. S. カールソンさんの『マリールイズいえでする』という絵本に登場する食べ物であるし、私はその絵本が大好きだ。
でも、だからといってそれを食べた気になるような人間ではない。と思っている。あの時あの場所にだけ存在したのであろう。
私は今もあの緑のようなトーストを恋しく思う。
そうして明日こそは昨日届いたピーナッツバターを開封してやろうと思う。
投げ銭してもええよ!!という方がもしいらっしゃいましたらサポート頂ければ嬉しいです。今後の執筆活動に使わせていただきます。