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海幸山幸湯豆腐

学校の授業では「古事記」や「日本書記」に記された神話や物語を教えることは殆どありません。
歴史の教科書の最初に書かれていることは岩宿遺跡とか先土器時代。
勿論、それは大事なことですが、日本という国がどのように形作られていったかを物語る話は、やはり一通りは教えるべきではないかと個人的には思います。また、物語としても良く出来ていて面白い。
ということで、一つの物語を妄想しながら、海や山の幸を詰め込んだ鍋料理。


材料。

葱      2本
木綿豆腐   2丁
白海老    好きなだけ
しめじ    1房
乾燥ワカメ  2つまみ
鰹節     1パック
昆布     5センチ
胡麻油    大匙1
醤油     大匙3
塩      小匙1

海幸彦と山幸彦という兄弟。
兄の海幸彦は毎日、海で釣り、弟の山幸彦は毎日、山で狩り。
ある日、たまにはお互いの道具を交換して、釣りと狩りを交代してみようということに。
山幸彦は海釣りへ。そこで兄から借りた釣り針を無くしてしまう。そのことを海幸彦に謝り、自分の剣を鋳つぶして、1000本の釣り針を作って謝るものの、元の釣り針を探して来いと強情。

葱1本を斜め切り、豆腐を賽の目切り。

困り果てた山幸彦、海の底へ。と言っても自殺ではなく、海底神殿に行ったということ。
実はこの双子、天孫降臨した瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の子孫。それ故か
海神、大綿津見神に歓迎されて、その娘、豊玉姫と結婚。そのまま三年。浦島太郎みたいは話。というより原型?
此処に来た目的を思い出した山幸彦、事情を話すと、魚達を集めてくれ、鯛が釣り針を飲み込んでいたことがわかる。釣り針を返してもらい、地上へ帰還することに。その前に塩盈珠と塩乾珠という宝を貰う。


細かく切った昆布、干し海老を煮て出汁を取る。

地上に戻り、兄に釣り針を返した後、山幸彦は田を作って耕作。兄の海幸彦もそれを真似たのか、田作り。
しかし水を司っているのは海神。その加護を受けている山幸彦の田には常に水が満ちているが、海幸彦の田には水が常に乏しい状態。
妬ましくなった海幸彦が襲ってくると、山幸彦は塩盈珠を使い、水を溢れさせて溺れさせる。海幸彦が謝ると、塩乾珠を使って水を引いて助けてやる。


石突を取ったシメジを小房に分ける。

海幸彦は以後、山幸彦に忠誠を誓う。
山幸彦の子孫が天皇家。海幸彦の子孫が南九州を支配した隼人族と言われています。


醤油大匙1、微塵切りにしたもう一本の葱、鰹節、胡麻油を混ぜ合わせる。

この話が示唆しているのは、この国の成り立ちの一端。
天皇家の始祖は敵対する隼人族を滅ぼした訳ではなく、臣従したらそれでよしとしたばかりではなく、兄として敬したとも読み取れます。
西洋の神話や物語では、敵対した者は徹底的に滅ぼされたり、奴隷にされるというパターンが多いかと思いますが、日本ではそうではない。謝ったらそれでよしとして、徹底的に追い詰めるようなことはしない。


鍋にシメジ、白海老、葱、ワカメを投入。塩と醤油大匙2を入れて沸騰させる。

同じような手法により支配と被支配という形ではなく、緩やかな連合体のような形で、日本という国家は形成されていった。天皇家というのは、その盟主的な存在だったと、「古事記」や「日本書紀」といった神話を伝える書物から感じ取ることが出来ます。
そうした国家形成の過程もすべて正しいとは言えないかもしれません。しかし理想としてはそうしておきたかった?


豆腐投入。更に煮る。再々沸騰まで。

海底で結婚した豊玉姫、陸に上がってきます。山幸彦の子を懐妊。しかし天孫の子を海底で出産することは出来ないという理由。
浜辺に産屋を作ろうとしたが、鵜の羽で屋根を葺いていたが、葺き終わらない内に産気づく。
「決して産屋の中を覗かないで下さい」と山幸彦に告げる。


煮上がった。

見るなと言われれば見たくなるのが物語のお約束。やはり山幸彦も覗いてしまう。産屋の中に見えたのは、八尋鰐がうねっている姿。
鰐というのは、古代では鮫を指しているのではないかと思われます。それにしても、妻の本当の姿を知り、恐れを為した山幸彦は逃げ出す。


鰹節と葱を混ぜ合わせた醤油薬味。

本当の姿を見られたことを恥じた豊玉姫は生まれた子供を置いて海へ帰ってしまう。
産屋の屋根が吹き上がらない内に生まれた子は、ウガヤフキアエズの命と命名。


海幸山幸湯豆腐

昆布とワカメという海藻出汁、干し海老に白海老の出汁と二重の海出汁。
山の幸であるキノコから山出汁。温かい豆腐にも染み込む。
湯豆腐といえば、昆布出汁で温めた豆腐を醤油やポン酢で食べるものですが、これは予め醤油と塩を入れて煮ているので、そのまま食べられます。葱と鰹節を混ぜた醤油薬味を乗せると美味さ倍増。
富山産の白海老がこの料理の特選素材。小さいので頭も殻も食べられて、カルシウムたっぷり。豆腐でタンパク質、葱からビタミンC等と栄養も申し分なし。
地味な湯豆腐が、ご馳走湯豆腐に変身。

豊玉姫が生んだウガヤフキアエズの命の子がカムヤマトイワレヒコの命、つまり神武天皇。初代天皇ということです。
山幸彦は神武天皇の祖父ということになりますが、実際にはウガヤフキアエズ朝という王朝があり、何代かの天皇が存在したと主張する研究者もいました。我が師というべき、ペドログラフ研究の第一人者であった吉田信啓先生もそう記されていました。
神話とか古代史、謎が多くて妄想の余地が多分にあると思いながら、海幸山幸湯豆腐をご馳走様でした。

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