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煮浸しナスサノオノミコト

漫画「花の慶次」の原作、「一夢庵風流記」は現代の場面から始まっています。
作者の隆慶一郎が現代の傾奇者というべき人物と個人的なデイトをした話。それに続いて、傾奇者とか婆娑羅と呼ばれた人々の源流は辿っていくとスサノオノミコトに行き着くと語られます。
神とは思えない程に人間っぽい神を妄想しながら、夏の旬野菜、茄子を料理した記録。


材料

茄子    5本
黒摺り胡麻 たっぷり
唐辛子   1本
醤油    大匙4
味醂    大匙3
出汁つゆ  小匙1
蜂蜜    大匙半分
胡麻油   大匙3
水     カップ1

日本を生み出したイザナギ、イザナミの神。その後も多くの神々を生み出したのですが、火の神を生み出した時、イザナミは秘所に火傷を負い、それが元で死亡。
妻にもう一度会いたいと願ったイザナギ、黄泉国へ。
そこで再会した妻に現世に戻ってくれるように頼む。
「私はもう黄泉国の食べ物を口にしたので容易には戻れません。方法があるか黄泉の神に相談してみます。その間、決して私の姿を見てはいけません」
世の中に数多ある話の中で、見るなと言われて約束を守った話はなし。約束を守ってしまうと話が成立しません。
やはりイザナギも覗き見。
そこに見たのは腐乱して蛆虫が湧いた妻の姿。
驚いたイザナギは逃げ出す。


ヘタを取った茄子を四等分にして斜めに切り込み。火を通りやすくして、味を染み込みやすくするため。

「見ーたーなー」とばかりに怒ったイザナミは追っ手を送る。
どうにか逃げ切ったイザナギ、現世と黄泉国の境、黄泉平坂に岩を置いて塞ぐ。
「あなたの国の人々を一日、千人殺してやる」
「それならば、私は一日、千五百人、新たな人を生み出す」
この殺伐とした会話を最後に夫婦は別れる。
この後、イザナギは黄泉国の穢れを払うために禊ぎ。
右の目を洗うと、アマテラスオオミカミが誕生。左の目からはツクヨミ誕生。そして鼻から誕生したのがスサノオ。


水に五分漬けて灰汁抜き、水気を払う。

太陽神アマテラスは高天原を、ツクヨミは夜の世界を、スサノオには海を治めるようにとイザナギは命じる。
ところがスサノオをそれを拒否。
母に会いたいと泣いてばかりいる有様。

この母というのはイザナミのことを指しているのか?しかしスサノオはイザナギの鼻から生まれたので、奇妙な気がする。
いずれにしろ、海を治める気などなったくない様子に怒ったイザナギは追放を命じる。


醤油、味醂、蜂蜜、出汁つゆを混ぜて、水を少しづつ加えて薄める。私は最終的にカップ1敗になったが、お好みの濃さでどうぞ。

母がいる根の国に行くことにしたスサノオ、その前に姉、アマテラスに挨拶しようと高天原へ。
根の国というのが黄泉国を示しているのだとすれば、やはりスサノオはイザナミを母と思っているということか。
スサノオが攻めて来ると思ったアマテラスは武装して待ち受ける。
スサノオは自らの潔白を証明するために誓約を行う。
誓約とは予め結果を予想して行為を行うという占いめいたこと。
剣を噛み砕いて、女が生まれたら邪心はなし。という予想。果たして自らの剣を嚙み砕いたスサノオが生み出したのは宗像三女神。交通の神です。


胡麻油を塗した茄子を片面、2分程焼く。

一方、アマテラスが同様に剣を噛み砕いて生み出したのは男の神。
どちらに邪心があるかがはっきりした。
己の勝ちとなったスサノオ、得意満面になったばかりか、次々と粗暴な振る舞い。
アマテラスが作った田んぼの畔を壊したり、神殿に糞尿をまき散らしたり等々。
もっともひどいのは馬の皮を剥いで、機織り小屋に投げ込むという行為。
驚いた機織り女の一人は、機織り道具で秘所を突いて亡くなってしまう。
こうしたスサノオの行動の数々に恐れと怒りを覚えたアマテラスは天岩戸に隠れてしまう。


焼け色が付いたら、調味液と細切りにした唐辛子を投入。

太陽神が隠れてしまったことで世界は真っ暗。
神々たちの高じた一計により、天岩戸からアマテラスは引き出されて光が世界に戻る。
神々達の怒りを買ったスサノオを地上へと追放。その前に爪と髭を切られてしまう。


沸騰させて味醂のアルコールを飛ばしたら、黒摺り胡麻を投入。

泣き喚いていたかと思うと、誓約に勝った勢いに浮かれて信じられない程の粗暴な振る舞い。
スサノオとは感情の起伏がかなり激しい神。
神というよりも人間に近い気がします。というよりも、神話の紡ぎ手達は人間とは多面体であり、喜怒哀楽は激しくてもいいと考えていたのではないか。
スサノオという人間臭い神を設定することで、そんなメッセージを後世に残そうとしたのではないかと思います。
人は感情を押し殺さねばならない場面に出くわすこともある。というより、感情を露わにすることは憚られることとされてきたようにも感じます。
人間、まあスサノオは神ですが多面体であり、いい面も悪い面もあるということも示されている。


煮浸しナスサノオノミコト

煮上がり、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。煮物は冷えていく内に味が沁み込む。
しっかりと甘辛味が沁み込んだ茄子、唐辛子の辛みも加わり、正に美味。
黒胡麻の風味が素晴らしい。
茄子や唐辛子の旨味が出た汁もとてもよい。素麺とか天ぷらのつゆにしてもよい感じ。
ナスからナスニン、胡麻からゴマグリナンの抗酸化物質。唐辛子のカプサイシンで代謝もアップ。

神仏習合後は牛頭天王と同一視されたスサノオ、疫病退散、縁結び、開運、厄除け等の御利益。これもまた多面な神様として祀られています。
高天原を追放される場面、スサノオはたしなみつつ下りきと日本書記では描写。
こうして出雲に降ったスサノオ、八岐大蛇退治など、活躍の話はまだまだあるのですが、料理が出来てしまったので、続きはまたいつか。
荒ぶる神と呼ばれ、様々な面を持つスサノオノミコトを妄想しながら、煮浸しナスサノオノミコトをご馳走様でした。

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