見出し画像

麻婆春雨じゃ、濡れていこう

「月様、雨が」
「春雨じゃ、濡れて行こう」
架空の勤王の志士、月形半平太の有名な場面。というか、ここしか知りません。
この人物、月形潜蔵と武市半平太の名前と人物像をミックスして作られたとか。
福岡藩の志士、月形潜蔵についてはよく知りませんが、武市半平太についてはそこそこ知っている。ということで、春雨を料理しながら武市半平太を妄想した記録。


材料

葱    1本
人参   1/3
ピーマン 1個
生姜   1欠け
大蒜   1欠け
春雨   1袋
花椒   2つまみ
片栗粉  大匙1
醤油   大匙2
蜂蜜   小匙1
塩    小匙1
胡椒   適量
豆板醤  小匙1
酒    大匙1
大豆肉粒 大匙2
水    1カップ

文政十二年(1829)生まれの武市半平太。瑞山という号でも知られます。
郷士の家に生まれましたが、武市の家は白札郷士。
土佐の武士階級は上士と郷士に分かれていました。
上士というのは、関ケ原の後、やって来た山内家の家臣達。
それまで土佐を治めていた長曾我部家は改易、そこに仕えていた武士が郷士。
身分は厳然と分けられていて、藩政に関与できるのは上士のみ。
しかし、郷士の中でも優秀と認められた家は白札という、言わば準上士に格上げ。


春雨を固めに茹でる。

剣術に優れ、やがて道場を開くと門弟が120人。その中には親戚である坂本龍馬もいました。
龍馬より6歳年長ですが、気が合ったようで、お互いを渾名で呼び合う仲。
「アギ」これは半平太のこと。土佐弁で顎のこと。半平太がエラの張った顎をしていたから。
「アザ」これは龍馬のこと。文字通り顔に痣があったから。
同じ時期に江戸に剣術修行。その時は半平太は鏡心明智流、龍馬は北辰一刀流をそれぞれ修行。藩邸では同宿。


大蒜と生姜を微塵切り

当時の剣術道場というのは単に剣術を学ぶというだけではなく、諸国から集まった者達がそれぞれの内情を語り合い、当時、沸き起こっていた尊皇攘夷の志などを語り合う場所でもあり。
そうした場に居る内に、半平太も感化された?或いは元々、そういう思想を抱いていたか、土佐の有志達を募って土佐勤王党を結成。
尊皇攘夷を実現するために、土佐一藩をすべて勤王派に染め上げて、朝廷の私兵とする、一藩勤王が半平太の理想。
しかし、実現は困難。


茹で上がった春雨を食べやすい長さに切る。

実権を握っている前藩主の山内容堂は公武合体派。究極的には幕府を倒そうと考えている半平太の考えを認める訳もない。藩の参政、つまり実力者の吉田東洋も同様。
勤王党に名を連ねているのは郷士や庄屋身分の者が殆ど。これでは藩論や藩政を左右することなど出来ない。
そこで半平太の脳裏に浮かんだのは、桜田門外の変。
強権を振るっていた井伊の赤鬼、大老、井伊直弼が水戸、薩摩の浪士に殺害された事件。
土佐の赤鬼も退治してしまおう。ということで、配下に暗殺指令。これが成功してしまった。


葱も微塵切り。

実は藩の家老達も改革を進めている吉田東洋を快く思っていなかったので、半平太と結ぶ。これにより半平太は一時的に藩政に影響力。
山内容堂も安政の大獄により蟄居していた時期なので、東洋暗殺の黒幕は半平太だろうと薄々思いつつも手を下せず。
邪魔者を力で排除する効果を、半平太は知ってしまう。


まずは生姜と大蒜を炒める。香が立つまで。

藩主、山内豊範入京を実現させ、それに伴って都に上ると諸藩の志士達と交流する傍ら、岡田以蔵らに命じて、尊皇攘夷派の邪魔になると思われる人物に次々と暗殺指令。
一藩勤王の実現にどんどん近づいていくかと思われると、そうはいかず。
まだまだ実権を握っている前藩主、容堂が動きだす。


ピーマン、人参、春雨、葱、水に浸した大豆肉、調味料を入れて炒めつつ煮る。

江戸で蟄居していた容堂、京都を経て土佐に帰国すると、牙を剥き出す。
文久三年(1863)八月十八日の政変が起こり、要は攘夷派の公暁や長州志士らが都から締め出され、それに伴い、政局も尊攘派優位から公武合体派優位に転じる。
容堂は元々、公武合体派であり、朝廷と幕府が協力して国難を乗り越えるべきという考え。幕府を倒して天皇中心の政体を作ることも辞さないという半平太や土佐勤王党とは相いれることなし。解散を命じられた勤王党は弾圧の対象に。


水溶き片栗粉を入れてとろみ。

元々、山内家は関ケ原後に徳川家康に土佐一国を拝領したという意識が強く、容堂も井伊大老と政治的に対立はしたものの、幕府を蔑ろにする気持ちは毛程もない。
勤王党の者達は切腹や捕縛と粛清の嵐。
尊攘派が力を失った今こそとばかりに、自分のお気に入りだった吉田東洋暗殺に関与しているであろう土佐勤王党へ攻撃。
武市半平太自身も捕縛。彼は準上士格ということから取り調べも話し合いに近い、割と穏やかなものだったそうですが、やはり自由を束縛された獄中では病勝ちになったとか。
しかし、他の勤王党員は殆どが郷士ということから厳しい拷問。連日、同志の悲鳴が聞こえる中、半平太も気が気でなかったことでしょう。


麻婆春雨じゃ、濡れて行こう

たっぷりの香味野菜が体を整えてくれます。生姜が体を温め、葱や大蒜のアリシンが食欲増進。ピーマンや人参からベータカロチン。豆板醤のひりひり感と花椒の一種、爽快な辛みが同居。
春雨がつるつるとのど越しよく食べられる。

特に半平太が気に病んでいたのは、岡田以蔵。
京都で天誅と称して暗殺を行わせた以蔵が、それらについて口を割れば、半平太ばかりか他の勤王党員も罪を問われて只ではすまなくなる。そこで半平太は以蔵に差し入れ。ただし毒入り。邪魔者は殺せがここでも。
以蔵は食べたものの腹をこわしただけで済んだ。或いは毒入りと見抜いて食べなかったとも言われます。
結局、厄介者扱いされた以蔵は知っていることをすべて自白。
これにより、半平太も切腹。
その切腹が凄まじい。
彼は三文字、つまり三回も腹を切りました。死に臨んで武士の意地を見せつけたということか。

邪魔者は排除すべしとしてきた武市半平太、最後は自身が排除されたということか。しかし、山内容堂は死の床で何度も
「半平太、許してくれ」とうわ言を呟いたとか。彼等の魂がせめて安らかであって欲しい。
そんなことを思いながら、麻婆春雨じゃ。濡れて行こうをご馳走様でした。

この記事が参加している募集

今日のおうちごはん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?