見出し画像

百合根チーズ焼紀文

紀伊國屋と言えば書店、スーパー等々、紀文と言えば練り物製造会社。
こうした屋号は多分に江戸時代の伝説的な商人へのリスペクトから来ているのではないかと思われる。
最近のマイブーム、百合根を料理しながら、日本的ビジネスのロールモデルとなった商人二代について妄想した記録。


材料

百合根     1株
ピザ用チーズ  好きなだけ
大蒜      1欠け
バター     15グラム
オリーブオイル 大匙2
塩       小匙1
胡椒      少々
パセリ     お好みで

江戸のバブル時代、元禄に活躍した紀伊国屋文左衛門。本姓は五十嵐ですが、屋号が示す通り紀伊国(和歌山県)出身。
長い名前なので以後、略して紀文と称します。
紀文が若い時分、紀州有田では蜜柑が豊作。ところが需要と供給のバランスというのが経済の原則。つまり供給があり過ぎると値崩れ。折角の農産物も余剰となり、豊作貧乏。
一方、江戸では当時、ふいご祭り。これはふいごを使う鍛冶屋が主催。行事の一つとして蜜柑をバラまく。ところがその時期、太平洋は大荒れで船が出せずに紀州蜜柑が必要でも入手困難。紀文はこれに目を付ける。


おがくずに入っている百合根を綺麗に洗い、変色している部分を取り除く。

妻の実家などから借金して蜜柑を大量に仕入れ、江戸向きの船を出す。なかなか行きたがる水夫がいないので賃金をかなり弾んで人をかき集める。そればかりか自身も船に乗り込み、江戸へ船出。
安全な所から指示だけ出している船主よりも、自分も危険に身を晒して陣頭指揮を取る。こうしたリーダーはやはり尊敬される。一致協力して嵐を乗り切り、江戸到着。
目論んだ通りに蜜柑は飛ぶように売れる。紀州で安く仕入れて江戸で高く売る。ハイリスクハイリターンが図に当たった。
儲けた金で水夫達を引き連れて吉原に登楼。十日余りも豪遊。
ただ遊んでいるだけではなく、これにも目論見。


微塵切りの大蒜をオリーブオイルで炒める。香が立つまで。

船を空で紀州に帰すのは面白くない。何か積んで上方で売れる物はないかと思案。それに派手に遊んでいると羽振りがいい奴がいると噂になり、人が情報を持って来る。
上方で流行り病。そして江戸には塩鮭が余っている。これだと目を付ける。
人をやって病には塩鮭が効くという噂を流してもらう。
或いは最初から、そんな噂があったのかもしれません。紀文は船一杯に塩鮭を積んで帰り、これまた大儲け。


百合根投入。塩と胡椒で炒める。

次に目を付けたのは江戸の町。火事と喧嘩は江戸の華と言われる通り、江戸は火事が多く、日本家屋は木と紙で出来ているので火事の度に木材が必要になる。紀文の地元、紀伊の国は元々は木の国と呼ばれていました。山がちな所なので木が多い。木材を大量に仕入れて江戸へ廻送。これまた巨利を得る。そればかりか上野寛永寺の建て替えの木材納入を任される。幕府御用達になったということ。政治と結び付いた政商に。
こういう風に書いてくると、利に聡い奴と思うかもしれませんが、紀文の商売の基本は三方良し。
ダブつき気味な産品が売れて生産者は良し、欲しい物が手に入って消費者も良し。仲介した商人も良し。ということ。
人に喜んでもらって自分も利益を得る。


いい感じに油が回った。

一種、冒険とも言える商売で身代を大きくした紀文。
東京都江東区の清澄庭園は紀文の邸宅跡と言われています。


清澄庭園

跡を継いだ二代目ですが、初代のような金の使い方が出来なかったようです。初代同様、吉原で豪遊。
商売敵が奈良茂こと奈良屋茂左衛門。同じ日に吉原に登楼。
雪が降り始めて、庭が白く染まり始める。奈良茂は馴染の遊女と風流ぶって庭を眺めていると、二代目紀文は庭に小判をバラまく。
「そら、拾え」
その声で遊女や他の客が一斉に庭に降りて、雪の庭は踏み荒らされてドロドロ。商売敵の風流を邪魔してやった。
誰も喜ばない、嫌な金の使い方。


グラタン皿に敷いて、チーズとバターを乗せる。

更なる儲けをと目を付けたのは通貨発行。
現代では一応、通貨は政府が発行する信用通貨ということになっています。(本当は違うけどね。日本銀行はあくまでも民間銀行)
江戸時代の通貨は幕府に申請して、商人が発行。
紀文の時代、寛永通宝が流通。これは一文銭。
一文というのは銅銭一枚に一匁の銅が含まれているという意味。
元禄はインフレ時代。物価上昇で物を買うのに銅銭の数が多くなり過ぎる。そこで二代目は十文銭の発行を幕府に申請。
大量の銅銭を使う煩わしさを解消。という訳にはいきませんでした。


200°に加熱したオーブンで15分焼く。

当時、両替商に行って小判とか銀を普段使いの銅銭と交換していたのですが、ここで百文下さいと言っても九十六文しか呉れませんでした。四文は両替商の手間賃。つまり両替とは手数料ビジネス。
こういう実態なので十文銭は使い勝手が悪い。
不評だったことから、五代将軍綱吉が亡くなると流通停止。
二代目は通貨発行権を得るために、事前に幕府に見込まれる儲けの半分を上納していました。しかし流通停止になっても幕府はお金返さず。
貰ったお金はあくまでも許可料。停止になっても返す謂れなし。


焼き上がったら、パセリを振る。

焼き上がった百合根はホクホクとした食感でいい味。チーズとバターがコクを加えてくれる。大蒜のパンチも効いている。
大蒜のアリシンが食欲増進させて、食が進む。
カリウムが豊富な百合根は老廃物の排出を助けてくれる。食物繊維も豊富。
正に毒出しのデトックス食材。

通貨発行で大損ぶっこいたことから没落の道へ。
というより、もしかしたら幕府にそう仕向けられたのかもしれないと妄想。
通貨流通の実態と合っていないことを承知の上で、或いは幕府側から十文銭の発行を促されたのかもしれない。
この国では出る杭は打たれる。金持ちをひけらかすようなばら撒きが反感を持たれた?
商売は政治と結び付くと、政治の風向きや権力者が変わると途端に斜陽。
金を吐き出させて、幕府も潤い、目障りな商人も潰せて一石二鳥?
国家の本質は騙す、殺す、奪うですから、二代目紀文も騙されて奪われた?
そんなことを妄想しながら、百合根焼紀文をご馳走さまでした。

二代目と書いていますが、紀文は一代。つまり後半の没落も同一人物という説もあります。

この記事が参加している募集

今日のおうちごはん

お金について考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?