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前田利家のき玉揚げ

エノキダケって細くて長い。まるで槍のような。
ということで、今回の料理の妄想は槍の又左こと、前田又左衛門利家に決定。


材料

エノキダケ 1パック
玉葱 半分
卵 2個
だしつゆ  大匙 2
片栗粉 大匙 5
揚げ油 適量

江戸時代、100万石という石高を誇っていた大名家は前田家のみ。その藩祖となった前田利家。決して平坦な道を歩んで、そこまでの地位を得たのではなく、結構な波乱万丈。
何しろ彼は四男。継ぐべき家もない状態からのスタート。
織田信長に小姓として、傍近くに仕えることからキャリアが始まる。


エノキダケは石突を落として、2センチ巾に切る。軸はしっかりとほぐす。

若い頃の利家は傾奇者として知られていました。つまり派手な格好や突飛な行動で人目を驚かすのを好む性格。
勿論、見せ掛けばかりではなく、槍を取っては敵う者がいないという腕前から、槍の又左の異名。
ある時、彼は事件を起こして織田家を去ることになります。


玉葱は微塵切り。

妻のまつから貰ったと言われる笄を、信長に仕えている茶坊主の拾阿弥に盗まれます。笄というのは刀の装飾品ですが、本来は頭を掻く道具。昔の人は髷を結っていますから、頭が痒くてもやたらと指で掻くと、髪型が乱れるので細長い棒のような笄を髪の間に突っ込んで掻いていた訳。
傾奇者として知られた利家の持ち物ですから、さぞや派手で見栄えがする物だったことでしょう。それを盗まれたことから激昂。拾阿弥を斬り殺して出奔。

エノキ、玉葱、調味料、卵を混ぜ合わせる。まとまりがよくないので、卵を後で1個追加。

織田信長にとって乾坤一擲の大勝負となった桶狭間の戦い。利家は出奔した身でありながら、無断で参戦。幾つも首を挙げました。
当時としては勢いがあった今川家に付くということはせず、あくまでも信長に味方し、手柄を挙げることを望んだということです。信長も帰参を許しました。
そればかりか、利家は前田家の家督を継いで、荒子城主へ。
本来は兄、利久が跡継ぎだったのですが、利久の嫡男は実は前田家の血を継いでいない可能性。利久の妻は元、滝川益氏の妻。益氏の子を懐妊した状態で嫁いできたと言われます。滝川家の子が前田家を継ぐことになると後々、お家騒動が起こるかもしれないことを信長は危惧した?
因みに、問題の利久の子が前田慶次郎。漫画「花の慶次」の主人公で、利家にも引けを取らない傾奇者。


丸く形作って油で揚げる。

利家があくまでも信長の下で働くことを望み、信長もそれを許し、優遇していたようにも見えますが、これは利家が有能だったのも勿論ですが、二人が特別な関係にあったことも一因?
実は信長と利家は男色関係。
このことを記録した文書もあるそうで、利家自身もそれを誇りにしていたそうです。あの信長公と特別な関係にあったということは、武士にとって誉だったということです。
最近、世界中でLGBTとか言っていますが、日本人から見れば、今頃?ということになります。ようやく世界が日本に追いついた?
日本という国は昔から性に対して寛容な国でした。
男色は衆道と呼ばれ、武士の嗜みでもありました。戦国大名と武将でも、そういう関係にあったと言われるカップルは結構、います。武田信玄と高坂弾正、大内義隆と陶晴賢とか。
キリスト教の国では同じ頃、同性愛者は犯罪者のような扱いだったのとはまったく異なります。
人の趣味や性癖にとやかく言わない。言うのは野暮なこと。


どんどん揚げる。利家の鎧のような黄金色になるまで。

信長の死後は秀吉に付いて、五大老の一人として豊臣家を支えました。こういう風に見ると、勢いある者に付く打算深いように思えるかもしれませんが、決してそうではなかったと思います。
織田家を出奔していた時代、何かと気にかけてくれた秀吉への恩義を忘れていなかったということでしょう。
また普段から算盤を持ち歩き、蓄財に励んでいたといいますが、金に困っている大名には貸してやりましたが、決して前田家側から返済の督促はしなかったそうです。
「返済能力がない者に貸した金は、呉れてやったと思うべし」と利家は語っていたとか。


揚がったら油を切る。

死に臨んだ利家にこんな逸話。
「これまで武士として心ならずも命を奪ってきたのだから、せめて地獄行きを逃れられるよう」
妻のまつが縫った経帷子を着せてやろうとすると、利家はこれを拒否。
「今まで確かに多くの命を奪ってきたが、理由なく人を殺したり傷つけたことは一度としてない。そんな儂が地獄行きだというのは納得せぬ。先に行った者達と組んで、地獄の者達と戦する故、その帷子は後からそなたが持って来い」
死に望んでも、傾奇者の心得を忘れていなかったことを感じさせます。


前田利家のき玉揚げ。

要はエノキダケと玉葱の掻き揚げですが、サクサクとコリコリのコラボ食感。玉葱の甘さも際立つ。卵と片栗粉が細かく切った具をきっちりとまとめ上げている。ご飯にもよし、ビールのつまみにも又よし。
揚げ物とはいえ、中身はエノキダケと玉葱ですから、低カロリー。卵から良質なタンパク質も。

「花の慶次」では計算高い面が強調され、あまりいい描き方をされていないように思えますが、現代でも文化都市として知られる金沢の基盤を作ったと言える前田利家。その生涯を思いながら、前田利家のき玉揚げをご馳走様でした。

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