フィルター

君のマスクが覆っているのは、口元だけじゃないみたいだ。

「じゃね」

振り返ることなく、サラリーマンとすれ違いながら駅の階段を上っていく。

気だるそうな背中を見守って、煙草の煙と一緒に見えなくなった。

安ホテル特有の朝の喉に沁みる。

キスを求める君も、サヨナラを告げる君の先に僕は映っていない。
僕もきっと君を映せていない。

けれどまたいつかの次も、暗闇の中で隙間から差し込む朝日を見るんだろう。

見せなくていい、そのまま知らないままがいい。
何もなかった、朝が好きだ。

今朝の空気はひんやりと少し冷たくて、残ったアルコールが僕を支配することはなかった。

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