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推し、ジム辞めるってよ。【3.沼にハマるシステム〜パフォーマー】

推しの話をしたいのにまだまだたどり着かない第3回!
前回は「沼にハマる前提として圧倒的達成感がある」ことについて書きましたが、単にキツいメニューが用意してあるだけでは達成感は得られません。グループレッスンとはいえ隣もよく見えない暗闇で個々のサンドバッグと向き合うのですから「あーしんどい」ってすぐ思います。1人黙々とやってたらたぶん秒で挫折する。

大事なのは目の前にあるロードにインストラクター(パフォーマー)がいることです。
彼らはそこで動きの見本を見せ、音楽にボーカルをのせる要領で英語のキューイングで指示を出し続け、メンバーを煽ります。ロードを駆け回って個別に声をかけたりサンドバッグを押さえたり叩いたり、時にはロードを降りて鬼トレーナーのように真横にしゃがみ手を出して「もっと膝を上げろ」と要求したりします。じっと見守って「ナイスパンチ!」と褒めてくれたりもします。その叱咤激励によって、私たちも最後まで頑張れるのです。
そして運営がある時点から呼称を「インストラクター」から「パフォーマー」に変えた通り、彼らには「先生役」のみならず「表現者」としての個性が要求されています。華やかなルックスや過去の経験(入社時にボクシングスキルは問われないので元ダンサーや現役DJなども多い)を活かしたステージパフォーマンスなどを前面に出します。

キツい45分間を先導できるよう、その中でもちゃんと魅せられるよう厳しい研修を経た彼らは、もともと高い身体能力にさらに磨きをかけているので、私たちがゼエゼエしてる目の前で高々とジャンプしたりすごいスピードでハイニー(腿上げ)したり、重力などないかのようにプッシュアップしたりします。もちろん肉体は鍛え上げられているので、その姿は男女問わず美しくかっこいいし、リスペクトの気持ちが生まれます(しかもみんな本当に一生懸命で良い人たちなのですよ…)。

もちろん私たちは運動したい、健康になりたい、ストレス発散したいなどの理由で通っているわけですが、そういうパフォーマーが数十人いて、それぞれセットリストも個性もキューイングも内容も違うので、いつしか「お気に入りのレッスン」または「お気に入りのパフォーマー」ができてきます。(もちろん自分の合う時間を優先して受講している人もたくさんいます)

高強度で駆け抜ける45分。ラストに向けてライブのような盛り上がり(最後は「Are You Ready?」「Yeahhhhhh!」などのコール&レスポンスがお約束)。わきあがる達成感&トランス感覚。
その空間を作り上げる中心人物がパフォーマーですから、人によってはアイドルやスターに近い存在にもなっていったりするわけです。そう、推しの誕生ですね…。

「会いに行けるアイドル」を標榜したグループがありましたが、それでいうと彼らは週に何本もPGMを持っているので「週に何度も会いに行けるアイドル」です。芸能人と違って気軽にお話もできるし、顔や名前を覚えてもらうこともできるしな…。

好きなバンドのライブに足繁く通えば通うほどお金は飛んでゆくけどこちらは定額で(上限はあれど)通い放題。さらに通えば通うほど運動することになり、身体にいいことをしているという自己肯定感が高まる。「推し事」と捉えた場合でも罪悪感が生まれにくい。
もちろん「かわいい!かっこいい!ラブ♡」「彼のやるレッスンが好き」「人柄が好き」「ボクシングスキルがあるからいい」「強度が高くて好み」と、推す理由はそれぞれなので、別にみんながみんな「ワーキャー言いたいアイドル」というわけじゃない。ただ、

・週に何度も通い、スケジュールもその人のレッスンを最優先する
・先導・指導してくれる先生であり、ステージ上の憧れの人でもある
・コミュニケーションを重ねて、お互いが「おなじみさん」になる

こうなるともう単なる推しを通り越して「日常生活の軸」「ライフスタイルの中心」みたいな存在になっていったりします。人によっては恋人よりも身内よりも会ってる人間になる(笑)

そんな存在がある日、退職してしまう。差はあれど1〜3年程度で「その日」を迎えることが多いので友人内では順番に誰かが「推しの卒業」という直撃弾を食らうことになります。
ただでさえ中毒性の強いジムなので、毎日のスケジュールに当たり前のように入っていた推しのレッスンが翌日からいきなりゼロになるということはすなわち「生活の激変&崩壊」を意味します。そら翌日も他のパフォーマーのレッスンは続きますよ…だけど推しはもういない。数年間当たり前のように通って(会って)いた人がいきなり目の前から消えたら俺たち一体どうやって暮せばいい…?

これは「大好きで長年追い続けたバンドがいきなり解散する」くらいの衝撃に匹敵する悲しみと苦しみです。言うと笑われるけどほんとだよ。もはや愛だの恋だのじゃねえ!生活の一部、私のランドマークだったんだよ!…と。

というわけで退職告知からレッスン千秋楽までの日々はつらさをこらえて「自分の都合が許す限りレッスンに出よう…」となるし、予約枠を増やすためにVIP会員になったり別でチケットを買ったりと、金と体力の限界に挑戦するハメになる。狂ってますね。「何やってんだ…そもそも何のためにジムに通ってたんだ私は」みたいな正論が頭をよぎるけどそれを払いのけて残り少ない日々を推しと共に走り抜けるわけです。

実際私はその期間が1週間だったけどそれはそれは心身がつらかった。明らかに過運動で身体ヘロヘロ、ふと1人になると凹んで胸が痛い。「ふうぅぅーーー」と意図的に息を吐かないと呼吸がうまくできない日々。

【まとめ】
・キツさを乗り越え盛り上がり達成感を生む45分を作り上げ
・共に走ってくれた指導者であり憧れの人
・週に何度も会ってたその人がいきなりいなくなる
・完全に浸かり切った沼の水、全部抜かれる
・すなわち死

というわけで私たちにとっては決して「たかだか」インストラクターの退職ではないのです…(やっと結論に至った)

ここまでは一般論(一般論か!?)でしたが、次回は「私の推しポイント」の話をします。まだ終わらないのか…。


(※ちなみに近くに来ての煽りやコール&レスポンスは、時節柄いまは禁止となっています)

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