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自分を自分で孤独にしない「正しさ」からの脱出 映画「茶飲友達」感想

※ネタバレ有り
映画「茶飲友達」を観てきた。多世代で協力し合いながら暮らすコミュニティ「野田村」を運営したいという話をしていたところ、大学の先輩に勧めてもらったのがきっかけだ。

あらすじ


高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達 (ティー・フレンド)」で働く高齢者(ティー・ガールズ)たちと、クラブを運営する若者たちの話。2013年に摘発された会社がモデルだそうだ。
「茶飲友達」は30代の女性マナが経営する会社。
サービス内容は、高齢女性を、高齢男性客に引き合わせる。名目上は「お茶を飲む」だが、高齢男性客のほとんどは一緒にお茶を飲むだけではなく性行為まで及ぶ上級コースを選んでいた。
最終的には警察に摘発され、代表のマナは逮捕される。

「茶飲友達 (ティー・フレンド)」の社会に与えたメリット


「茶飲友達」によって、高齢者女性(ティー・ガールズ)と若者の雇用が生まれ、孤独を感じる高齢男性に癒しを与えていた。会員数が1000人を超えるなど人気は上昇しており、経済的な意義と、社会的にも求めらていたサービスであった。自殺しかけていた高齢女性を救ったり、客の高齢男性に生きがいを与えるなど、行政などではカバーできない領域の新しいセーフティネットだったとも言える。

「茶飲友達 (ティー・フレンド)」の社会に与えたデメリット


売春防止法を違反していることで、「茶飲友達」摘発された後、働き手は急に収入が無くなり、サービスを利用していた高齢者も老人ホームの規約を違反したとして、退去させられて居場所がなくなった事。

また、働き手の高齢女性が、働き始めてもなお、万引きがやめられなかったり、顧客の高齢男性がサービス利用後に自殺をしたりと、セーフティネットと言い切れない部分があったと思う(ここについては「「茶飲友達」人たちはなぜ法に触れる事をしたのか」で、触れる)。

法に触れないバージョンの「茶飲友達」


「茶飲友達」が売春ではなく風俗の業態でであれば、摘発されずに継続できたのではないかと思った。調べると、現在、「高齢者専用風俗店」は存在している。
お店のHPに「心も身体も癒される店」と書かれているのもそうだが、働き手のインタビューを聞くと、性行為以外に肌の触れ合いを求められる方もいらっしゃるので、まさしく「茶飲友達」内で性行為以外の純粋な肌の触れ合いが表現されていたので、高齢者が求める物は性欲を満たすだけではないのだなと感じられる。


「茶飲友達」と「野田村」の似ている部分


「茶飲友達」は、下記2点において私が将来運営したいと思う「野田村」に怖いぐらい似ていてた。
・70歳を超えても働ける環境づくり
・多世代で協力し合うコミュニティ
・擬似家族を作っていた
そして、マナが「自分の寂しさを人の孤独で埋めている」と警察官に指摘されていた時に、私もマナ同様、私の母親とは作れなかった家族を「野田村」で作ろうとしているのではないかと思いドキッとした。
でも、同時にマナのやっていた「法に反すること」と「高齢者女性を金儲けに利用する」などの都合のいい家族になっていなければ、「自分の寂しさを人の孤独で埋めている」としても、何も背徳感を感じ後ろめたい思いをする事も無いと思った。

「茶飲友達」の人たちはなぜ法に触れる事をしたのか


「茶飲友達」をみて、自分をギリギリまで追い込むまで孤独になると、法に触れる事にも関わってしまうと思った。「茶飲友達」に関わる人は全員孤独だった。孤独に共感して、つながりを欲するがばかりに、違法だとわかっていながら、売春業に関わっていったのだと思う。

雇用されていた高齢者女性の発言が象徴的で、彼女は警察に対して、若者が経営する「茶飲友達」に「利用されている」事には気づいていたが、ひとりになりたくないという理由により働き続けていたと言う。

「茶飲友達」に関わる方の孤独
・実の親とうまくいかない
・奥様に先立たれた
・家庭を持つ男との間に子供が出来るが男が音信不通になる
・父親が脱サラしてパン屋をしたが今はホームレスになってしまった事をダサいと思って何もしない事の方が良いと思っている
・子供が老人ホームに入れてくれたが、会いにきてくれない
・昔会社の地位の高い存在だったことが頭から離れず、人に偉そうな態度をとる
・妻が性行為をしてくれなくなった
・結婚もせず父母を介護した後に1人になって万引きがやめられない
・やめた方がいいと分かっていながらもパチンコがやめられない

しかし「茶飲友達」の登場人物の寂しさは、対岸の火事ではないと思う。私達も年齢や健康等の意図しない環境などの変化によりいつでも孤独になる機会は十分にあると思う。どんなに強い人でも自殺するための紐に首を通すぐらいのギリギリの線まで行ってしまえば、犯罪と分かっている事にも関わることを選んでしまうのではないか。

これは想像だが「茶飲友達」の従業員は、おそらく自分の仕事が犯罪だと分かっているから仕事内容を家族や友達に言わなかったのではないか。それが、逆に「茶飲友達」以外での社会との接点が減るなどして逆に寂しさを生んでいたのでは無いだろうか?

孤独対策に何が出来るか

孤独を感じなくても良い人生を送るために、孤独にならないように趣味を持つとか、仕事を持って社会との接点を持ち続けることも大事だと思っていたが、「正しさ」の物差しから自分を解放することで孤独を感じることは減るのではないかと思った。

ヒントは、「茶飲友達」の代表マナだ。彼女は、「正しい」という言葉を使って自分の行動基準を判断している。それは、彼女を厳しく育てた母親の影響だと思う。

マナは昔、風俗店で働いていたが、母親はそのことを許せない。マナが母親に会いに行っても、もらった花束でマナを殴りつけて帰してしまう。
しかし、マナはマナで言い分がある。「母親は、愛してくれなかった」と。マナはマナなりの正しさで母親を許せない。マナは風俗で働いていた時のことを「プロとして誇りを持って働いていた」と言う。マナなりの正しく無い中にも正しさはあったのだと思う。

ここで言う「正しさ」と何か。命に関わるのか?人にはそれぞれできないことも沢山ある。母親だって子供をうまく愛せないこともあるし、風俗だって、立派な職業ではないか。

それを「正しさ」の判断基準で批判することをを辞めてみたらどうだろう。

・マナは、昔風俗店で働いていた。プロとして誇りを持って働いていた。
「茶飲友達」は違法だったが、1000人の会員の会員数を誇っていた。
・マナ母は、子供に愛情を注ぐ事ができなかったし、夫にも逃げられたが、子供2人は成人し、自分の力で稼いでいる。

これで留めておくのはどうだろう。「正しさ」のとどめの一撃を刺さないことで、笑ってツッコミ合えるのではないか。自分で自分を「正しさ」のルールから解放することにもなり、孤独を感じさせる事は減るのではないかと思った。

映画の最後のシーンで警察にいるマナを母親が面会に現れる。「家族だから」と。マナは「家族って何?」と嫌そうに答えていたが、「正しさ」を超えた関係性ができた瞬間のように思った。


※高齢者万引きの理由
高齢者万引きは近年増えているらしく、理由は、「孤立」や「孤独」などが挙げられるらしい。

警視庁の調査によると、65歳以上の高齢万引き被疑者のうち、「独居」は56.4%、交友関係「いない」が46.5%である。家族や友人だけでなく、自らをサポートをしてくれる人が身近にいないことも考えられ、社会関係性の欠如が孤独や不満、ストレス等に繋がり、問題行動へと発展するケースもあるのではないかと思われる。
生活背景に「孤立」や「孤独」があり、社会に対する不満やあきらめ感が媒介して犯罪に及んでいると推測される。自分の現状への不全感や将来への不安感、自分を守ってくれない社会に対する不信感が犯行の背景にあると思われる。(矢島 正見)

万引きに関する有識者研究会 報告書


※高齢者によるパチンコ依存症
ギャンブルで寂しさを紛らわせる高齢者たちが多く、高齢社会が進むにつれ、ギャンブル依存症に陥る人が急激に多くなっていることが問題視されているらしい。

(ギャンブル依存症の)データを見ると、50歳以上の男性が190万人と、特に大きな割合を占めていることがわかります。こうした人々は、定年退職などを迎えたあと、今まで仕事に没頭してきたために、家庭での居場所がなく、さらに趣味もないという状況に陥るケースが多いです。

その喪失感や寂しさを紛らわすために、ギャンブルに走ってしまう人が多くいると言われています。

また、そもそも収入の少ない若年層や、子育てなどで出費がかさんでいる中年層に比べて、蓄えてきた貯金があることなども、ギャンブルに手を染めやすい理由のひとつです。

ギャンブル依存症の約4割が高齢者!保険対応可能になった影響で社会保障費が増大⁉

参考:なぜ「高齢者の売春クラブ」は必要とされたのか。超高齢化社会が抱える孤独 『茶飲友達』外山文治監督インタビュー

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