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11.悪魔との取引みたい

 あれからしばらくそのまま無の生活を過ごします。

 感情の振り幅を小さく小さくしようと、刺激を受けそうな物事からなるべく遠くにいられるように、いろんな事から距離を取るようになりました。
 そして、いつの間にか自分を「取り繕う」ようになるのです。

 わたしの症状を知っている友達や上司(これからは上司1と呼びます)には、今とても上手くいっていると言ってました。安定しているし、泣くことも一切なくなって、ちゃんと毎日眠れている、やっとこうなれた、だから大丈夫だよ、今まで迷惑かけてごめん。聞かれたらそう言っていました。

 前向きになった自分、落ち着いた自分を、少しずつ演じていったように思います。もうどうやって接していけばいいのか、よく分からなくなってしまったんですよね。

「そういえば前に比べて、顔色も良くなったね」
 そう言われて嬉しかったし、やっぱりこれで良いんだと自分に言い聞かせました。本当は空っぽでスカスカ。だけどそれを悟られないように、そして自分でも認めたくなかったから、少し距離をとって取り繕うんです。

 こんなもんでしょ、人生なんて。同じようにつまらないと過ごしている人はいっぱいいるはず。よく「つまらないというなら自分で楽しくしなきゃ」と言うけど、楽しみ方もなんだかよく分かりません。
 そもそも楽しいという感情から刺激を受けて、また前の自分に戻りたくなかったから、楽しそうなことからも距離を取りました。同じように喜びとか悲しみからも、怒りからも距離を取っていきました。

 前はそれがなかなかできなかったのに、自分は空っぽだからと意識することで、なんとなくできるようになっていくんです。いや、取り繕えるようになっていくんです。

 自分の可能性、未来への希望、そういった前向きなことを全部諦めて、その代わりに今まで感じていたネガティブなものを手放せた。なんか悪魔との取引みたいだなコレ。

 「魔法陣で私を呼び出したのは君だね? そして君の望みは安定だ。明るさと暗さ、全て無くす代わりに君が望んでいる安定を約束しよう。取引するかい? 両方手に入れることはできないよ。それでもいいなら、私と契約しよう。等価交換だ」
 ・・・エドとアルを思い出しますね(鋼の錬金術師ね。あれ面白いよねー)。

 また話が少し飛びましたが、要するに「スカスカ」。まさにそんな気持ちでした。自分の家で一人でいる時は、取り繕う必要がなかったから窮屈さを感じずにいられました。
 でも虚しさはどんどん積もっていきます。

 そして一番やってはいけないことをします。薬を飲むことを勝手にやめました。ポイしちゃいました。
 通院もそのまますっ飛ばし、ついに飲む薬も手元になくなりました。

 数日の間は、その安定と思われる状態のまま、過ごしていきます。
 しかしやはり、その選択のツケがじわじわとやってきて、ひどく後悔することになります。あーわたし後悔の連続だわー・・・。

 同じような失敗と後悔をくり返す。だって「にんげんだもの(みつを)」。