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Netflix「ペイン・キラー〜死に至る病」製薬会社の闇と中毒症状に苦しむ人々

Netflixで興味深い作品を見つけたので視聴。
ジャンルは医療で実話ベースのドラマです。

米国全土を中毒の渦に突き落とした、薬物オキシコンチンの危険を描いたドラマ。原題は「Painkiller」

実話に基づいた作品ではありますが、一部フィクションも含まれています。
※話の冒頭には必ず以下のメッセージが入ります。

この物語は実際の出来事に基づいていますが、一部は演出上フィクションとなっています。

Netflix「ペイン・キラー〜死に至る病」あらすじ

このドラマの概要は以下です。

一族の起死回生を狙いオピオイド(麻薬系鎮痛薬)に目をつけたリチャード。鎮痛のみならず快楽を与える当薬は、お金儲けにはうってつけの商品であった。医師、看護師を騙しながら「処方薬」によるドラッグ汚染を蔓延させたパーデュー製薬。大統領による国家緊急事態宣言が発令されるほど米国全土を震撼させた薬物問題。

1990年代頃から、オピオイド系鎮痛薬の過剰摂取による死亡者数がアメリカで急増しました。その中心にあったのが「オキシコンチン」です。

その製造元であるパーデュー製薬に重点を置き物語は進みます。

※トランプ米大統領は、2017年に公衆衛生上の緊急事態を宣言し、オピオイド乱用防止などの対策に60億ドルの予算を投じています。

■登場人物の紹介

本作には4人の主要人物がいます。
それぞれの役割を整理することで理解度が上がるでしょう。

1.リチャード・サックラー:本作の大ボス。製薬会社のビジネスモデルを構築したアーサー・サックラーの子孫。財政難に陥ったサックラー一族の起死回生を狙いオピオイドに目をつける。
2.グレン:仕事中に負傷し痛みが強かったためオピオイドを処方される。オキシコンチンの副作用に苦しむ様が彼を中心に描かれる。
3.シャノン:製薬会社のセミナーをきっかけに大学卒業後、パーデュー製薬で勤務。営業職としてオキシコンチンの販売に勤しむも、犠牲者を目にして彼女自身苦しんでいく。
4.フラワーズ・エディ:連邦検事局の検査官。パーデュー製薬を訴えるために奮闘した人。

冒頭シーンは全6話を観た後に、もう一度視聴すると理解できます。

リチャード・サックラーの証言を得るためにどれほどの苦労があったのか。
奮闘したフラワーズ・エディの苦悩を知ることができるでしょう。

アメリカ全土を震撼させたオピオイドとは?

本作は、麻薬系鎮痛薬の過剰摂取問題がテーマです。

以前から米国では、大麻やコカインを中心とする薬物乱用が起きていました。しかし、1990年代に突入してから様相が変わり、オピオイド系鎮痛薬の過剰摂取による死亡者数が急激に増加。かつてない程の死者を出し「史上最悪」とも呼ばれる数になりました。

その中心にあったのが「オキシコンチン」という商品名の鎮痛薬です。

■オキシコンチン(オキシコドン)はモルヒネと同等

ちなみに、オキシコンチンの主成分はオキシコドンです。
オピオイドというのは、麻薬系鎮痛薬の総称です。

オキシコドンの歴史は古く、1916年にドイツの化学者によって合成され、1917年には痛み止めとして臨床使用が開始されました。その後、ヨーロッパ全土に広がっているので一概に「危険な薬」というわけではありません。

日本ではあまり聞き慣れない薬剤名ですが、同等の成分を持つのが「モルヒネ」です。強い鎮痛作用を持ち、末期がんなどの持続的な激しい痛みに使われます。

■日本でもオキシコンチンは販売されている

2003年には日本でも販売され、モルヒネやフェンタニルに並び、がんに苦しむ患者様を救うために欠かせない医薬品となっています。

WHOが提唱する三段階除痛ラダーにおいて、モルヒネ・フェンタニル・オキシコンチンは強オピオイドのカテゴリに属されています。それだけ強力な薬剤であり、正しい使用方法が求められるというわけです。

私が昔、整形外科の手術室にいた時、フェンタニルは普通に使われていました。主に骨を削るような大きな手術の場合です。モルヒネは常備していましたが、オキシコンチンは記憶にないです。

適正に使用すれば役立つ薬ですが、何故アメリカ史上最悪の薬物中毒を招いたのか・・・?


パーデュー製薬の巧みな販売戦略

本事件の大ボスであるリチャード・サックラーは、人間の行動心理を以下のように語っています。

人間の行動は2つに分かれる「①痛みから逃げること」「②快楽に向かうこと」この2つを永遠に繰り返す。

つまり、この間に入ることで大きな利益を生もうと考えたのです。さらに、製薬会社のビジネスモデルを構築したアーサー・サックラーは以下のように語っています。

薬を儲ける秘訣は「販売」と「販促」と「ウソ」である。広告が薬の未来。

リチャード・サックラーは、アーサー・サックラーの子孫です。その血筋を受け継いでいますから、営業はうまいのでしょう。

人間の行動心理学をうまく使って、中毒の渦を作ったといっても過言ではありません。

■薬を儲ける秘訣①ウソ

医療業界でもよく使われるであろう手法「権威性」

「医師という専門家の推薦(発言)であれば信頼できる」という心理を利用し、ときには架空の医師を作りあげ創作に近い医療情報を現場の医師に伝えたとも言われています。

・がんなどの末期だけでなく多くの痛みに対応する。
WHOの三段階除痛ラダーに反している。
・依存性がほとんどないので長期に渡って使える。
→使用を繰り返すと身体的依存が形成される

オピオイドの最も恐ろしい点は、一度依存症に陥るとそこからの脱却は難しいということ。

■薬を儲ける秘訣②接待とキックバック

麻薬系鎮痛薬なので、その危険性は医師も十分理解しているはずです。
必死の営業にも興味をあまり示さなかった医師も次第に、オキシコドンを積極的に使うようになります。

その背景には、「接待」と「キックバック」がありました。

パーティに招待するなどの特別待遇他、女性担当者との色恋。まあよくある手法ですね。ちなみにキックバックというのは、取引の見返りに利益の一部を還元することです。

売り上げに応じて社員の報酬があがるという仕組みもあったため、アグレッシブな宣伝や売り込みが行われていました。

錠剤を粉砕し鼻から吸う若者たち

ドラマの後半から依存症になった人々が、オキシコンチンを粉砕し鼻から吸う描写があったんですね。完全に麻薬常習犯の姿ですね。

わざわざ粉砕して内服している理由として「即効性」を求めていたからだと思います。

■接種部位で変わる薬の吸収スピード

医療従事者ならわかると思うのですが、接種する部位によって薬の吸収スピードが変わるのです。その順番は以下です。

速い順に静脈内注射>吸入・舌下>筋肉内注射>皮下注射>経口投与

「鼻から吸う」という行為は、吸入・舌下に該当します。本来、経口投与すべき薬をより吸収速度の早い用法で服用していたということです。

■鎮痛薬にとどまらないオキシコンチン

オキシコンチンを含むオピオイドですが、鎮痛作用以外にも、脳内で多幸感や依存の形成に作用する部分に関与します。健康な人が遊びや快楽で麻薬を使用すると依存を形成する物質がたくさん放出されるんですね。

先述したように、オピオイドは主に末期がん患者などの持続的な強い痛みに使われ、そのような患者には、依存を形成する物質が放出されにくいとも言われています。

適切な用法で医療用麻薬を長時間使用し続けても「中毒」や「依存」になる可能性はかなり低いのです。

米国オピオイド危機により40万人以上が死亡

BBC NEWS JAPAによると、アメリカでの犠牲者は40万人以上とも言われています。

アメリカでは1999年以降、パーデューの処方鎮痛剤オキシコンチンをはじめ、麻薬性鎮痛薬オピオイドを含む鎮痛剤が大量に処方されるようになり、中毒者が相次いだ。この「オピオイド危機」によって、40万人以上が死亡している。引用:米製薬パーデュー、鎮痛剤めぐる巨額和解で有罪認める方針 オピオイド訴訟

1999年〜2017年に発生した薬物過剰摂取による死亡事例のうち、オピオイドが関連したものは40万件以上にのぼります。

※千葉県柏市の人口が約40万人なので、そこがごっそり無くなる感じです。

このオピオイド危機によって、多くの若者が犠牲になったことを考えると胸が苦しいですね。

■パーデュー製薬の末路

鎮痛剤オキシコンチンの販売をめぐり、パーデュー社には2000件以上の訴えが集まりましたが、最終的には「和解」という形で終わっています。

※和解金は約80億ドル以上を支払うことで同意。

オピオイド危機の大ボスであるリチャード・サックラーが刑務所に入ることを多くの人が望んでいたでしょう。犯罪と決定づける大きな証拠がありながら、和解という形に落とし込んだのはリチャードの手腕と言わざるを得ません。

製薬会社に限らず、マーケティングをうまく使い消費者を騙す行為は日本でも多く存在します。

いよいよ、私たち消費者のリテラシー向上を求められる時がきたのかもしれません。

Netflix最新のドラマです。今後大きな注目を浴びること間違い無しの作品なので興味がある方はぜひ!



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