見出し画像

難解なんて言わせない日本一わかりやすい!映画「オッペンハイマー」あらすじ解説

映画「OPPENHEIMER/オッペンハイマー」鑑賞してきました。

監督は、「ダークナイト」「TENET テネット」「インターステラー」などの大作を出してきたクリストファー・ノーラン。綿密な作り込み故、難解と称される作品も多数。

以前紹介した、映画「インターステラー」も難解の類。地球での時間の流れと宇宙空間での時間の流れが異なるという、相対性理論に基づいた構成になっています。

関連記事:難解なんて言わせない日本一わかりやすい!映画「インターステラー」あらすじ解説

ということで、映画「オッペンハイマー」について書いていきます。

映画「オッペンハイマー」あらすじ

この映画のあらすじは以下です。

第2次世界大戦下。アメリカで「マンハッタン計画」が極秘裏に立ちあげられる。参加した天才科学者J・R・オッペンハイマーは、優秀な科学者を率いて、原子爆弾の開発に成功する。しかし、投下された原子爆弾が引き起こした惨状を知った彼は、深い苦悩を抱える。

世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記映画。

2006年ピュリッツァー賞を受賞したノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」をベースに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤が描かれています。

監督は、クリストファー・ノーラン。難解とも言われる本作ですが、大枠として以下のことを理解していれば大丈夫です。

①原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」のリーダーとして原爆開発に携わる。
②原爆が実際に戦地で使用され、日本は降伏宣言。「原爆の父」として称賛される。
③英雄とされる中、「実はソ連のスパイなんじゃね?」と疑われる。
④公聴会で審議が問われ、自身のキャリアに大きな傷をつけることになる。

ざっとこんな感じです。

時系列通りに展開しない構成に頭が混乱すると思いますが、大枠を掴んでいれば流れは分かると思います。さらに楽しく鑑賞するには「マンハッタン計画」と「トリニティ実験」は理解しておきたいですね。

▼映画「オッペンハイマー」予告編はこちら


優秀な物理学者が集結「マンハッタン計画」

マンハッタン計画(Manhattan Project)とは、1942年に始まった米国の核兵器開発計画。ナチ党支配下のドイツよりも先に原子爆弾を開発し、打ち負かすことが目標でした。

アメリカの超エリート物理学者たちが起用され、わずか3年という期間で実際に使用できる核兵器の開発に成功しました。

「マンハッタン計画」の名前の由来ですが、本部がニューヨーク・マンハッタンにあったからです。作業の中心は、ニューメキシコ州のロスアラモス荒地に建設された研究所ですが、一般に軍が工区名をつける際のやり方にならって「Manhattan Project」と命名されました。

「マンハッタン計画」の真の主導者はアインシュタイン!?

ちょっとした豆知識です。

映画の中でも登場するアインシュタイン。広島と長崎への原爆投下を知って後悔の念を抱いていたのは有名な話。1949年に、プリンストン高等研究所に招かれた湯川秀樹の両手を握り締め、泣きながらこう言ったんだとか。

「原爆で罪のない人たちを傷つけてしまった。どうか許して欲しい」

アインシュタインは直接的には「マンハッタン計画」に関わってはいません。しかし、1939年ルーズベルト大統領に宛てた原爆開発に関する手紙に署名をしたことで、マンハッタン計画は始まったのです。

アインシュタインは当時有名な科学者だったので、この手紙に記名することでアメリカ政府が「これは早急に対応しなければ!」となったんですね。

成功したのが地獄の始まり「トリニティ実験」

1945年7月16日、米ニューメキシコ州の砂漠にあるトリニティ実験場で、地球上で初めての核爆弾の実験が行われました。

実験対象となったのは、プルトニウム型原子爆弾で、のちに日本の長崎市に投下された「ファットマン」と同型の爆弾。優秀な科学者とエンジニアたちで開発された最初の原子爆弾は「ガジェット」と呼ばれました。

ガジェット:長崎市に投下された原子爆弾「ファットマン」と同様の構造をしているが、ファットマンのように空中からの投下ではなく、鉄塔の上に備え付けられた状態で爆発する。

トリニティ実験の成功は、世界を「核の時代」に導いただけではなく、日本の広島と長崎に原子爆弾を落とし、太平洋戦争の早期終結をもたらしたとされています。

日本公開前に大批判が起きた理由

少し映画の内容とズレますが、とても大切なことなので書きます。

2023年7月21日に米国で公開された「OPPENHEIMER/オッペンハイマー」は、実在の人物を描いた伝記映画として歴代No.1を獲得。

全世界での興行収入は9億1200万ドルで、日本でも大ヒットした2018年公開映画「ボヘミアンラプソティ」(9億1000万ドル)を超えるものでした。

米国以外の多くの国で公開されたにも関わらず、日本では大批判が起き公開が延期されていました、それは何故か・・・?

日本を小馬鹿にしたオマージュ「バーベンハイマー」

Xよりスクリーンショット

一時期、テレビのワイドショーでも連日取り上げられていたので記憶に残っている人もいるかと思います。

全米で同日公開された「バービー」の画像を組み合わせた「バーベンーハイマー」というネットミームが流行しました。

ミームとは、面白い画像や動画が拡散されていく文化のこと

原爆を象徴するキノコ雲や爆風を背景にバービーが笑っている画像が拡散。被爆者である日本人からすると決して良い気分ではありません。

さらにこのミームに、映画「バービー」の公式アカウントが“忘れられない夏になりそう”とハート絵文字を付けて返信。「バーベンハイマー」を後押しするような反応を示したことで、批判が殺到する事態となりました。

Xよりスクリーンショット

配信元のワーナー・ブラザーズは謝罪声明を出し、関連する投稿を削除。日本における映画のイメージは大暴落し「オッペンハイマー」の日本公開が遠ざかりました。

原爆の捉え方の違い

先程、トリニティ実験の成功は、太平洋戦争の早期終結をもたらしたと書きました。

アメリカと日本では、原爆に対する捉え方が大きく異なります。米国人にとって、原爆は「大変な被害を生んだ恐ろしいもの」ではなく「戦争終結を早めた正しい判断だった」との認識が広く共有されてきた背景もあります。

ちなみに、第二次世界大戦中に米国の陸軍長官を務めたヘンリー・スティムソンの言葉がその全てを表しています。

原爆投下は戦争終結を早めた。日本で本土決戦をしていたら100万人の米国兵が死傷しただろう、それを防ぐことができた。

この認識は現代でもなお米国で広く共有されているそうです。

あとは、広島と長崎への原爆投下による被害状況を伝えるシーンがないのも批判要因の1つだと考えます。本作は、原爆の父として知られる理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた作品。

世界でも類をみない恐ろしい兵器を開発してしまった彼自身の苦悩は描かれるものの、20万人以上が死亡した原爆投下による被害状況は音声(セリフ)のみです。

スパイ容疑をかけられたオッペンハイマー

映画「オッペンハイマー」公式サイト

序盤の「マンハッタン計画」と同じくらい大事な後半の公聴会のシーン。

原爆投下によって日本は降伏。「原爆の父」と称されたオッペンハイマーですが、その後、米国政府から機密情報に近づくことを禁止されてしまいます。

英雄を追放するなんてとんでもない仕打ちです。

しかし、なぜそんなことが起きたのでしょうか・・・それはソ連のスパイで共産主義者であるというレッテルを貼られたからです。

第二次世界大戦後の「赤狩り」

冷戦初期のアメリカでは、共産党員および同調者とみられる人々を排除する赤狩りという動きが活発になりました。

オッペンハイマー自身、共産党員ではなかったのですが、身内に該当する人物がいることもあり排除される一人となりました。非公開の公聴会でありとあらゆることを聞かれるんですね。

全く関係のないプライベートなことまで根掘り葉掘り。アメリカの英雄をこんなにも非難するのか、何か裏があるのではないかと思った方は勘が良い。そこにはとんでもない人物が関わっていたのです。

オッペンハイマーの敵!ルイス・ストローズ

映画「オッペンハイマー」公式サイト

オッペンハイマーへ敵意むき出し、それがルイス・ストローズ。

米国の政治家。プリンストン高等学術研究所長を経て1946〜50年にかけて米国政府原子力委員、53〜58年同委員長を務める。積極的な水爆論者。

映画冒頭からオッペンハイマーVSルイス・ストローズの構図は変わりません。オッペンハイマー目線はカラー描写、ストローズ目線はモノクロで描かれます。

本作において第二の主人公といわれるルイス・ストローズ。実は、公聴会を仕掛けた重要人物でもあります。オッペンハイマーを英雄の座から引きずり下ろしてやろうと企んでいたんですね。

ストローズ目線の描写はほぼ、オッペンハイマーへの個人的な嫉妬で埋め尽くされています。最終的にどうなったのかは映画を観てのお楽しみ!

映画「オッペンハイマー」:核に守られる現代人

細かいことを書き出すと止まらないので、そろそろまとめに入ります。

本作は、単純に原爆って危険だよねって話ではなくて、なぜ彼らが核爆弾の開発をしなければならなかったのか、それを成功させる意義は何なのか、を伝えたものでもあります。

日本は被爆国なので、そんな状況なんて知らない!どうでもいい!と思うかもしれませんが、現代でも核開発が水面下で行われていることを考えると他人事には出来ません。

囚人のジレンマと核

核をめぐる対立構造を説明する際に「囚人のジレンマ」というモデルが用いられることがあります。ちょっと面白い話なので書かせてください。

核兵器の削減が難航する理由がわかると思います。

例えば、世界全体の利益(幸福)を優先させた場合、「軍縮」を選択することが最も望ましいと考えられます。しかし、自国の利益を優先させた場合は「軍拡」を選択する方が得です。

ここでいう囚人のジレンマとは、お互いを信頼し合えない状態で、各国が自国の利益を最優先し合理的に行動した結果、互いに望ましくない選択になってしまうという状況。

現在世界は微妙なバランスで平和を保っていると捉えます。もし、どこかの国が大暴れした場合、全体の利益より自国の利益を最優先した場合、とんでもない核戦争が起こるのは安易に想像が出来るでしょう。

視聴するなら映画館でIMAXがおすすめ!

映画「 #オッペンハイマー 」IMAXで鑑賞
約3時間の作品ですが、あっという間。音の演出がとにかく凄くて、地響きというか“恐怖“が心臓にダイレクトに伝わる。心臓が悪い人は要注意です
作品としては星4.5。難解とも言われますが、大枠を理解すればしっかり楽しめます!体感するにはIMAX推奨です

2500円払ってでも映画館で観る価値アリです!やっぱり映画館とVODでは迫力が違いますからね。☆4.5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?