見出し画像

離島のお産~新型コロナがもたらしたもの~

友人が7月末に、第3子を自宅で出産した。
3人目もとても安産で、母子共に健康、産後の経過も良好なよう。
一昨日、産後3週間経って床上げを迎えた彼女と会った。
彼女は会うなり、
「あゆみ~!!!あゆみに話したいことがあるの~!!!!」
と大興奮で話し始めた。

「病院がね!あの先生がね!自宅で産むのをOKしてくれたんだよ!!!
しかも、病院をいいように利用してね、って言ってくれたんだよ~!!!!」


それを聞いた瞬間、長男妊娠中に、その先生から言われた言葉を思い出した。
「家で産もうと思ってます」
と、私が言った時、その先生の表情は突然厳しくなり、
「こんな貧血気味なのに、ちゃんと産めるわけないじゃないの」
と冷たく言った。
初めての妊娠で右も左も分からず、とてもナイーブになっている時に言われたその言葉は、私を傷つけ、不安にした。

屋久島は助産院がないため、島内で産むには唯一産婦人科があるその病院しか選択肢がない。
あとは、里帰り出産するか、鹿児島市内の病院や助産院で産むか、いずれにしても島を出なければならない。
もし、島内の病院ではどうにもならない状況になった場合は、ヘリで鹿児島市内の病院に搬送される。

そんな島の状況の中、病院は、出張で助産師さんがお産の介助に行くことを認めていなかった。
病院が提携してくれなければ、助産師さんは何もすることができない。
中には、妊婦さんのことが心配で、「お産中に何か心配なことがあったらいつでも電話してきてね」と言ってくれる助産師さんもいたけれど、それは仕事ではなく、完全プライベートだった。
だから、私はこっそりと家で産み、「病院に行こうと思ったけど間に合いませんでした~」と嘘をつくしかなかった。


そんな病院が、自宅出産を認めた。

屋久島はその友人だけでなく、どんなお産がしたいか、誰とどこで産みたいか、を考えている妊婦さんがたくさんいる。
その想いが、病院の先生の気持ちを変えたのかもしれない。

ただ、町は「自宅出産をしないでください」という趣旨の通知文を妊婦さんに出していたので、今回のことも町の反応が気になった。
すると、

町は、この度の新型コロナの感染拡大を受け、島内の病院での家族の立合い出産の難しさや、密な高速船や飛行機に乗って島外に行くことのリスクを避けるため、自宅で産む場合は、万が一のことがあったらすぐに対応できるように、
 消防署に連絡すること(救急車の出動準備)
 病院に連絡すること
 保健所に連絡すること
をその友人に伝えたという。
そして実際に陣痛が来た時点で、旦那さんがそれらの場所に連絡して待機してもらい、お産が終わったらまた連絡して、無事を伝えたらしい。
その時、消防署も病院も保健所も、
「よかったですね~!!おめでとうございます!!!」
と無事を祝ってくれたという。

もう、それを聞いて嬉しすぎて、友人と抱き合って涙した。

友人家族が想うお産を、病院も町も応援し、祝福してくれたことが、嬉しくて嬉しくて。
泣きながら、
「私は病院や町の反対には負けないわ!そんなことでこの想いは変わらない!と気を張ってたけど、本当は私もみんなに応援されて祝福された中で産みたかったんだなぁ~」
と、自分の気持ちにも気付いて、さらに泣いた。


新型コロナにより、風邪症状のある妊婦さんが病院をたらい回しにされたり、立合いや面会ができず、1人で心細い中、産前産後を過ごす妊婦さんの話を耳にする。
マタニティライフ、子どもが誕生するという、本来とても幸せなことが当たり前に叶わない。
妊娠出産を経験した者として、その状況を想うだけで胸が痛い。

そんな中で、今回の屋久島の変化はとても意味があると思う。
そこには、新型コロナが背景にあることは事実だが、この事例がスタンダードになっていけば、コロナが落ち着いた後でも、島の女性たちの選択肢が増え、想いが伝えやすくなり、子どもを産み育てることがより幸せで楽しいものになる。


想いを貫くこと。伝えていくこと。
その時はたった1人だったとしても、素敵なこと、幸せなことは、人に伝わってゆっくりでも広がっていく。
そして、何かをきっかけに、大きな変化となる。 



友人の幸せなお産に祝福と感謝を込めて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?