わたしの大恋愛 奇跡は起きる、編
聞いてしまったことを封印して数ヶ月、私たちは以前と変わらず過ごしていた。そんなある日、いつもどおりの時間にやってきた家庭教師だったが、明らかに様子がおかしかった。
「ずーーん」というオノマトペが透けて見えた。この世の終わり、お先真っ暗、世界中の不幸をひとりで背負っているみたいだった。これはもう、聞かずにはいられなかった。
「先生、どうしたの?」
ちょっと迷った様子だったが、彼は口を開いた。
「彼女に振られた」
!!!!!
喜んではいけない。彼のこの落ち込みようの前で、喜ぶなんて絶対してはいけない。でも、でも、
『やったーーー!!』
わたしは心の中で叫んだ。
それから、何を話したかよく覚えていない。詳しい経緯は聞かず、ひたすらなぐさめた気がする。そして、いましかないと覚悟を決めて、告白するタイミングを図った。
そして、「俺のことなんか誰も好きになってくれない」みたいなことを彼が言ったときに、全集中の勇気を振り絞って伝えた。
「そんなことない、わたし、すきだよ」
その短い言葉が、わたしの精一杯だった。驚いているのか、迷っているのか、喜んでいるのか、彼の表情からは読み取れなかった。
そして次の瞬間、隣に座っていたわたしを抱きしめた。時が止まった。ずっとそのまま、止まっていればいいと思った。どれくらいそうしていたかわからない。わたしの体を離して、彼は自分に言い聞かせるように「いかん、生徒だ、生徒だ。」とつぶやいた。
だめだ、ここで押さないと、もうチャンスはない!わたしは、生徒じゃなくなればいい?と聞いた。この時は高3の9月だった。わたしは指定校推薦をもらう予定だったので、うまくいけば11月には進学先が決まるのだ。
その日、彼はちょっと考えさせてほしいといって帰っていった。そして2日後、彼から「お願いします」というメールが届いた。一方的な片思いで始まった恋は、3年の月日を経て、こうして実ったのだ。
奇跡って、こういうこと。
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