やっちゃいけないことを全力でやってみた結果
ご縁があって、「己書」なるものを習ってきた。「己書」、なにそれ??という方が多いかと思う。
筆ペンを使って、一定のルールに則って文字を崩して書く、文字のようなイラストのような。ハンズに額に入れて売ってそうなやつ!というとピンと来るだろうか(笑)
わたしは小学校1年生から結婚して引っ越すまで、お習字を習っていた。はじめに付いたのは日展の審査員をしていた地元では有名な先生で、目をかけてとてもよくしていただいた。しかし、残念ながらわたしが中学生のときに亡くなった。それからは、書道界では名門のお宅の、若先生に教わっていた。そんな具合で先生に恵まれたおかげで、お習字の王道をガチガチに仕込んでいただいた。
そんなわたしは、今回己書と出会って非常に困惑することになった。なぜならお習字では絶対にやってはいけないとされていることが、己書ではやり放題、むしろ推奨されているのだ。
書き順無視、二重書き上等、毛先の流れと反対方向に筆を運んで毛先がバサバサ。
やれと言われるのでやってみたが、もう、心が痛んで痛んで仕方なかった。いじめっこに無理やり赤信号の横断歩道を渡れと言われるいじめられっ子の気分だった。
が、しばらくする気持ちに変化が訪れる。お習字のルール無視で自由に筆を運ぶことが、楽しくなってきたのだ。
長年禁じられてきたことを、一切の負い目なく堂々とやれるというのは、なんと清々しいのだろう。禁忌を破る背徳感というのだろうか。殻を1つ破れたような気がした。
ふと、長女のことを思い出した。長女の保育園では夏に『どろんこ遊び』がある。普段砂場で遊ぶ時は服を汚さないように気をつけているが、このときばかりは汚れてもいいシャツとパンツで、頭のてっぺんからつま先までドロドロになって遊ぶ。園の掲示板にスナップ写真が掲示されるのだが、みんな本当に楽しそうな、いい顔をしている。これもひとつの、禁忌を破る背徳感だろう。
わたしに新しい世界を教えてくれた己書の魅力に、ハマりそうだ。とはいえ、愛弟子の奇行に、先生が草葉の陰で泣いているといけないので、本来のお習字も忘れないように精進しよう。己書、お習字、それぞれに固有の楽しさがあるのだ。
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