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ときどきやってくる、かぞくの荒波をのりこえるために。

ひと月ほど前。かぞくかいぎを研究しているライターのたまいこやすこさんのzine「かぞくとうまく話せない」が届いた朝、夫と久しぶりに大げんかをして、ぺしゃんこな気持ちでzineを読み、ほろほろと涙をながした。

ちょうど雑誌の特集でも、夫婦の取材をしていた頃で、お互いへの思いやりや信頼あふれるカップルの話を聞く日々。自分には何かが足りないように感じていたのだ。

「違いにばかり目を向けていると、日常生活にも支障が出てしまう。ほうっておくと、二人の違いはどんどん大きくなって…」というzineの一節を読みながら、どきりとした。

わたしと夫も、まわりからは雰囲気が似ている、と言われたりもするけど、それはそれは、性格も趣味も、考えかたも、余暇の過ごし方も、育った家庭環境もぜんぜん違う。

夫とは28歳の頃、旅先のフィンランドで出会ったのだけど、あの時にあの町でたまたま出会わなければ、ふたりの人生が交わることはなかっただろうなと、ほんとうに思う。

だから、人生って素敵だ。

わたしは何も予定がない日に、わくわくする。
「さて、今日は何をしようかな」と思って、コーヒーを豆から挽いて淹れてソファでくつろいだり、海まで散歩に行ったり、読みかけの本をもって近くのカフェに行ったり、思いたってお菓子を焼いたり、昼間から料理をしたり、映画館や美術館にいったりする。

子どもができてからは、そんな空白の一日みたいな過ごし方はなかなかできないけれど、そんな風に、思いのまま、気ままに過ごす時間がけっこう好きだ。

かたや、夫くん。
立ち止まったら死ぬと思っているんじゃないかというほど、じっとしていられない。休みの日も、つねに動きつづけている。自然が好きで、からだを動かすことが好き。

もともとは山が好きで、キャンプや登山は本格的。小中高大はバスケ。鎌倉に住み始めてからサーフィンも始めた。テニス、ゴルフ、スノボ、自転車など、ひととおりやって、マラソンもする。いつかトライアスロンにも出たいらしい。

けど、アウトドアだけかと言われると、そうでもなくて、ジャズが好きでサックスを毎週習いに行っているし、とにかく多趣味で凝り性だ。

親のタイプも正反対。
わたしは、バリバリの編集者の母親と、家で物書きをする父親、3つ上の姉、という共働きの四人家族の末っ子でのんびり育った。

お父さんが夕ごはんを作ってくれたり、ときどきベビーシッターやお手伝いさんが来てくれるような家だった。いつも忙しい母に不満を感じながらも、歴代のベビーシッターのお姉さんとの時間も、けっこうゆかいな思い出がある。

夫の実家は、典型的な昭和の家族で、
サラリーマンのお父さんと専業主婦のお母さんと妹。お父さんは毎日夜遅くまで仕事で、家事と育児は奥さまよろしく。

義母は、転勤族の旦那さんと結婚するために好きだった勤め先をやめて、子どもが手離れした頃に、少しずつパートの仕事をはじめるような、いつでも家族のことを優先するひとだった。(だから、今でも、わたしたち家族はそんな義母のやさしさにとても助けられている)

そんな風に、見てきた親の背中が、まったく違うわたしたち。

もちろん相手の親と結婚するわけではないけれど、子どもができて、はじめて気づかされる夫婦の違いもたくさんあって、心の根っこの考えかたがどれだけ育った環境に影響されてきたかをこの数年間でしみじみと感じてきた。

そんなわけで、子どもがうまれてからは、何かとぶつかりがちなわたしたちだけれど、それでも、今でもときどき思い出す光景がある。

冬のおわりのフィンランドで初めて会ったとき、
「このひと、日本人っぽくないな」
と思ったのが、第一印象だった。

きっと出会ったのが外国だったからかもしれない。とてもていねいに、だけど恥ずかしそうでも、かしこまった感じでもなく、
「はじめまして、山田です」
と爽やかにあいさつをしてくれた。

お陽さまに向かって、まっすぐに大きくなったような健やかな人で、自分がいいと思うことを、自信をもって「いい」と言える人なのだ。

フリーランスの書き仕事をはじめたとき、誰より応援してくれたのは夫だったし、「あゆちゃんの世界観、ぼくはすごくおもしろいと思うよ」といつも恥ずかしげもなく言ってくれた。
(という話をすると、最近は「過去の栄光です~」とちょっと照れくさそうにするけれど)

子どもがどんなに愛らしくても、
子どもを育てるということは、やりたいことが多いわたしたちにとって、それはそれは大変なことで、どうにかお互いの仕事と、家事と育児をやりくりして、ようやくできることがある。

お互いに顔色をうかがいながら、相手の機嫌のいいときをねらって交渉しては、やりたいことをやるのだけど、さらにあれもやりたい、これもやりたいとなると、どうしても不満がふつふつとたまっていく。

そして、ときどき、虫の居どころが悪くって、本当にちいさな些細なことで、爆発してしまったりする。

ああ、またやっちゃった、なんでだろう、と思う。

感謝しているはずなのにな。

家事も育児も、ものすごく協力してくれていると思う。わたしよりもきれい好きで、掃除も上手で、ゴミ出しもしてくれるし、庭を大切に手入れしたり、家をきれいに保とうと色々してくれる。(見た目がひげもじゃなので意外がられるけれど、)とにかくきちんとしている。冬は暖炉の薪割りも夫のかかりだ。

子どもと遊ぶのもわたしより上手で、前もってお願いしておけば、ちびっこ怪獣ふたりの子守りを半日くらい任せることもできる。わたしが仕事で忙しいときには、子どもたちを動物園や水族館に遊びに連れ出してくれる、その体力は本当にすごいと思う。料理だって、男メシだけどなかなか美味しい。家族旅行にも行く。娘の自慢のパパなのだ。

そうそう。
感謝しているんだよ。

そんなわけで、大げんかになった後しばらくは夫の不機嫌がつづいて、どう接すればいいかわからずに観察していたら、ある日突然吹っ切れたように、いつもの夫に戻ったのだ。うーん、何だったんだろう。

きっとこれからもこの繰り返しで、たくさんケンカをしたり、むしゃくしゃすることも次々とやってくるんだろうと思うけど。

そんなときはまた、たまいこさんのzineを読み返したり、夫くんに感謝したり尊敬していることを思い出したり、子どもたちのかわいい写真を眺めたりしながら、「かっこいいくそじじぃとかわいいおばあちゃん」になるまで、まだまだしぶとくいっしょに生き延びていきたい。

大切だけど、時々ややこしい。かぞくひとりひとりとのエピソードを綴ったエッセイ



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