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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.15】エルテ「夜の女王」

今日の1枚はロマン・デ・ティルトフ、通称エルテの「夜の女王」
みなさんエルテってご存知ですか?わたし、魔法使いエルテのこと知って、ぞっこん惚れてしまいました。



エルテは、イラスト、オペラやバレエや映画の衣裳、舞台美術、ジュエリーやインテリアデザイン、彫刻など幅広い分野で活躍した20世紀のロシア人デザイナーです。
エルテという呼び名はイニシャルR.Tのフランス語の発音 [ɛʁ.te] から来ています。



エルテ、なんかいろいろ作ってたのはわかったけど何がそんなにすごいの?ってことですが、
何を隠そう、 アール・デコの寵児なんです。
私たちが今、アール・デコのデザインと認識しているものの多くは彼の美学を通して作られたと言っても過言ではありません。

当時の「VOGUE」の編集長ダイアナ・ヴリーランドは、「20世紀のファッションで、エルテほどの影響を与えた人物は他にいない」と褒めちぎっています。
しかし彼自身は自分の芸術がアール・デコというジャンルに括られることを好んではいません。
それもそのはず、彼は彼自身の「幻想」を一貫して形にしていただけで、結果的にそれがアール・デコと呼ばれただけなのですから。



さて、エルテがどういう人生を過ごしてきたか見ていきましょう。



幼い頃から美しいものが好きで、母や姉の香水瓶にお洋服を着せて遊んでいたそうです。尊い…。
ロシアと言えば20世紀初頭、ディアギレフ率いるバレエ・リュス(ロシアのバレエ団)の全盛期で、10代の彼も夢中になります。
しばらくしてバレエ・リュスはパリに本拠地を移し、一大ムーブメントを巻き起こします。
(ちなみに、わたしもニジンスキーが踊る「牧神の午後」の映像を大学の授業で見て、猛烈に心がときめいてからというもののバレエ・リュスが大っ好きです!!!)


エルテはダンサーやダンスに魅了されたのではなく、舞台が作り出す幻想世界や衣裳に心惹かれたのです。
(わかる、わかるよエルテ…!(興奮)



いてもたってもいられなくなったエルテは15歳の頃にバレエ・リュスを追いかけてパリに旅行に行くのですが、そこでファッションデザイナー、ポール・ポワレ(モード界の寵児)のつくるコルセットを使わないハイウエストのドレスやコクーン型のキモノコートなど見たこともないエレガントなファッションに釘付けになります。



エルテは20歳になってついにベル・エポック真っ只中の華々しいパリへ行きます。最初に勤めたドレスメーカーでは才能を認めてもらえず解雇されてしまうのですが、エルテは意を決して憧れのポワレのメゾンにデザイン画を見せにいくのです…!ドキドキ



ポワレ「気に入った!」

ぱぁあぁぁあぁ゜*。・*゜ ヽ(*゚∀゚)ノ.・。*゜。



憧れのポワレのメゾンでモード画をひたすら描くことになるのですが、ここで悲しいお知らせ。第一次世界大戦が始まってしまいました。

ポワレのメゾンも閉業を余儀なくされ、エルテもこの時猩紅熱にかかってしまい、隔離のためにモンテカルロに引きこもるのですが、そこで彼は自分の理想世界を表現したファッションデザイン画をひたすら描き続けたのです。

仕上がった作品を試しに「ハーパーズ・バザー」誌に送ったところ、発行人のウィリアム・ランドル・ハーストが気にいったようで『10年間の独占契約を結びたい』と連絡が来ます。おいおい、すごすぎひんか。


 


終戦後、パリのフォリーベルジェール、ブロードウェイのジーグフェルドフォリーズなどで、夢だった舞台のコスチュームデザイナー、セットデザイナーとしてファンタジックでスペクタクルな数々のデザインを産み出します。

一時期ハリウッドのMGMにVIP待遇で引き抜かれ、エルテの唯一無二の夢みたいなデザインは大人気を博しますが、あまりにも商業的な環境で美しさを追及できる場所ではないと感じてパリに戻ります。

その後数々のオペラやミュージカルを中心に、ジュエリー、彫刻、インテリアと1990年に死去するまで、22,000点にも及ぶデザインを生み出しました。



さて、今回の1枚はモーツァルトのオペラ「魔笛」に出てくる夜の女王を描いた絵ですが、この月と星の頭飾り、最高では?

多くの画家は夜の女王を描く時は月に乗った形で描かれることが多いのですが、この切り口。椎名林檎様が似合いそうなお衣裳です。そしてこの大きすぎるベール。風になびきそうな軽さを感じさせるのも天才だし、4人の従者がアール・デコ特有の線対称(奥行きあり)に持ってこそ完成する夜の女王の威厳さみたいなのがエレガント過ぎる形で表されてて、これ、うっとりの極みじゃないですか?こんな場面普通思い付く?

ちなみに「魔笛」、出逢う前から恋したり、夜の女王情緒不安定過ぎたり、話が突っ込みどころ多すぎておもしろいオペラなので、良かったら何かの機会に見てみてください。




彼の作品を見ると、ロシアの図像、ビザンチンのモザイク、ギリシャの陶器、インドやエジプトのアートなど、エキゾチックな文化やさまざまな文化から影響を受けていることがわかりますが、それがエルテの美学やたぐいまれなトレンド感覚と合わさるとこうもファンタジックになるのか…と。

ちなみに彼の美学ですが、

・「徹底した非現実世界(妄想)だけにしか存在しない美を求める」

・「幻想は老化しない」

と言っています。はい、すき。




1920年代~のアール・デコについては映画「グレート・ギャツビー」をご覧ください。こういうファッションを大成させたのがエルテです。


ちなみに記憶に新しいメットガラのテーマが「CAMP」の時に、セリーヌ・ディオンがエルテの描いた女性をテーマにしたオスカーデラレンタのドレスを纏っているので、ぜひみてください。


というわけで、今回いつもと違う切り口でエルテのことを紹介しましたが、いかがでしたか?

19世紀末から20世紀初頭にかけて、同時代の「挿絵の黄金時代」で活躍したビアズリー、カイ・ニールセン、ジョルジュ・バルビエとはまた違ったフィールドで活躍したエルテですが、産業革命により印刷技術が発達したこの頃から「イラストレーション」というジャンルが台頭しファッションとも密接に繋がり始めたのも知っておきたいおもしろいポイントですよね。


個人的にはエルテのつくるものはもちろん、熱量溢れる人生そのものに大いに感銘を受けました。
さて、わたしもハーパーズバザーになにか送るとするか(違う)

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