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バイエルを使う理由

私のお教室でピアノを始めて習われる方にお渡ししている教材は「バイエル」をもとにしているものです。小さいお子さんには色で読譜を助けてくれるように編集されたもの、小学生中学年以上の方には、内容をぎゅっと凝縮したもの、大人の方へはいわゆるバイエル原典版に近いもの…
楽譜売り場に行くと、ざまざまな「バイエル」が出版されているので、それぞれの方に合ったものをお渡ししています。

ピアノの入門書として知られている「バイエル」は、フェルナント・バイエルという人物の名前です。1806年にドイツに生まれ 、仕立て屋のお父さんと教会のオルガニストのお母さんの家庭で育ち、12歳で神学校に進みました。そこで、教会音楽と出会い、才能が開花。作曲・演奏活動と同時に、ピアノ教師として生計をたて、大衆向けの楽譜をたくさん残しました。そんな彼が、44歳の時に出版したのが「バイエルピアノ教則本」です。出版直後から様々な言語に翻訳され、世界中でベストセラーになり、日本には明治時代に紹介されて以降、爆発的に普及していきました。

私が年中の頃使っていたバイエル
黄色バイエルは表紙がボロボロになりすぎて
カレンダーでカバーをしてあります

現在では、バイエルの使用率はかなり減ってきています。理由としては「ト音記号が長く、へ音記号になった時につまずく」「一定の調ばかりしか使用しない」「教材が古い」という意見が多いようです。他にもたくさんの教本が出版され、先生方の大切にされていることによって教材を選べるようになったことも要因となっているでしょう。

今の主流は、ミドルC、真ん中のドの音からスタートし、ト音記号「ドレミファソ」とヘ音記号「ドシラソファ」と世界広げていく形が多いように思います。楽器店で講師をしていた時も、ミドルCからのスタートでした。CDなどによる音源も付いていて、親しみやすく、初めてピアノに触れる子供達は楽しくスタートできます。しかし、2冊目・3冊目へと進んで行くと弾く音域が変わってきます。右手は、ト音記号の第3線と第4線の間のド・左手はヘ音記号の第2線と第3線の間のド。ここを中心に弾くことが多くなって、曲らしい曲を一人で弾く段階に入ってきます。ここまで弾けるようになる頃には、楽譜は読めるようになっているはずですが、それがなかなか難しいのです。真ん中のドからのドレミファソは読めても、上のド、下のドは毎回数えて行かないと読めない子がほとんどでした。

当時私は、楽器店と同時に今の教室で土曜日だけ、レッスンを行なっていました。ここでは今のようにバイエルを中心に使用していました。教材が違うだけで、基本的には同じようにレッスンをしていましたが、読譜の力が大きく違いました。

まず目線が違います。ミドルCからはじめる本では、楽曲を歌って覚え、弾く時は鍵盤と手の動きを見ながら弾きます。楽譜を読むという作業は、レッスン内で先生と曲を一緒に見る時だけになります。短い曲ですので、ほとんどの場合ここで覚えてしまいます。すると楽譜は、ピアノの上に置いてある景色となりそんなに見る必要がなくなってしまうのです。

一方、バイエルの教本は、小さい子用の色を使うものでも、色を読んで、それに対応した音を自分で鳴らして進めていきます。ドレドドレドレレなどはっきり言って全然面白くない音の羅列です。しかし、その時の目線は、どんな小さな子でも楽譜に向いています。自分で読んで、自分で弾いているのです。

そして、バイエルは右も左もト音記号で読譜が始まるので、読み方の違いの混乱をせず進めていくことができます。

自分で読めるということは、何かを学ぶ上でとても大きな力になります。
ひらがなが読めたら、自分で絵本を読みたくなります。街に出て何かが書いてあったら、「これは何?」と気になります。そして世界が景色ではなく意味のあるものとして認識できるようになります。楽譜も同じで読めると次が弾きたくなります。教本は、段階を追って進めていきますので、今やったものの少し難しいものが次のページに書いてあります。気になる子はどんどんどんどんと自分で先を読んで、弾いてきてくれます。産休直前にご入会してくださった小学校2年生の子は、読む力がしっかりあったので、産休中のオンラインレッスンで、1冊まるまる弾けるようになってしまいました。

そして、何よりも音楽として美しく、弾いていて楽しいものが多いように感じます。たった8小節・16小節の曲ですが、指の動きを体系的に獲得しながら、曲として美しいものに触れていけます。

私も多くの教材を使ってきましたが、読譜の力を伸ばすのに、このバイエルという教材はとても良いものだと考えています。保育士・幼稚園教諭・教職の資格取得のためのピアノの課題にも、このバイエルが採用されています。読譜力を伸ばしたい、昔やっていた…という方の学び直しにも最適な教材だと思っています。

そんな訳で、私はバイエルを使っています。

ピアノ上達のポイントは、楽譜をたくさん読んで、自分で弾いてみること。分からないところは、色を塗ったり小さくカタカナを振ったって構いません。あってても間違ってても構いません。自分で頑張ったことをレッスンで聞かせてください。バイエルが最後まで終わった子は、学校での合唱伴奏を弾いたり、クラシックの名曲たちを弾く力がしっかり付いています。バンバンバイエルシリーズは、6巻まであります。

始めたばかりの子には高ーい山のように思えますが、何事もpoco a pocoです。

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