与謝野晶子訳『源氏物語』 三 空蝉 ~私流 源氏物語の読み方~
さて、空蝉である。
「私流」などと格好のいいことを言ってはいるが、ようするにただ勝手に読んで勝手に書いた感想にすぎない。
空蝉とは、前回『二 帚木』で源氏が夜這いに失敗した相手の女性のことを指す。彼女の名前であるのかどうかは知らない。多分、名前ではないような気がする。そもそも、源氏物語では人名が出てくることはほとんどなくて、場所や館や階級や職種だけで人物を特定することが多い。「空蝉」という表現は、この帖で源氏が読んだ歌に初めて登場する。
空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな
意味はわからん。
勝手に解釈すると「蝉が木を蹴って別の木に移っても、元の木には蝉がいた懐かしさが残っている」という感じか。翻って、空蝉がどれだけ自分のもとから去ろうとも、手の中には空蝉の懐かしさが残っている。そんなところだろうか(適当)。
第三帖の空蝉は、第二帖の帚木ほど長くはない。三分の一くらいか。
最初の夜這いは女に頑なに拒まれ、二度目は端からうかがうだけで会うこともかなわない。朝が来て源氏は言伝てさえもせず、紀伊守宅から帰っていった。
美形の皇子であるのだもの、そりゃあ、ちやほやされたでしょう。その源氏を拒み続けたのが空蝉なんである。彼女ももちろん源氏を憎からず思っているのだが、いかんせん人妻である。彼女の理性は源氏を拒んだ。それでもなお、まだ諦めきれない源氏は小君にこう言う。
え!
まだやるん!?
もはやストーカー・・・は、言い過ぎか。
そんな源氏にチャンスが訪れる。なんと、紀伊守宅の主が任地に赴き、屋敷は女だけになるというのだ。源氏は再び小君に案内させる。子供であることに不安はあるものの、慎重にやっている場合ではない。ところが、なんとしたことか、またも客があるのである。他ならぬ紀伊守の妹、空蝉にとっては継子にあたる娘が碁をうちに打ちに来ているのである。派手で蓮っ葉でだらしないその少女に、源氏はというと、そう、そうです。
やっぱり。皇子である源氏は、こんなだらしない女性を目にしたのは初めてであり好奇心が勝ったのかもしれない。とは言うものの、本命は空蝉。
それはともかく、小君とのこの会話がイマイチわからない。
最初のセリフは小君。源氏がそれに答えている。
『今晩のうちに帰す』というのは、誰を帰すのか。話の流れからは、蓮っ葉少女を帰すように聞こえる。でも、少女をさっさと帰すのならむしろ夜這いはしやすいはずだ。むしろありがたいのではないか。それなのに『逢えなくてはつまらない』と続くのは何故だろう。
そこら辺りがよくわからなくて、ちょっと別訳をみてみた。
なるほど。『帰す』のは源氏か。空蝉に会えぬまま帰らなければならないのかと、憂いているわけだ。
ちなみに『私がよくいたします』というのは、
「もはや姉がうんというとも思えなくなったので、姉には断らずに源氏を姉の寝室に送り込もう」
という、そういうことなんである。まぁ、なんとも。
夜半。
部屋に忍び入るのは源氏である。女はよく眠っていた。幸い一人だ。女が被っていた着物をよけて寄り添ってみる。女は大きいように感じる。あまりによく眠っていることに、ようやく不審に思った。空蝉ではなかった。蓮っ葉少女だったのである。なんと! あろうことか、夜這いに人違いである。ようやく少女も目を覚ます。少女はじっと源氏をみる。慌てることもない。なんだか、Boy meets Girl といった感じだ。夜這いで Boy meets Girl というのもどうかとは思うが(勝手解釈)。
ここで簡単に「人違い」と言ったが、実は少し違う。
ちょっと時間を巻き戻してみる。
・・・(巻き戻し中)・・・
皆が寝静まろうとしていたころ・・・。
屈託ない話をしていた少女はそのまま空蝉の部屋で寝てしまった。一方、空蝉は眠れない。源氏のことが気になって最近は眠りが浅い。そんな風に煩悶しているところに衣擦れの音がする。それだけではない。薫物の香が流れてきた。空蝉は察した。そして・・・。
そう。源氏が入ってきたのを察して空蝉は部屋を出ていったのである。空蝉の方が一枚上手とでも言おうか。その部屋に残ったのは蓮っ葉少女だけである。蓮っ葉少女を夜這いすることになってしまった源氏。さあ、どうする?
空蝉があれだけ世間をはばかって源氏を避けたのだから、たとえそれが失敗に終わったのだとしても、源氏が夜這いをしていたと知れるのはよくない。そう考えたようだ。「おや、人違いでした」などと言って去って行こうものなら、「人違い? では誰と? は! まさか継母と!?」などとなって父である紀伊守に注進に及ばれでもしたら空蝉は困った立場に追い込まれるだろう。それだけは避けようとしたのだ。それくらいの気がまわらないようでは色男として失格である。それで、「実はあなたに逢いたくて忍び寄った」と、こう告げた。
「安っぽい浮気男の口ぶり」というのがなんだか可笑しいが、最後に「この秘密を誰にも知られないように」と言い置いて源氏は部屋から立ち去った。その時。源氏は恋人がさっき脱いで行ったらしい一枚の薄衣を手に持って出たのである。
そうして源氏は失意のうちに二条院に帰った。
二条院? ってどこ?
で、調べてみたら実母桐壺の実家なのだそうである。
ややこしいなぁ。普段どこにいて、どこに通っているのか、よくわからん。
基本は二条院で生活して、
仕事で御所に通い、
たまに妻のいる左大臣家に行く。
そんな感じなんかな。
そして、まぁ。小君にねちねちと小言をいいつつ愚痴りつつし、持って帰った薄衣を抱いて寝たのであった。
再び小君が姉のところに行った時には姉からも小言を言われ、あっちからもこっちからも小言を言われ通しの、かわいそうな小君なのであった。
了
前回の「二 帚木」はこちら~。
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