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映画感想#47 「インヒアレント・ヴァイス」(2014年)

原題 Inherent Vice
監督・脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロ 他
2014年 アメリカ 149分


ビッグな陰謀と元カノとの末路はいかに

1970年代アメリカ。ある不動産王の男の「黄金の牙」にまつわる陰謀を暴いていく、ヒッピー探偵のお話。彼と周りのちょっと風変わりな人物たちの、"ぶっ飛んだ"ストーリーです。

ヒッピーな登場人物の独特のファッションと自由な生き方が、なんだか憎めない。
全体的にクスリとか使ってるのにジャンキーが雰囲気がしないのは、軽やかな音楽のせいか、35ミリフイルムで撮影されたこの美しい映像のせいか。

主人公の私立探偵ドックを演じるのはホアキン・フェニックス。
ベニチオ・デル・トロやジョシュ・ブローリン、リース・ウィザースプーンなど存在感抜群の脇固め。そしてオーウェン・ウィルソンという飛び道具を使いつつ、フレッシュなキャサリン・ウォーターストンを持ってくるあたり、キャスト陣を見るだけでもワクワクします。

日本人として突っ込みたくなるのは、ジョシュ・ブローリン演じるビッグフット(LA市警部補)の「もっと、パンケーキ!」という日本語のセリフ。そしてBGMは「上を向いて歩こう」。この辺り、急な日本語に戸惑いつつも、哀愁を醸し出す演出が面白かった。

ブローリンの角刈り!

さて正直、話はかなり難解です。登場人物が多すぎて、誰が誰だか覚えられません。後半になってやっと、「ああ…この人がさっきのあれか…」とわかってくる部分もあるくらい。不動産王が企んでいたのは、なんだか大規模な麻薬関係の取引だったみたいです。
しかし映像やキャラクターの面白さゆえ、149分と長い映画ではありますが、飽きることはありませんでした。

(この映画をひとことで説明するとー)
なんとも説明がつかないんだ。何を語っているのか特定するのが難しい。第一、四六時中ラリってるやつの視点から見た映画なんだからわからないよ(笑)"黄金の牙"という迷路を突き進む話であり、そこで繰り広げられる様々な人間関係を見せる映画だとも思う。

「インヒアレント・ヴァイス」パンフレット
P38   ホアキン・フェニックスのコメントより

ホアキンもこのように言っているので、理解するのはまあ結構大変だということがわかりますね。


原題「Inherent Vice」の意味

「インヒアレント・ヴァイス」=内在する欠陥。
ドックの元恋人シャスタ(キャサリン・ウォーターストン)は、不動産王ミッキー・ウルフマンに捨てられた後、「私は"貴重な積荷"。"内在する欠陥"により保険を掛けられないって」とドックに言い、去っていく。

シャスタ、魔性の女?

インヒアレント・ヴァイス 内在する欠陥
海上保険用語のひとつ。
生まれながらの性質として変えられない欠陥により、どうしても避けられない損害のこと。例えば、卵は割れる。国家は腐敗する。
それらを原因とした事故への補償は免除される。

「インヒアレント・ヴァイス」パンフレット P1より

シャスタは「誰もが認める最高の女」と言われるほどの人物です。内在する欠陥とは、きっと良い女が持つ抗えない魅力のようなもので、だからこそミッキー・ウルフマンは一緒にはいられないと判断したのでしょうか。
と、こんな解釈はロマンチックすぎますか。

何度か見ればもっと理解できるはず。
とりあえずもう1回見たい!またドックに会いたい!
パンフレットもかわいいです。ついつい買ってしまう。

古本のような風合い

☆鑑賞日 2015年5月21日


余談①〜キャサリン・ウォーターストンの原点〜

キャサリン・ウォーターストンを見たのはこの時が初めてでした。シャスタ役の女優さんかわいいなあと思っていたら、そのうち「ファンスタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(2016年/デビッド・イェーツ)でヒロイン・ティナ役に!ショートの黒髪に、キャリアウーマン風の設定。シャスタのイメージが強すぎて、勝手に違和感を覚えてしまいました。
その後見たのは「mid90s」(2018年/ジョナ・ヒル)。今は落ち着いているけど昔は結構遊んでいた母親という設定で、この「インヒアレント・ヴァイス」のシャスタの過去を繋げてしまったほど。めちゃくちゃ偏見ですが、キャサリン・ウォーターストンは、はすっぱな女の役が好きです。

余談②〜1970年代アメリカの空気感〜

ロング・グッドバイ」(1973年/ロバート・アルトマン)を見た時に、本作の空気感を思い出しました。主人公が探偵という点は確かに共通していますが、ストーリー的に似通った点はそこまでない。探偵マーロウはもちろんヤク中なんかではないし。
調べてみると、1970年代のアメリカという時代設定が同じでした。
翳りが見えはじめ、人々の格差や不安が見え隠れするような時代のアメリカ。そんな薄暗い雰囲気を、この2つの映画では感じることができるかもしれません。

・・・調査を進めるドックは、やがて1960年代と70年代の隙間に突き落とされる。そこは、アメリカが掲げる理想主義と、無秩序に拡大してゆく消費社会との狭間にある時代だった。・・・
・・・ポール・トーマス・アンダーソンは言う。「あの時代、アメリカが約束したことに対して人々が寄せた期待は、搾取され冒涜されていたようなものだった。そして、これこそがトマス・ピンチョンの作品の変わりなきテーマだった。この映画をつくりながら、僕はアメリカの行く末に対するピンチョンの懸念を代弁しようと思ったんだ」

「インヒアレント・ヴァイス」パンフレット
P34 PRODUCTION NOTES
A NOTE ON THE TIMES  時代の考察より

▼同じくポール・トーマス・アンダーソン監督:「ザ・マスター」はこちら。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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