8.みすみす逃すミス
ワタクシ、本当にどうしようもないミスをしたわけです。
聞いてくれますか?
・指を咥え待つ
5月29日。
パリからミラノに舞い戻ってまいりまして、マネージャーに連絡いたしました。
「ミラノに帰ってきたから、キャスティングあったら呼んでくれ!!」
マネージャーからは、
「OK!すぐあると思うからまた連絡するね」
そう返ってきたものの、次の日もその次の日もキャスティングは無く、
まぁそもそもに、そうそう沢山あるモノではありませんから、適当に毎日暇を潰していたわけであります。
そう。
そもそも沢山ない。
呼ばれるだけありがたい。
そのくらいなんです。
モデルという職業は、言うなれば
“待ちのお仕事”らしく、キャスティングが無ければ、ただただ待つしか無いわけです。
日本だったらバイトでもして、少しでもお金を貯めることに注力するのですが、
この国(今はイタリア)でそんな事は出来ず、
本当に指を咥え、時間が過ぎるのを待つ。
そんな日々を過ごすしかないわけです。
少しでもプラスになる事をしよう。
そう思い、美術館に行ったり、古着を見たり、本を読んだり、イタリア語を勉強したりしておりました。
イタリアに戻ってきてから3日目。
この日は「アルマーニ博物館に行こう」
そう決めておりましたから、朝からワクワクしていたわけです。
そんなワタクシに1件のメールが届きます。
「5/31 16:30〜 どこどこで マガジンのオーディション」
・待ちからの解放
ついに来たか、キャスティングが。
ワタクシ心躍らせておりました。
内容をよく見ると、”call back” と書いてあるではありませんか。
つまりは、書類選考的なものを通過した、お仕事にすることが出来る可能性の高いオーディションであるという事です。
更には、ルームメイト君も同じ事務所、同じ坊主(正確にはワタクシはスキンヘッドでありますが。)なので、同じキャスティングに行かされる事が多くあるものの、呼ばれていない訳です。
コレは来たぞ。
ここから推測するに、ワタクシにオファーがあった可能性が高いわけです。
明日、気合い入れていくぞ。
そう思い、渾身のパスタを作り(ワタクシが思うに自身最高傑作)、少し高級感のある服(絶対関係ないがアルマーニ先生に失礼の無い格好)に着替え、博物館へ向けて出発いたしました。
もう気がつく方もいらっしゃるかもしれませんが、このままワタクシのアホな言動に少々お付き合いくださいませ。
・足取りは軽く
明日のキャスティングの前に、
美しいものを見れてよかった。
そう思いました。
その博物館に展示されているマネキンには、首や頭や足は無いのですが、それが妙に美しいんです。
服も芸術作品であり、モデルが着て歩く美しさとはまた別の美しさに、ほとほと感動しておりました。
流れる昔のCM、コレクションの映像達の中に、”アルマーニ40周年”のコレクション映像が流れてました。
そこに映っていたものは、
参加する全員の、アルマーニに対してのリスペクトを感じ、全員で良いものを作ろうと、最善を、全力を尽くしている。
そんな感じの舞台裏の映像で、
それを座って眺めていたワタクシは、自然と涙を流してしまうくらい、その博物館に浸っておりました。
もう17時半か。
そろそろルームメイト君が腹を空かせるくらいだろう。(ワタクシがルームメイトのシェフなんです)
そう思い、席を立ち、その博物館を出ました。
大変に満足して、明日も頑張ろう!そう思いました。
・明日に向けて
ルームメイト君と一緒にスーパーで食料を買い足し、またパスタを作り、サラダを食べ、その日は明日のためにと21時くらいには寝ました。
別に明日のキャスティングは16時半ですから、そんなに早く寝なくてもいいのですが、
これから規則正しい生活をしようと思い立ち、早めに寝たわけです。
その日は、夜も暑い日で、
そもそもに眠くないのに寝ようとしていたため眠りは浅く、23時くらいに、
「暑いわぁ。」
そう、まだ起きていたルームメイトに話しかけ、起きてしまいました。
その時トイレをして、後にタバコを一本吸った事が、半睡眠状態の眠気を何処か彼方へぶっ飛ばし、覚醒してしまうわけです。
もう寝れなくなってしまったワタクシは、RPGのゲームを進めたり、母国日本はもう朝ですので、友人達に連絡を返したりとしておりました。
その流れでInstagramのストーリー機能を漠然と、ぼおっと見ていたら、ワタクシが所属する事務所が2時間前にストーリーを投稿しているものが流れてきて、目に留まり、観ました。
それは映像で、モデルがショーでウォーキングしている、というもので、
「ほぅ、こんなキャスティングきたっけ。」
パリに居る間にあったキャスティングかな?
と思ったと同時に、
この前受けたショーのキャスティング、本番の日にちは5月31日だったよな、確か。
暑いと言って起きたワタクシ。
タンクトップにパンツのみを着ていたのにも関わらず、汗をかきました。
俗にいう冷や汗です。
慌てて、今日の日付を確認しました。
iPhoneが表示する日付は6月1日でした。
・時すでに遅し
全てを理解した時、ワタクシ後悔で押し潰されそうで、
時間というものがいかに無慈悲か、
過ぎた時間は取り返しがつかず、どうしようもない事であるか、痛過ぎる程に感じました。
ざっくりとおさらいをいたしますと、
《現実》
・帰国
→5月29日
・キャスティングメール到着・確認
→5月31日
・キャスティング当日
→5月31日
《ワタクシの脳内》
・帰国
→5月29日
・キャスティングメール到着・確認
→5月30日
・キャスティング当日
→5月31日
《勘違い》
・その1
キャスティングは
最短で前日だと思い込んでいた
・その2
予定が無い日の連続で
ワタクシの体内日程がズレた。
ワタクシ、
博物館でホロホロと涙を流し、
最高傑作パスタを作り、
早めに寝てる場合じゃなかったんです。
その日は、キャスティング当日だったんですよ!!!!
しかも今までで1番可能性の高い仕事です。
もしかするとこれから先も、です。
本当にバカというか、アホというか。
なんのために努力をして、
なんのためにミラノにきて、
なんのために事務所に所属したんだと。
これによりワタクシは、1週間まるっきりキャスティングが無くなってしまいました。
しかもこれはワタクシだけのデメリットではありません。
すっぽかしによる影響は、
ワタクシ⇔事務所
事務所⇔キャスティング会社
にもマイナスの影響があるわけです。
あいつは一回すっぽかしたからな。
そう事務所に思われるし、
キャスティング会社からは
あそこの事務所のモデルは前にすっぽかした事あるからな。
そう思われる可能性があるわけです。
盛大に、ヤラカシました。
可能性の手札を、自分の実力不足とか、運とか、そういうものとは関係なしに、捨て去ってしまったわけです。
あぁ、なんでワタクシはこんなにバカなのだろう、、、。
もう同じミスはしないし、したくないのは当たり前なので、カレンダーに細かく書き込むという再発防止策を練ったものの、当然の事であり、今更な事であります。
悔やんだって仕方がない。
“時すでに遅し。”
この言葉をここまで実感した事は、
後にも先にもこの日が1番でしょう、きっと。
応援してくれている皆様。
こんなワタクシですけれども、
みすみすミスしてチャンスを逃すワタクシですけれども
懲りずに応援していただけたら幸いです。
呆れず、アホやなアイツ〜、そう思ってください。
併せて、何か丁度良い罰をワタクシに教えてください。
そうでもしなければワタクシは、いてもたってもいられないですから。
誰に言う訳でも無い、
”ごめんなさい。”
その言葉がポロリと口からコロリと落ち、
ふわぁっと、立ち上るタバコの煙と共に大気に紛れていくのでありました。
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